書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『鬱ごはん』施川ユウキ(秋田書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「個食化した自己」 本作は、主人公である就職浪人生・鬱野たけしが、一人ぼっちで鬱鬱としながら食事をとるそのプロセスばかりを描き出したマンガである。 今月(2013年7月)に紹介したマキヒロチ氏の『いつかティファニーで朝…

『白書出版産業2010』日本出版学会(文化通信社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「出版の大転換期を考えるための「事典」」 本書は、2004年に日本出版学会によって出された『白書出版産業』の続編、または改訂版にあたるものである。前作が1990~2002年の間の変化を対象としていたのに対して、本書は1999~20…

『いつかティファニーで朝食を』マキヒロチ(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「28歳・朝食女子」たちの群像」 これもいいマンガだった。正直に記せば、あまり深く考えずに「衝動買い」したのだが、大当たりだったと言ってよい。いや、正確に言えば、評者は食べることが大好きなので、タイトルに「朝食」…

『君曜日-鉄道少女漫画2』中村明日美子(白泉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「鉄道少年と鉄道少女のさわやかラブストーリー」 いいマンガである。久しぶりに爽快な読後感を味わった。 本作は、中村明日美子による鉄道少女漫画の2作目であり、前作同様、小田急線沿線に住む、登場人物が織りなすラブストー…

『一つの太陽-オールウエイズ』桜井由躬雄(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「大緊張をもって読ませていただきました。最も強く感じた事は、結局、貴君だけが、まともに地域学をやったのだ、ということです」。本書は、タイ国日本人会の会報紙『クルンテープ』2010年11月号~2012年11月号に連載された「…

『暴力はどこからきたか』 山極寿一 (NHKブックス)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 近年、母親の彼氏による児童虐待や子殺しが増えている。ガールフレンドの子供をうるさがるくらいなら子供嫌いの延長かなと思わないではないが、実の子と義理の子がいると、実の子は猫かわいがりするのに義理の子には食べ物を食…

『ヒトの心はどう進化したのか』 鈴木光太郎 (ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ヒトはチンパンジーとの共通祖先から600万年前にわかれ、独自の道を歩みはじめたが、1万年前に農耕牧畜生活をはじめるまでは狩猟採集生活をつづけていた。600万年を24時間に見立てると、農耕牧畜時代は最後の2分半にすぎず、そ…

『対訳 ディキンソン詩集』エミリー・ディキンソン作・亀井俊介編(岩波文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ディキンソンの性格」 筆者は、ディキンソンという詩人は昔からどうも苦手だった。頑固でマイペースなのはいいとして(詩人なんてだいたいそうだ)、言いたいことがあるわりにいつまでも口をつぐんでいて、こっちが「どうかな…

『脳に刻まれたモラルの起源』 金井良太 (岩波科学ライブラリ-)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 道徳は長らく理性の働きと考えられてきたが、18世紀英国で同情心や共感といった感情の働きに根ざすという道徳感覚説が登場した。ハッチソン、ヒューム、アダム・スミスらで、特にヒュームは道徳を情念の働きと見なした。 高級な…

『ホテルローヤル』桜木紫乃(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「登場人物の同伴者としての作家」 石川啄木は「石もて追われ」た故郷であっても、やはり懐かしくてたまらなく、故郷の方言を聞くために上野駅に行ったことを詠んでいるが、「ふるさと」とは誰にとっても多かれ少なかれ重要な場…

『対岸』百々新(赤々舎)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「カスピ海を巡る5つの国の旅」 カスピ海が世界でいちばん大きな湖なのは知っていても、そこにいくつの国が面していて、それがどこの国なのかを言い当てられる人は少ないのではないか。 解答と言うと、東から時計回りに、トル…

『ペコロスの母に会いに行く』岡野雄一(西日本新聞社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「可愛い老人の物語」 日本は言わずと知れた長寿国である。しかし、同時にそれは老人大国である事も意味している。どんどん増えていく老人と比較すると、それを支える若者は逆に年年減少している。年金制度は破綻しかけ、日々の…

『年金制度の正しい考え方――福祉国家は持続可能か』盛山和夫(中央公論社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「年金制度をきちんと考えるために」 年金制度について、最近、指導する学生の中に関心を寄せる者が出てきています。また、先日、私が所属する富山大学人文学部の1年生を対象とした授業で、特別企画として、日本年金機構スタッ…

『アベノミクスは何をもたらすか』高橋伸彰 水野和夫(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アベノミクスは日本を救うのか」 先日の参議院選挙での自民党圧勝によって「アベノミクス」は信任されたのだろうか。勝ったほうは当然そう吹聴するだろうが、アベノミクスの内容をめぐっては、専門家の間でも意見が分かれるの…

『パプア-森と海と人びと』村井吉敬(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今年、白木蓮が散りはじめた3月23日、家族らが見守るなか、著者の村井吉敬は息を引き取った。69歳。その1ヶ月前の2月22日に、著者はカトリックの洗礼を受け、洗礼名フランシスコ・ザビエルを選んだ。4月8日、葬儀ミサ・お別れ会…

