書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『きれいな風貌 西村伊作伝』黒川創(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 カバーをみてまず驚いた。日露戦争の徴兵を逃れるようにして、シンガポールに滞在していたときの写真の彼は21歳である。日本人離れした面立ち、民族衣装に身をつつんだすらりとした立ち姿はなるほど「きれいな風貌」だ。 2002年に開催さ…

『放送禁止歌』森達也(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「「思考停止」に陥らないための一冊」 「バカ! どんな理由があろうとなあ、歌ったらアカン歌なんて、あるわけないんだ! この銀河系のどこ探してもなあ、天体望遠鏡で見渡してもなあ、そんなものはどこにもないんだよ!」~映画『パッ…

『鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町』青木栄一(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 「なぜJR中央線はまっすぐなのか」 以前、通勤で使っていたJR中央線に乗っていて、いつも思うことがあった。「この線はなんと乗り心地がいいのか」と。ちょうど旧型から最新型へと、車両の置き換えが済んだ時期だったということもあった…

『一匹と九十九匹と』うめざわしゅん(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「2000年代を代表する「生きづらさ系マンガ」」 久しぶりに凄いマンガを読んだ。知り合いの編集者に勧められたのだが、ただちに他の作品を読みたくなった。だが、まだ2作しか刊行されていないという(単行本としては、本作とデビュー作…

『アスペルガー症候群』岡田尊司(幻冬舎新書)

→紀伊國屋書店で購入 「アスペルガー症候群は天才予備軍」 ある時、試験問題を作っていると、学校のスクールカウンセラーからメールが届いたことがあった。ある生徒の試験問題について、白い紙ではなく黄色い紙に問題をプリントして欲しいというものだった。…

『アルシテクスト序説』 ジェラール・ジュネット (書肆風の薔薇)

→紀伊國屋書店で購入 ジュネットのテクスト論三部作の最初の本で、アルシテクストとはテクストの原型というほどの意味である。ジュネットは文学テクストの原型がいくつあり、文学の場がどのように分割されるかを論じている。つまりはジャンル論ということに…

『ブスがなくなる日―「見た目格差」社会の女と男』山本 桂子(主婦の友社)

→紀伊國屋書店で購入 「驚くほどわかりやすい「ブス論」」 あまりに、ひねりがない書評のタイトルをつけてしまった。だが、それほどに本書の記述は明確で、その主張は分かりやすい。 ブスとは一体何か。 「常識」にしたがうならば、物理的に顔の造作の美しく…

『可視化された帝国-近代日本の行幸啓』原 武史(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「想像の共同体」ではなく「可視化された帝国」」 「目からウロコが落ちる」という言葉があるが、私にとって、本書を読んだ時の感想もそれに近いものがあった。 本書の骨子は、ベネディクト・アンダーソン流の「想像の共同体」論を、…

『ミモロジック―言語的模倣論またはクラテュロスのもとへの旅』 ジェラール・ジュネット (書肆風の薔薇)

→紀伊國屋書店で購入 井上ひさしの『私家版 日本語文法』に「n音の問題」というおもしろい説が出てくる。英語のNo、not、フランス語のNon、ne、ドイツ語のNein、nichit、日本語の「ぬ」、「ない」のように否定や拒絶の表現はなぜか n音が担うことが多いが、…

『臍の緒は妙薬』河野多惠子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 四つの短編が収められている。 表題ほか二編はそれぞれ、一風変わった物事にとらわれ、それを追求しようとするあまり、少々常軌を逸した行動にでる女性を描いた物語だが、巻頭の「月光の曲」だけは他とはかなり趣がことなる。 「月光の…

次回フェア予告

2011年ピクウィック・クラブ企画フェア。 第一弾「ピクベス! 2010」 第二弾「文学博覧会'11」 そして―― 乞うご期待です。 なお開催中の「ブンパク'11」は5/31まで。お急ぎ下さい。

『I’m over All That』 Shirley MacLaine(Atria Books)

→紀伊國屋書店で購入 「女優シャーリー・マクレーンのエッセイ集」 今年77歳になるハリウッド女優シャーリー・マクレーンのエッセイ集。歳を重ね、自分の人生で何が大切で何がいらないかを語る約50のエッセイが収められている。 以前は大切に思っていた…

『考える力が身につく社会学入門』浅野智彦編(中経出版)

→紀伊國屋書店で購入 「パワーアップした社会学入門テキスト」 今回は、以前の当ブログ(2005年11月 )で取り上げた『図解 社会学のことが面白いほどわかる本』のリニューアル版とでも呼ぶべき本をご紹介します。 前作『図解~』について、「あまり根気のな…

『日本の迷走はいつから始まったのか-近代史からみた日本の弱点』小林英夫(小学館新書)

→紀伊國屋書店で購入 歴史叙述は、なんのために語るかによって、その時間と空間の設定が変わってくる。当然、歴史学の研究者は、あるゆる時間と空間の組み合わせを考えたうえで、もっとも効果的に語ることのできるものを選ばなければならない。しかし、現実…

『これがビートルズだ』中山康樹(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「「ア―――ドンノオ」としてのビートルズ体験」 無茶である、と最初は思った。かつて本屋で本書を見かけたときは、馬鹿げているとさえ思って無視してしまった。何しろビートルズが発表した全公式曲213曲をその録音順に、すべて新書版1頁…

『若者の現在 政治』小谷敏 土井隆義 芳賀学 浅野智彦【編】(日本図書センター )

