書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-01-01から1年間の記事一覧

『安部公房伝』 安部ねり (新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 安部公房の一人娘、ねり氏による父親の伝記である。 実の娘というだけでなく、日本の全集のレベルを越える完全編年体の精緻な『安部公房全集』を編纂した人の書いた伝記だけに、資料的価値が高いことはいうまでもない。さまざまな年譜や…

『安部公房の“戦後”植民地経験と初期テクストをめぐって』 呉美姃 (クレイン)

→紀伊國屋書店で購入 韓国人の安部公房研究者が東大に提出した博士論文をもとにした本である。鳥羽耕史氏の『運動体・安部公房』の二年半後に出た本であるが、『終りし道の標に』から『砂の女』までとあつかっている時代が重なっているだけでなく、政治運動…

『運動体・安部公房』 鳥羽耕史 (一葉社)/『1950年代』 鳥羽耕史 (河出ブックス)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 安部公房の年譜を眺めていると20代から30代にかけて「夜の会」とか「綜合文化協会」、「世紀の会」、「人民芸術集団」、「現在の会」、「記録芸術の会」といったグループに属していたとある。参加者は小説家、評論…

『Boomerang』Michael Lewis(W W Norton )

→紀伊國屋書店で購入 「ヨーロッパの財政危機が分かる本」 ブラッド・ピット主演で日本でも公開された「マネー・ボール」。その原作を書いたマイケル・ルイスはプリンストン大学で芸術史を専攻し、その後ロンドン大学LES校から経済学で修士号を取得している…

『ぼくはお金を使わずに生きることにした』マーク・ボイル著/吉田奈緒子訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「オルタナティブな未来のために」 毛利嘉孝(東京藝術大学准教授) 最近になって、東京を離れ地方に住む人がまわりに増えている。もちろん決定的な契機になったのは、今年三月の東日本大震災とそれに続く福島原発事故だが、それだけで…

『<small>哲学の歴史 03</small> 神との対話』中川純男編(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第三巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本巻はキリスト教神学の基礎となった2世紀のアレクサンドリア…

『問題発言』今村守之(新潮新書)

→紀伊國屋書店で購入 「戦後の舌禍事件を眺望する」 本書は、敗戦直後の東久邇宮稔彦(ひがしくにのみや・なるひこ)王による発言(1945年9月5日)から、記憶に新しい東日本大震災に絡んだ鉢呂吉雄元経済産業相による発言(2011年9月9日)まで、85の問題発言…

『大東京ぐるぐる自転車』伊藤礼(東海大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「自転車が東京の地勢に目覚めさせる」 どこに行くにも自転車に乗っていた時期があった。90年代終わりくらいだから10数年たつが、仕事のために借りた部屋が電車で行くには近く、歩いていくにはちょっと遠い半端な位置にあり、なら自転…

『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る』高井 研(幻冬舎新書)

→紀伊國屋書店で購入 昔から恐竜や生き物が好きだった。 与えられた図鑑や絵本の影響が大きかったのだと思うけれど、まあでも男の子としてはごくまっとうな趣味として虫捕りやトカゲ(うちの近所ではカナヘビが主流でした)に凝った。 中学に行って友だちの…

『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話-知的現場主義の就職活動』沢田健太(ソフトバンク新書)

→紀伊國屋書店で購入 正直言って、なんで就職活動に、これだけの時間とエネルギーを費やさなければならないのかわからない。しかし、そうせざるをえない現実は、すこしわかる。家庭教育と学校教育が、社会に出て行くために充分でないからだ。ある外食産業の…

『私にとっての20世紀』加藤周一(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「20世紀を理解するために」 年の瀬は一年を振り返る事が多い。ついでに前世紀を振り返ってみるのも悪くない。歴史が「現在」である時はその姿を現しにくいが、それが「過去」となってきた時に、初めて我々にも理解できる形で見えてくる…

『稲垣足穂』稲垣足穂(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「星とヒコーキをこよなく愛した男」 稲垣足穂の作品と出会ったのは高校生の頃だから、かなり前になる。しかし、時々無性にあの独特の文章に触れたくなる。疲れた時や、雑然とした世の中に倦んだ時など最適だ。特に『一千一秒物語』など…

『昭和電車少年』実相寺昭雄(ちくま文庫(筑摩書房))

→紀伊國屋書店で購入 「実相寺昭雄の想像力を培ったものは何か」 ―それは昭和という時代であり、鉄道という存在であった。 実相寺昭雄といえば、知る人ならば誰もが知っている映画監督である。私がその名を知ったのは、ウルトラマン関連のいくつかの作品であ…

『革新幻想の戦後史』竹内洋(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「新しい「教養」のために必読の書」 一気に読み終えた。もう十年近く前の大晦日、小熊英二氏の名著『<民主>と<愛国>』を読んで徹夜したのを思い出すが、それ以来の知的興奮。こちらも500頁を超える大著だが、文字通り「厚み」の…

『装幀のなかの絵 四月と十月文庫』有山達也(港の人)

→紀伊國屋書店で購入 口絵には、著者の祖母による一枚の絵。生まれ育った五島列島の風景を思い出して描いたものらしい。波間に浮かぶ緑の小島。遠くの水平線の沿って島の稜線が連なる。画面右下の岩場の上、海に向かって腰掛けているのは幼い日の祖母の姿だ…

『時刻表世界史―時代を読み解く陸海空143路線』曽我誉旨生(社会評論社)

