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プロの読み手による書評ブログ

2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『A Computational Theory of Writing Systems』 Richard Sproat (Cambridge Univ Pr)

→Hardcoverを購入 →Paperbackを購入 文字についてはいろいろな本を読んできたが、本書はきわめつけユニークな本である。わたしは文字コード問題から文字に興味をもった人間なので、"A Computational Theory of Writing Systems"(文字のコンピュータ理論)と…

『夜になるまえに』レイナルド・アレナス著/安藤哲行訳(国書刊行会)

→紀伊國屋書店で購入 「めまいと戸惑い、そして冷水」 何かの都合で中断せざるを得なくなった未読の本の山から、この本を引き抜いて読み出したのは、フィデル・カストロ引退のニュースが報じられたことと無関係ではなかった。そして再び読みはじめてみて、あ…

『かけがえのない人間』上田紀行(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「交換可能な人間から、かけがえのない人間に覚醒するために」 愛、思いやり、かけがえのなさ、というようなきれい事の言葉を読むのも、聞くのも私は苦手です。 そのような道徳的、宗教的な言葉など、手垢にまみれている。何を言わんと…

『書字言語-その歴史と理論および病態』 アンドレ・ロック・ルクール編 (創造出版)

→紀伊國屋書店で購入 山鳥重氏の業績を探していて発見した本である。山鳥氏は森山成氏と本書の日本文字の章を執筆するとともに邦訳にあたっておられる。 編者のルクールはカナダのケベック州出身の神経心理学者で、フランス語圏カナダとフランスで失語症の研…

『神経文字学』 岩田誠&河村満編 (医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 『神経文字学』という文字面からSF的な印象をもつかもしれないが、脳科学の視点から文字を考えようという最先端の論集である。 編者の岩田誠氏は1983年に仮名文字と漢字では脳の処理過程が異なるという「二重回路仮説」を提唱した人で、…

『百物語』杉浦日向子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「闇の効用」 フランスは今アニメ・漫画ブームである。「Mangas」というアニメ・漫画専門のテレビチャンネルもある。以前から「ドラゴンボール」や「ポケモン」等のアニメは普通のチャンネルでも放映していたし、漫画もあったのだが、最…

『失われた手仕事の思想』塩野米松(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「手仕事がつないでいくもの」 私の祖父は大工だった。 まじめで誠実な祖父のところには、近所からたくさん仕事がきた。 まだ、近所を歩くと、祖父の「仕事」がたくさん残っている。 手でつくりだしたものを、顔がみえる人がつかう時代…

『東山魁夷 Art Album 全3巻セット』 東山魁夷[著] 東山すみ[監修] (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「青の風景 橙の風景 白の風景 さもなくば穿つか」 桜が満開です徹夜明けで一人歩くキャンパスは 贅沢極まりないものです 今日が始まっているのに、全く片付かず 私だけが昨日のままでも仕方がないです 東山魁夷展(3/29〜5/18、生誕100…

『GOTH』横浜美術館[監修](三元社)

→紀伊國屋書店で購入 いろいろあるけど、全部許せる表紙にヤラレタッ 旧臘22日よりまる三ヶ月間開催されてきた横浜美術館の「GOTH-ゴス-」展が終わった。記念のトークを頼まれて出かけた日、真冬の荒涼とした風景の只中、美術館前で撮った写真が、当ブログ…

『The Castle in the forest』Norman Mailer(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「悪魔の存在が漂うノーマン・メイラーの作品」 前々回のコラムで神の存在について考えさせられたリチャード・ドーキンズ著『The God Delusion』を紹介したが、今回は悪魔の存在について考えさせられるノーマン・メイラーの小説『The Ca…

『東南アジアの農村社会』斎藤照子(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「多様性のなかの統一」ということばは、東南アジア社会を特徴づけることばとしてよく使われる…

『博物学のロマンス』リン・L・メリル[著] 大橋洋一、照屋由佳、原田祐貨[訳] (国文社)

→紀伊國屋書店で購入 書評がなにやら企画趣意書になってしまう相手 マニエリスム・アートがヴンダーカンマーを諸物糾合という自らの表現意思の最もわかりやすい象徴として展開してきたことは、既に何点かの本に触れて述べてきたが、1990年前後まで主たるマニ…

『沖縄映画論』四方田犬彦・大嶺沙和編(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](35) この2月、約10年ぶりに沖縄を訪れた。このところ何かと「沖縄」が目に止まる。沖縄には「沖縄芝居」や「組踊り」という土地に根付いた芝居や芸能があるが、それ以外にも沖縄を素材とした舞台は数多くあり、現…

『螢・納屋を焼く・その他の短編』村上春樹(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「村上春樹の住んでいた場所」 今回も口コミ読みである。 つい最近、深夜の飲み屋で、業界関係者数人と日本の英米文学状況について深刻に話し合う機会があったのだが(「○○は偉い」とか「××はダメだ」とかそういう話)、みんな眠くなっ…

『異教的ルネサンス』アビ・ヴァールブルク(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 だれしも、自らの旅を楽しく思い出す。アルバムを眺めたり、パソコンで写真を見たり。切符や入場券のスクラップ帳をつくるアナクロなひと(私だ)もいる。はじめてローマに行ったとき、蜂の噴水やトリトーネのあるバルベリーニ広場近く…

『美術館の政治学』暮沢剛巳(青弓社)

