書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『眼の誕生』 アンドルー・パーカー (草思社)

→紀伊國屋書店で購入 副題に「カンブリア紀大進化の謎を解く」とあるように、カンブリア爆発の謎に挑んだ本である。著者のアンドルー・パーカーは1967年生まれの動物学者であり、光スイッチ説を考えだした本人である。 パーカーはカンブリア爆発の本質をこう…

『スノーボール・アース』 ガブリエル・ウォーカー (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 スノーボール仮説とは先カンブリア代に地球が極度に寒冷化し、赤道地帯もふくめて地表すべてが数千メートルの氷におおわれるようなことがすくなくとも一度、最多で四度あったとする仮説で、日本語では「全地球凍結」という。2004年にNHK…

『無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法』勝間和代(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

→紀伊國屋書店で購入 「勉強の楽しさを思い出させる名著」 この1年ほど、仕事のノウハウを紹介した書籍、いわゆる「勉強本」を乱読してきた。「ライフハック」というキーワードで何冊か読み、ノウハウを取り入れた。システム手帳の使い方の解説本も読んだ。…

『質的研究の基礎――グラウンデッド・セオリー開発の技法と手順』アンセルム・ストラウス&ジュリエット・コービン[著]操華子・森岡崇[訳](医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「データを比較する」 質的分析に関して、現在最もシステマティックな方法として提示されているのがグラウンデッド・セオリー・アプローチです。 このアプローチは、B.グレイザーとA.ストラウスによる『データ対話型理論の発見――調…

『スナ-ク狩り』ルイス・キャロル[作] 高橋康也[訳] 河合祥一郎[編] (新書館)

→紀伊國屋書店で購入 虚無の大海もトリヴィア泉の一滴に発す マーティン・ガードナーのファンである。1914年生まれというから、少し頑張ってもらえばめでたい百歳も夢でない。アメリカ版・竹内均先生と大学生に紹介しても、肝心の竹内氏が科学雑誌『ニュート…

『残留日本兵の真実-インドネシア独立戦争を戦った男たちの記録』林英一(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 著者、林英一は、今春大学を卒業したばかりの1984年生まれである。卒業論文や学部学生時代の体…

『生命 最初の30億年』 アンドルー・ノール (紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 もっとも古い生物の化石は35億年前の地層から見つかっているが、それ以降の30億年はあまりぱっとしない。生命が目覚ましい進化を見せるのは5億年前にはじまるカンブリア期からである。この時期、アノマロカリスやハルキゲニアなど、奇々…

『学校は死に場所じゃない』藤井誠二(ブックマン社)

→紀伊國屋書店で購入 「戦うことを教えられない者達はサディストの餌食になる」 この本は、ベストセラーマンガ『ライフ』(講談社・すえのぶけいこ著)に併走して書かれた。著者はノンフィクションライターの藤井誠二。前著『殺される側の論理』(講談社)に…

『共生生命体の30億年』 リン・マーギュリス (草思社)

→紀伊國屋書店で購入 一家をなした科学者が自分のやってきた研究を一般読者向けに解説する「サイエンス・マスターズ」シリーズの一冊である。著者のリン・マーギュリスは連続細胞内共生説(SET)のパイオニアで、天文学者カール・セーガンの最初の妻でもある。…

『サマースプリング』吉田アミ(太田出版)

→紀伊國屋書店で購入 書物になることで救われるもの 著者は「声からあらゆる意味と感情を剥ぎとり音そのものとする、超高音ハウリング・ヴォイス奏法の第一人者」である音楽家。これは、1989年、中学一年生だった彼女の経験した「地獄の一季節のドキュメント…

『ロック母』角田光代(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 描かれるフリーターたちのその後 黒一色に銀文字のタイトルだけ、というロックっぽい扉を開くと、 7篇のタイトルが並んでいる。 そのうち、「ロック母」は昨年、川端康成文学賞を受賞したときに文芸誌で読んでおり、タイトルを見てその…

『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル[作]/ヤン・シュヴァンクマイエル[挿画](エスクァイアマガジンジャパン)

ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展~アリス、あるいは快楽原則~ 2007.8/25(土)~9/12(水)11:00~20:00 (最終日~18:00) ラフォーレミュージアム原宿 TEL.03-3475-0411 →『不思議の国のアリス』を購入 →『鏡の国のアリス』を購入 動きだす絵、それ…

『中田英寿 誇り』小松成美(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](28) 中田英寿の右足から繰り出されるアーリークロスが忘れられない。 16歳の彼はまだ胸板の薄い、あどけなさを残した少年に過ぎなかった。周りに使われ、右タッチライン沿いをゴムまりのように疾駆する姿はまるで…

『古本暮らし』荻原魚雷(晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 三十男の古本暮らし 著者は学生時代から雑誌の編集やライターをし、現在は新聞社でアルバイトをしながらの執筆生活。出版社勤めの妻にかわって主夫もこなす。洗濯、掃除、ゴミ出し、布団干し、買い物、晩ご飯の支度、あとかたづけ、なん…

『体位の文化史』 アンナ・アルテール、ペリーヌ・シェルシェーヴ[著] 藤田真利子、山本規雄[訳](作品社)

→紀伊國屋書店で購入 「エロティックなサーカス」の俗流マニエリスム 「古今東西の性典や史料を蒐集し、すべての体位と性技の歴史を辿った、世界初の“体位の文化史”」と帯に謳われては、「文化史」の権威と呼ばれるぼくとしては、この一冊、目を通さずにはす…