→紀伊國屋書店で購入 「時刻表を読むのが100倍楽しくなる本」 ひところまで、この世で一番面白い本とは時刻表のことだと思っていた。実は今でも、その考えは変わっておらず、このブログでも、お気に入りの時刻表のいくつかを(○○年○月号の、というように)書…

『日米衝突の根源』渡辺惣樹(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 二年前にもこのブログで同じ著者による『日本開国』を紹介したが、その後も継続して行われた地道なリサーチの成果がふんだんに盛り込まれた力作が上梓された。本書には1858年から1908年に至る時代──日本における明治時代──のアメリカ国…

『趣味縁からはじまる社会参加』浅野智彦(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中間集団論を日本社会でいかに考えるべきか」 中間集団論と呼ばれる議論がある。中間集団とは、アメリカの政治社会学者コーンハウザーが『大衆社会の政治』などで用いている概念である。 平たく言えば、個人と全体社会を媒介する集団…

復刊リクエスト募集のご案内

◉ご案内 第16回8社共同復刊は、紹介の123点130冊の品切書が復刊候補としてあがりました。参加8社が読者に届けたいと考えている個々の書籍を分類別に並べ替えています。ご覧のうえリクエストをいただき、1点でも多くの復刊の実現にご協力ください。応募期間は…

復刊候補一覧① 《哲学・思想・言語・宗教》

哲学・思想・言語・宗教 1 岩波書店 随眠の哲学 山内得立 初版1993・最終版1993年◆A5判◆266頁◆予価5145円(本体4900円) 仏教語「随眠」から出発して存在の根拠の問題に肉薄してゆく著者の思索は、その死によって中断された。著者最後の思索の跡を示す遺著。…

復刊候補一覧② 《社会》

社会 37 岩波書店 大正自由人物語 望月桂とその周辺 小松隆二 初版1988・最終版1988年◆四六判◆368頁◆予価3360円(本体3200円) 戦前、戦中、戦後をアナキスト、自由人として生きぬいた望月桂を中心に、大正デモクラシーの知られざる一面を新資料を駆使して鮮…

復刊候補一覧③ 《歴史・民俗》

歴史・民俗 53 岩波書店 将軍権力の創出 朝尾直弘 初版1994・最終版1995年◆A5判◆384頁◆予価7035円(本体6700円) 幕藩制国家権力の中核をなす「将軍権力」はいかに形成されたか。「幕藩制と天皇」「将軍政治の権力構造」「鎖国制の成立」など主要論文の一大…

復刊候補一覧④ 《文学・芸術》

文学・芸術 76 岩波書店 近世文藝思潮攷 中村幸彦 初版1975・最終版1998年◆B6判◆408頁◆予価4725円(本体4500円) 時代に対応して変化する儒教思想の姿を捉えつつ、近世知識人の文学観を克明に分析。文芸思想にあらわれた近世文化の本質を描き出す。 77 岩波…

復刊候補一覧⑤ 《法律・経済・政治》

法律・経済・政治 98 岩波書店 二○世紀の政治理論 藤原保信 初版1991・最終版1993年◆A5判◆418頁◆予価3465円(本体3300円) 理念と現実を直截に表現する政治理論はこの世紀をどのように描いてきたか、代表的理論家の業績と学説を客観的に記述。 99 岩波書店 …

復刊候補一覧⑥ 《自然科学・医学》

自然科学・医学 112 紀伊國屋書店 何のための数学か 数学本来の姿を求めて モーリス・クライン/雨宮一郎訳 初版1987・最終版1989年◆四六判◆232頁◆予価2940円(本体2800円) 数学は単なる記号操作の技術ではない。その目標は自然から知識を引き出すことにあ…

『東京ガールズコレクションの経済学』山田桂子(中公新書ラクレ)

→紀伊國屋書店で購入 「ガールズマーケットの誕生」 本書のタイトルを見て評者が抱いた印象は、「東京ガールズコレクション」(以下、TGC)の市場動向やトレンドを解説したものだろうというものだった。また、こういったブームを扱った本には、そのブームの…

『柳田国男と今和次郎―災害に向き合う民俗学』畑中章宏(平凡社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「震災と向き合った二人の民俗学者」 震災後、今和次郎(こん・わじろう、1888-1973)をめぐる書籍が相次いで出版された(本書の他に、今和次郎『今和次郎採集講義』青幻舎)。今和次郎は主に大正から昭和初期にかけて活躍した民俗学者…

『定本 見田宗介著作集 Ⅵ 生と死と愛と孤独の社会学』見田宗介(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「社会学vs文学」 大作家と言われる人でもなかなか個人全集が出ない時代である。そんな中で見田宗介/真木悠介著作集の刊行がはじまった。意味深いことである。 たとえば今、本を読むのが好きで、物を考えるのも好きで、「生」とか「愛…

『新しい世界史へ-地球市民のための構想』羽田正(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 帯に「いま、歴史の力を取りもどすために」とある。著者、羽田正は、「歴史の力」が衰えていると感じ、危機感をもって本書を執筆した。著者が伝えたいメーセージは、「はじめに」でつぎのように書かれている。「現在私たちが学び、知っ…

『Three Month Fever : The Andrew Cunanan Story』Gary Indiana(Cliff Street Books)

→紀伊國屋書店で購入 「ゲーリー・インディアナが描いたベルサーチの殺人者」 1997年7月24日、『マイアミ・ヘラルド』紙は、マイアミ市内にあるマイアムビーチ地区のハウスボート内で、アンドリュ・クナンナンという男が自殺を謀ったというニュースを伝えた…