→紀伊國屋書店で購入 「オー・セゾン!」。改めて「熱いブクロ」を思いだした この本は2007年4月初版。同じ月に横須賀美術館ができ、その直前に国立新美術館が開館していた。六本木ヒルズや東京ミッドタウンといった新しい文化の中心が出発する時、美術館と…

『ゆっくり走れば速くなる』浅井えり子(ランナーズ)

→紀伊國屋書店で購入 「LSDって言っても Lucy in the Sky with Diamonds ではありません」 確かに子供の頃からミュージカルには馴染みがありましたけど、お金もなく仕方なくビクトリアステーションの裏の安いB&Bにいた時も、ほとんど毎日マチネのミュージカ…

『わがままなやつら』エイミー・ベンダー著 管啓次郎訳(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 「嘘の嫌いな奇想の作家」 エイミー・ベンダーの短編をどう説明したらいいのだろう。 「終点」はいつでも一緒にいてくれる相手を求めてペットショップで小人を買った男の話、「オフ」は黒髪の男、赤毛の男、ブロンドの男の三人にキスを…

『ミュージアムの思想』松宮秀治(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 美術館が攻撃的で暴力的だなんて感じたこと、ある? 現在、大新聞の文化欄の過半がミュージアム(美術館/博物館)の催事案内で埋まっている。落ち目と言われる人文方面でも、いわゆるミュゼオロジー、展示の方法論・社会学だけは、美術…

『バッハ 演奏法と解釈-ピアニストのためのバッハ』パウル・バドゥーラ=スコダ(全音楽譜出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「もっと自由なバッハへ──21世紀のバッハ解釈」 今回はあつかましく自らが関わった書籍を紹介することをお許し頂きたい。 バッハの演奏法に関するドイツ語の大著を数年かけて邦訳した。いつ終わるともわからぬ翻訳と編集は長いトンネル…

『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』岡田芳郎 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「忘れ去ったのではない。忘れたふりをせざるを得なかったのだ。」 小学生のころだったと思う。山形県酒田市の中心街が燃え広がる様子を伝えた夜のニュースは、今でもよく憶えている。強い西風にあおられて、一晩で新井田川までの22.5ヘ…

『Mozart Women』Jane Glover(Harper Collins)

→紀伊國屋書店で購入 「英国の女性コンダクターが描いたモーツァルトの生涯」 僕の人生を豊かにしてくれるものに音楽がある。高校の時にはブルースバンドを組み米軍のベースキャンプで演奏していた。その後、ボストンの大学に入り、軽い気持で取った音楽のク…

『体の贈り物』レベッカ・ブラウン[著] 柴田元幸[訳] (マガジンハウス)

→紀伊國屋書店で購入 「ケア小説における引き算の効果」 高校の友人で最近はケア関係のライターやっている石川れい子から、『家庭の医学』を薦められたのが、レベッカ・ブラウンを知ったきっかけ。その時はただぱらっと見ただけ。正直言えば、介護事業をして…

『古代憧憬と機械信仰-コレクションの宇宙』 ホルスト・ブレーデカンプ[著] 藤代幸一、津山拓也[訳] (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 ブレーデカンプに新しい人文学への勇気をもらう ホルスト・ブレーデカンプ(Horst Bredekamp、1947-)ほどその全貌を知りたいと思わせる書き手も少ない。マニエリスム奇園(ボマルツォその他)を調べても、ライプニッツの「組合せ術」を…

『大航海時代の東アジア-日欧通交の歴史的前提-』伊川健二(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「海域アジア史」がブームだという。2005年秋に福岡と長崎にあいついでオープンしたふたつの博…

『或る「小倉日記」伝』松本清張著(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「極道者・松本清張」 推理小説家として知られる清張だが、この短篇集は、芥川賞を受賞した表題作をはじめとして、清張が若い頃に書いた純文学作品を中心に集めたものである。このところ、新潮社は、団塊世代が定年を迎えるのに合わせて…

『アルス・コンビナトリア-象徴主義と記号論理学』 ジョン・ノイバウアー[著] 原研二[訳] (ありな書房)

→紀伊國屋書店で購入 『アムバルワリア』を読んだら次にすること チェスで人がコンピュータに勝てないと判ってからどれくらい経つか。感情や情念といった言葉を持ち出して、人にしか書けない詩があるという人々はなお多く、現に「詩」は相変わらずいっぱい書…

『乳と卵』川上未映子(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「西村さんと似てる」 これだけ話題になっている人だし、今さら宣伝しても意味ないし、書評なんか書かないぞ、と思って手に取ったのだが、読んでしまうとあっさり気が変わった。関西弁でしゃべる女は許せないと思っている関東のおじさん…

『インディアナ、インディアナ』レアード・ハント 柴田元幸訳(朝日新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 「もののあわれとノアの箱舟」 『インディアナ、インディアナ』では、ノアという主人公の記憶と思索、過去と現在が去来する。それらは散乱しているかの印象を与えるし、実際、ノアはつれづれに回想したり夢想したりしている。つれづれな…

『詩集「三人」』金子光晴、森三千代、森乾(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 名もなき家族が残したもの 2007年、東京の古書店で金子光晴の未発表の詩集が見つかった。 光晴と、妻である作家・森三千代(愛称・チャコ)、そして息子、森乾(けん。愛称・ボコ。のちに仏文学者)の三人の詩が、B6判200ページ余(厚…