『本へ!』羽原肅郎(朗文堂)

→紀伊國屋書店で購入 「愛、愛、愛の本!」 活版印刷機「Adana-21J」の販売とその使い方や楽しみを伝えるアダナ・プレス倶楽部を今年新たに立ち上げた朗文堂から、「造形者と朗文堂がタイポグラフィに真摯に取り組み、相互協力による」“Robundo Integrate Bo…

『アッシジのフランチェスコ : ひとりの人間の生涯』キアーラ・フルゴーニ(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「修道士らしからぬ修道士」 サンフランシスコにいたるまで、西洋ではフランシス、フランシスコなどの名前は好まれているが、その由来はアッシジのジョバンニ・ディ・ベルナルドーネという名前の息子を、商人だった父親がフランチェスコ…

『研究計画書の考え方 大学院を目指す人のために』 妹尾堅一郎(ダイヤモンド社)

→紀伊國屋書店で購入 「論文を書いたことがない人にも、分かりやすく丁寧な解説書」 まずは、日本電子出版協会(JEPA)第一回電子出版賞の部門賞、 オリジナル・サービス賞の受賞を祝って。 《書評空間》のスタッフの皆さん、そして評者の先生方、 おめでと…

『モスラの精神史』小野俊太郎(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 人的交流というメタモルフォーゼ 近時、これほど驚き入った本はない。新書なのに戦後日本の政治と文化の関係を考えるエッセンスを余さず凝集してみせようという覇気が凄いが、それを映画銀幕に飛翔した一匹の巨大蛾の意味論をもって語り…

『古代マヤ 石器の都市文明』青山和夫(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「劇場社会マヤ」 国立科学博物館で「インカ・マヤ・アステカ展」が始まった。日本初公開の210点の「秘宝」が公開されるのだという。七月一四日から九月二四日まで。暇があればぜひ見てみたい。NHKでも三回の特集の放映が終わったようだ…

『I was Vermeer』Frank Wynne(Bloomsbury)

→紀伊國屋書店で購入 「フェルメールの雁作を作り続けた男」 僕が大学生をやっていたボストンにイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館という美術館がある。小さいながらもボッティチェリ,ラファエロ、レンブラント、ミケランジェロ、ドガなど優れた作品…

『文字の母たち』港千尋(インスクリプト)

→紀伊國屋書店で購入 活字の生まれ育った場所 読めない文字に囲まれたり、思いどおりに字が書けなかったりしたとき、 文字が生き物じみて感じられることがある。 意味がはがれて形として文字が迫ってくる、 スリリングな瞬間だ。 本書は文字がいまある姿をと…

『京都料亭の味わい方』村田吉弘(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「料亭は「大人のアミューズメントパーク」」 フランスに住んでいると、日本から来る知人に「いつもフランス料理を食べているんですか。」と、よく聞かれる。妻がフランス人であればそういう事もあり得るだろうが、私の伴侶は日本人で東…

『憲法9条の思想水脈』山室信一(朝日新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「本書を読み終えられて、「やっと人類はここまで来たのか」という感想をもたれた方と、「やは…

『レンブラントのコレクション-自己成型への挑戦』尾崎彰宏(三元社)

→紀伊國屋書店で購入 サムライの兜をレンブラントが描いた秘密 アインシュタインの再来といわれながら東大全共闘議長ゆえ野に在る傑物、山本義隆の前著『磁力と重力の発見』(〈1〉古代・中世/〈2〉ルネサンス/〈3〉近代の始まり)を読んで、もし野になけ…

『タイコたたきの夢』ライナー・チムニク(パロル舎)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 童話屋さんのが絶版になっていてさびしく思っていたけれど数年前パロル舎から復刊。 今でもなんとか買える本らしいです。 よかった。細々とでいいから売っててね、紀伊國屋さん。 ライナーチムニクの本は「クレーン…

『旅の時間』吉田健一(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「緩やかに在るということ」 今年は、吉田健一没後30年にあたる。昨年は「ユリイカ」での特集など企画されたが、吉田健一の作品群は、現在、軒並み絶版となっている。手軽に入手できるもののなかに『時間』というエッセイがあるが、その…

『中世の死 : 生と死の境界から死後の世界まで』ノルベルト・オーラー(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「中世の死の諸相」 本書は、アリエスの『死を前にした人間』に強い影響をうけて、中世のヨーロッパにおける死のさまざまな諸相と、死を前にした人々の姿勢を考察したものである。中世においては「主よ、疫病、飢餓、戦争から我らを守り…

『先生とわたし』四方田犬彦(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「怒る読者」 この本を読んで怒っている人が結構いるそうである。理由は、少しずつ違うらしい。でも、読まされてしまったら負けだよな、という本でもある。何しろ、すごい筆力なのだ。 本書は由良君美という英文学者を扱った評伝である…

『自然の占有-ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化』 ポーラ・フィンドレン[著] 伊藤博明、石井朗[訳] (ありな書房)

→紀伊國屋書店で購入 英語でキルヒャー 「驚異の部屋」は基本的に珍物(curiosities)蒐集に凝りあげる好奇心の問題だから、研究書は自ずからカラー図版満載の美麗書となる。かつて平凡社の記念出版で、ほとんどコスト無視してエリーザベト・シャイヒャーの…