→紀伊國屋書店で購入 「政治の観点から見た若者・若者論の現在」 若者に関連する本の出版が相次いでいる。若年雇用環境の悪化に関する議論がひとしきり行われ、「可哀想な若者が増えつつある」ことは広く人々に知られることとなった。ではどうするか、という…

『大地動乱の時代』石橋克彦(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「次は、東海と関東の大震災に備えるしかない」 福島原発の放射能漏れが続いている中、冷静に事態を捉えるために、いま読むに値する一冊である。震災と原発事故が重なると、未曾有の災害になる。地震大国日本で原発は危険である、と警鐘…

『震える舌』三木 卓(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「詩人の目」 『震える舌』は、詩人であり小説家でもある三木卓氏が1975年に発表した長編小説だ。幼稚園児だった愛娘が破傷風にかかったときの実体験をもとに、娘の闘病を父親の視点から描いたものなのだが、さすが「詩人の目」とでもい…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ/岸本佐知子訳(新潮社)<br>『No One Belongs Here More than You』Miranda July(Scribner)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「いきなり筆で」 遅ればせながらミランダ・ジュライである。この本、かの「キノベス」でも堂々一位に輝き、すでにあちこちで話題になっている。しかし、こうした熱烈な反応、実は筆者にはやや意外だった。というの…

『高峰秀子との仕事〈1〉初めての原稿依頼』<br>『高峰秀子との仕事〈2〉忘れられないインタビュー』斎藤明美(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 昨年の大晦日に飛び込んだ訃報に目を疑った。遂にそのときが来てしまった。その八十六年の生涯の最後のほんの少しだったけれど、暇さえあればその出演映画を観て歩き、著書の多くを読み耽った「最後の大女優」が永…

『Documentary』中平卓馬(AkikoNagasawaPublishing)

→紀伊國屋書店で購入 「中平卓馬の写真をめぐって(その2)」を書こうと思ううちに、日がたってしまった。「その1」を出したのは3月下旬だが、最近、ある場所ではじめてお会いした方から「その2」はいつでるのですか?と尋ねられて、あせった。こんなところ…

『東南アジア現代政治入門』清水一史・田村慶子・横山豪志編著(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「日本とも関係が深く、多様性にみちた東南アジアには、いかなる特色があるのだろうか。本書は、各国の独立から国民国家建設、民主化、経済発展へといたる道筋をたどり、アジア経済危機のインパクトとその後の体制変動を明快に概観する…

『The White House Connection』Jack Higgins(Penguin Group)

→紀伊國屋書店で購入 「ミッド・アトランティック英語を楽しめるサスペンス」 ミッド・アトランティックという英語がある。和洋折衷という表現があるけども、こちらは英米折衷の言葉、つまりイギリス英語とアメリカ英語の中間を意味する。ニューヨークに住ん…

『原子炉時限爆弾』広瀬隆(ダイヤモンド社)

→紀伊國屋書店で購入 「大地震におびえる日本列島──日本に住むすべての人にいま一番伝えたいこと」 未曾有の大地震、東日本大震災の揺れと津波が引き起こした福島原子力発電所の事故は、自然の力の圧倒的なパワーと、人知によって制御できることの限界とを私…

『国旗・国歌・国慶-ナショナリズムとシンボルの中国近代史』小野寺史郎(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 ナショナリズムとシンボルとの関係を理解することは、各国の近代国民国家の形成を考察するための基本のひとつであり、どの国でも研究され、その成果は歴史教科書にも載っている。著者、小野寺史郎は、終章をつぎのように書き出している…

『天空の蜂』東野圭吾(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「蜂の教訓は何か?」 「想定外」という言葉が随分目に付く。津波の被害の「想定外」は天災だが、原発の「想定外」は人災だとも言われている。私たちの想像力はそれ程衰えているのだろうか。だとしたらどうすれば「想定外」などという語…

『The Future of Life』Edward O. Wilson(Knopf Doubleday)

→紀伊國屋書店で購入 「自然科学分野の名著」 僕は大学時代から、必要に迫られ英語の本を原書で読むようになった。アメリカの大学に入っていたので、当たり前と言えば当たり前だ。 教科書や課題図書のほかにも、好きで読む文学作品やノンフィクション作品も…

『全貌ウィキリークス』ローゼンバッハ,マルセル シュタルク,ホルガー【著】 赤坂 桃子 猪股 和夫 福原 美穂子【訳】(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「ウィキリークスの実態紹介」 朝日新聞が、沖縄の米軍普天間基地移設に関係する、海兵隊のグアム移転費用を水増しする「密約」が存在していたことなどを、アメリカ外交公電から暴露する報道を行った。Wikileaks(以下WL)が2010年に入…

『コーチKのバスケットボール勝利哲学』マイク・シャシェフスキー/ジェイミー K・スパトラ(イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 本書『コーチKのバスケットボール勝利哲学』は、アメリカの大学バスケットボールNCAAのデューク大学ヘッドコーチ、「コーチK」ことマイク・シャシェフスキーの本である。デューク大ではNCAAチャンピオン4回、レギュラーシーズン通算90…

『勤めないという生き方』森健(メディアファクトリー)

→紀伊國屋書店で購入 「「どうしてもしたいこと」と「とりあえず生活を支えること」の間」 地方都市における町おこしについて調べているうちに本書を知った。私が興味をもったのは、島根県の離島、隠岐島の海士町でベンチャー起業を創業した、(株)巡の環の代…