書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『醜の歴史』 エーコ (東洋書林)

→紀伊國屋書店で購入 『美の歴史』の姉妹編である。造本もレイアウトも『美の歴史』を踏襲した画集・詞華集となっているが、ひとつ異なる点がある。本文の活字が一回り小さいのだ。『美の歴史』は 1行33字だったが、こちらは 1行に36字詰めこんでいる。あて…

『ふしぎ盆栽ホンノンボ』宮田珠己(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ハノイのホテルのテラスで、著者はそれふと目にしたのだった。タイルばりの洗い桶風のものに水がはられ、そこに設置された岩のところどころには植物が生えており、あちこちに陶器製のミニチュアの建物や人形が配置されている。 このとき…

『私の居場所はどこにあるの?』藤本由香里(朝日文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「今こそ読み返すべき、少女マンガ論の古典として」 本書は、いまさら改めて紹介するのも戸惑われるほどによく知られた少女マンガ論の名著である。 個人的な思い出を記せば、1990年代中盤に、私が在籍していた北海道の大学で、女性とメ…

『漁師の食卓』魚見吉晴(ポプラ社)

→紀伊國屋書店で購入 「瀬戸内海の魚と伊予弁を存分に味わえる一冊」 本書は、夕日が美しいことで知られる愛媛県双海町(現伊予市)で漁師をしながら、季節料理店「魚吉」を経営する著者が、季節ごとの魚の美味しい食べ方を紹介したものである。いわゆるグル…

『ねむれ巴里』金子光晴(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「巴里の光と影」 今パリには旅行者を除いても、常時2万人以上の日本人が滞在しているらしい。在仏日本人会も機能しているし、日本料理店は1千軒ほどもあるようだ。最もその9割以上は、日本食ブームに乗りたい輩の経営する「和食もど…

『O : A Presidential Novel』Anonymous(Simon & Schuster)

→紀伊國屋書店で購入 「作者不明の2012年大統領選を題材にした小説」 アメリカは来年には大統領選を迎える。すでに選挙に向けてのいろいろな動きが表面化している。民主党は現職のオバマ大統領が2期目を狙うが、問題は共和党が誰を大統領候補として選ぶかに…

『美の歴史』 エーコ&デ・ミケーレ (東洋書院)

→紀伊國屋書店で購入 エーコが美術史家のジローラモ・デ・ミケーレとともに編纂した西洋三千年の美の歴史である。450ページ近い大冊に300点以上の大判のカラー図版がひしめいており、美しい印刷、ゴージャスな装丁、ずしりとした重さと所有欲を満たしてくれ…

『記号論と言語哲学』 エーコ (国文社)<br />『テクストの概念』 エーコ (而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 エーコの記号論を二冊紹介しよう。 エーコは記号論関係の本をたくさん書いているが、中心となるのは記号論三部作と呼ばれる『記号論』、『物語における読者』と今回とりあげる『記号論と言語哲学』である。 『記号…

『きことわ』朝吹真理子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「緻密な思考と言葉への信頼の高さが圧倒する」 『きことわ』というタイトルがまず気になった。音の響きにもひらがなの文字にも、こちらの心をかすかに揺らすものがある。聞こえているようで聞こえない声、見えるようで見えない影、気配…

『演奏者勝利学 実践ノート』辻秀一(ヤマハムックシリーズ90)

→紀伊國屋書店で購入 「ベストパフォーマンスを引き出すために」 2009年9月に紹介した『演奏者勝利学』はその後も順調に売上を伸ばし、楽器店の書棚に欠かせない存在となっているようだ。その続編として『演奏者勝利学実践ノート』という冊子が出版された。…

『ソラニン』浅野いにお(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「「終わりなき日常」から文化を創造する可能性、あるいは「若者=格差社会論」へのオルタナティブとして」 本書は、映画化もされた浅野いにおの代表作である。1巻と2巻からなる短い作品だが、今日の若者文化を描いた作品としては、屈…

『定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』三戸 祐子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「「あたりまえ」を疑うところから社会を見つめなおす」 「この列車、ただいま○○駅を1分遅れて発車いたしました。お急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけいたしますことをお詫びいたします。」 これは、ある日の帰宅時に、私が実際に聞い…

『セレンディピティー―言語と愚行』 エーコ (而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 ウンベルト・エーコは多くの本を出しているが、主著から派生した著作がすくなくない。いわば二番煎じ本である。 二番煎じとはいっても、エーコの場合はそれなりの存在理由がある。まず主著では使わなかった材料を用いて主著とは違った視…

『ウンベルト・エコとの対話』 シュタウダー&エーコ (而立書房)<br />『不信の体系』 コトロネーオ (而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 ウンベルト・エーコを論じた本を二冊紹介しよう。 一冊目、シュタウダーの『ウンベルト・エコとの対話』は第一章が『薔薇の名前』論、第二章以降がエーコへのインタビューという構成になっている。 シュタウダーは…

『ウンベルト・エコ インタヴュー集』 エーコ他 (而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 「記号論、「バラの名前」そして「フーコーの振り子」」と副題がついていることからわかるようにエーコの三本のインタビューをまとめた本であるが、おそらく日本で独自に編集したものだろう。 おそらくと書いたのは本書の出自が謎だから…