『<small>哲学の歴史 別巻</small> 哲学と哲学史』 中央公論新社編集部編 (中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本哲学界の総力をあげて編纂された『哲学の歴史』の別巻である。 10ページにわたる全12巻の総目次と170ページにわたる総索引、40ページにわたる1700年以降の総年表(18世紀をあつった第6巻以降は言語圏別の編集になるため、各…

『Every Tongue Got to Confess : Negro Folk-Tales from the Gulf States 』Zora Neale Hurston(Perennial)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「民俗学者ハーストンが集めた黒人口承民話集」 ゾーラ・ニール・ハーストン。1920年代をニューヨークで過ごし、黒人作家ラングストン・ヒューズや、人類学者のフランツ・ボエズなどとも親交があり、ハーレムルネサンスの担…

『エーリヒ・クライバー 信念の指揮者 その生涯』ジョン・ラッセル(アルファベータ)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「信念を貫いた指揮者の生涯」 ウィーン生まれの名指揮者エーリヒ・クライバー(1890-1956)は、いまでは、カルロス・クライバー(1930-2004)の父親として触れられることが多いが、生前はベルリン・シュターツオーパーの音楽総監督…

『講談社現代新書 野心のすすめ』林 真理子(講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『野心のすすめ』というタイトルを見た瞬間、何年も前からぐつぐつ煮えていた正体のわからない衝動にやっと名前がついたような気がしました。この本が売れているということは、私以外にもそういう人がたくさんいたということで…

『あなたに似た人』ロアルド・ダール(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ノスタルジックな毒見」 先月、「マチルダ」を観た。ロンドンからブロードウェイに上陸し、新大陸でもトニー賞獲得の大成功を収めた、ダール原作のミュージカルだ。満員御礼、最後のチケット獲得に快哉の声を挙げたのも束の間…

『新・ローマ帝国衰亡史』南川高志(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「これはすごい!」、まずそう思った。本書のタイトルの「新」の後に「・(ナカグロ)」がある。その意味を問い、理解することが本書の価値を知ることになるとも思った。 表紙裏開きに、つぎのような要約がある。「地中海の帝国…

『李康白戯曲集 ホモセパラトス』李康白著、秋山順子訳(影書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 <劇評家の作業日誌>(63) 韓国を代表する劇作家・李康白(イ・カンベク)氏が来日し、池袋の劇場で講演会を行なった(6月25日)。今回の来日は、彼の戯曲集『ホモセパラトス』の刊行を祝ってのものである。 講演の中で氏…

『皮膚感覚と人間のこころ』傳田光洋(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「なぜ他人に触られると気持ちいい?」 私たちはときに「やっぱり皮膚感覚が大事だよね」などと口にする。まるで「皮膚感覚」がハードな学問や綿密な思考よりも上位に立っているかのように。しかし、そのような言い方で「皮膚感…

『お墓に入りたくない! 散骨という選択』村田ますみ(朝日新聞出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 人生には、年を重ねてこそ初めてわかることがある。心意気はまだ若くても、体力の衰えを実感するようになり、心配事が増えてくる。二十代の頃には想像できなかった現実にいやおうなく直面させられるのだ。たとえば、なってみな…

『日本経済の憂鬱―デフレ不況の政治経済学』佐和隆光(ダイヤモンド社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「経済学者の批判精神」 佐和隆光氏(滋賀大学学長)の新刊(『日本経済の憂鬱』ダイヤモンド社、2013年)を久しぶりに手にとった。学長職は激務である。京都大学教授時代は年に数冊の本が出ていたが、さすがに最近はあまり本を…

『Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage 』Alice Munro(Vintage Books)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アリス・ムンロの短編集」 もう随分昔の話だが、僕がカナダ人作家、アリス・ムンロの名前を知ったのは、ジョン・アービングやニック・ホーンビイといった僕の好きな作家のインタビュー記事からだった。 ホーンビイはよく読む…

『ぼくは「しんかい6500」のパイロット』吉梅剛(こぶし書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 著者に取材させていただいたのはちょうど2年前。吉梅さんは日本が誇る有人潜水調査船「しんかい6500」の潜航長を務めておられました。短編映像「有人潜水調査線_しんかいの系譜」でインタビューに答えていらっしゃったお姿…

『捕虜が働くとき-第一次世界大戦・総力戦の狭間で』大津留厚(人文書院)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「第一次世界大戦を通じて捕虜の数は九〇〇万人ほどと考えられている」。そして、帯には、「敵国のために働くとは?」とある。これまで考えが及ばなかった領域に足を踏み入れる予感があった。 「おわりに」で、本書の意義につい…

『家と庭と犬とねこ』石井桃子(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 私は、元来、巾のせまい人間で、清濁あわせ呑むというわけにはいかないので、じぶんでもこまったものだと思っているけれど、こんな人間にとって、じぶんと波長のあう友人、波長のあう本を見いだしたときの喜びは、格別である。 …

『スウィング・ジャパン―日系米兵ジミー・アラキと占領の記憶』秋尾沙戸子(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 いったい何人の日本人がジミー・アラキ(James T. Araki) の名前を知っているだろうか。日本の戦後期にスウィング・ジャズやビ・バップを広めたジャズ奏者として? それともノーベル文学賞候補にもなった井上靖の欧米における…