『 I Am Ozzy 』 Ozzy Osbourne, Chris Ayres(Grand Central)

→紀伊國屋書店で購入 「オジー・オズボーンの回想録」 ニューヨークのアパートのカウチに寝転び、チャンネルサーフィングをしていると、画面にオジー・オズボーンが彼の息子と一緒に現れた。これはMTVが企画したリアリティ・ショー番組で、オズボーン一家の…

『日本軍の治安戦-日中戦争の実相』笠原十九司(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、「プロローグ」の最後に目的が書かれ、「あとがき」では明らかにしたことを3つにまとめ、2つの問題を指摘していてわかりやすい。 目的は、つぎのように書かれている。「日本軍が華北を中心に展開した治安戦においてどのようなこ…

『バウドリーノ』 エーコ (岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 ウンベルト・エーコは北イタリアのピエモント州アレッサンドリア市に生まれた。彼はピエモント人であることを誇りにしていて、故郷のアレッサンドリアにもなみなみならぬ思いいれをもっているらしい。このほど翻訳…

『アフリカのひと 父の肖像』ル・クレジオ(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「父の肖像に見る自己の姿」 まだフランス語もできなかった頃、なぜかフランス文学が好きだった。シュールレアリストたちや、アラン・ロブ・グリエ、フィリップ・ソレルス、ミシェル・ビュトール等のヌーヴォー・ロマンの作家たちの作品をよ…

『大学生の論文執筆法』石原千秋(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「論文執筆のホンネとタテマエ」 論文の書き方を教えるのは難しい。「大人」の批評家や研究者だって、自分がどうやって論文や批評を書いているのかわからないことがあるだろう。というか、そもそも「よくわからないけど書けてしまった」…

『フーコーの振り子』 エーコ (文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 本書は1988年に発表されたウンベルト・エーコの長編第二作である。 17年前、邦訳が出た直後に読みかけたが、夜の博物館の中をうろうろする条で放りだしてしまった。次から次へと出てくる展示物が意味ありげで、いち…

『臨床の詩学』春日武彦(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「なぜ詩と精神科の臨床現場は相性がいいのか?」人に面と向かって「嫌いです」と言うことはないけれど、だれかと話していてそういう話題になることはあるだろう。しかも酒が入っていたりすると、「あの人、ちょっと苦手」と言うつもり…

『逝きし世の面影』渡辺京二(平凡社ライブラリー)

→紀伊國屋書店で購入 「逝きし世の面影は、きっと未来に蘇る」 飛び切りの面白さだ。とても驚いた。幕末から明治初期にかけて日本を訪問した西洋人たち(日本アルプスの紹介者・宣教師ウェストン、大森貝塚で有名な動物学者モース、女性探検家バードなど)が…

『物語としてのアパート』近藤祐(彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 「乃木坂倶楽部」は、萩原朔太郎が妻・稲子との離婚後、ふたりの娘を連れ郷里の前橋に戻るも、ふたたび単身上京した昭和四年の末、ほんのひと月半をすごしたアパートである。彼はのちにそのときのことを詩に書いたが、著者は詩のなかに…

『複合戦争と総力戦の断層-日本にとっての第一次世界大戦』山室信一(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 本書で、著者、山室信一は新たな一歩を踏み出そうとしている。京都大学人文科学研究所の共同研究「第一次世界大戦の総合的研究に向けて」は、開戦100周年にあたる2014年に最終的な成果を世に問うことを目標として、2007年にスタートした…

『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「今、「正義」を問いただす」 昨年(平成22年)の上半期も終わりに近づいた頃、1冊の本が正に「革命的」とも言うべき一大ムーブメントを起こした。 ハーバード大学教授マイケル・サンデル氏が、自身が大学で講義する政治哲学の授業…

ピクベス!2010 番外編

「ピクベス!2010」ランキング30も発表し終えたところで、今度はゆるーく番外編です。 今回のフェアは二本立て。 ひとつは先日発表させていただいたランキング。 そしてもうひとつが「2010年にピクウィック・クラブを騒がせた本」です。 こちらは既刊あり、絶版…

『カブラの冬-第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』藤原辰史(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 著者、藤原辰史は悩む。世界全体で飢餓人口9億2500万と試算される現状のなかで、「ヨーロッパの一国が一時期体験したにすぎない飢餓の事実は読者の目にあまりに小さく映るのではないか」。「経済大国ドイツの飢餓の状況を経済大国日本で…

山尾悠子さん特別寄稿エッセイ

こんにちは。今回は、「ピクベス!2010」ランキング第1位とさせていただきました『夢の遠近法 山尾悠子初期作品選』(国書刊行会)の著者である、山尾悠子さまより特別寄稿していただいた「夢の遠近法あるいは書店熱のこと」というエッセイを公開させていた…

『日本人が知らないウィキリークス』小林 恭子 白井 聡 塚越 健司 津田 大介 八田 真行 浜野喬士 孫崎 亨(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「多角的なウィキリークスの入門書」 2010年、メディアの世界で最大の話題の一つとなったウィキリークスであるが、いまでもその内実をよく分からない人間は、私自身を含めて多いだろう。本書は、分野を異にする7人の論者たちが、このウ…