書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『言語表現法講義』加藤典洋(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「うざったさの批評」 批評の方法に関心があるという学生さんがやってきたら、筆者がまず推薦するのはこの本である。 「表現法」の講義というのだから、表向きは文章を書くための教科書である。もちろん「スキマを生かせ」とか「ヨソか…

『私は「毛主席の小戦士」だった』 石平 (飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 『売国奴』の三氏のうち、黄文雄氏と呉善花氏の本は読んでいたが、石平氏の本は読んだことがなかったので本書を読んでみた。 本書は表題からわかるように、中国共産党からの訣別を語った自伝であるが、日本に来たから訣別したわけではな…

『売国奴』 黄文雄&呉善花&石平 (ビジネス社)

→紀伊國屋書店で購入 中国、台湾、韓国から日本に留学し、そのまま日本にとどまって、著述活動をつづけている三人の論客による鼎談集である。座談の記録なのですらすら読めるが、語られている内容は深く、時に腕組みをしながら読んだ。 「売国奴」という表題…

『中国動漫新人類』 遠藤誉 (日経BP社)

→紀伊國屋書店で購入 日本のアニメとマンガは今や世界中で注目されているが、特に子供向けの娯楽のすくなかった中国では爆発的に流行し、中国政府があわてるほどの影響力をおよぼすようになったという。 表題の「動漫新人類」とは日本アニメと日本マンガを幼…

『「反日」解剖 歪んだ中国の「愛国」』 水谷尚子 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 四川地震に日本が救援隊を派遣したことで中国ではにわかに親日ムードが盛り上がり、ふだんは日本を罵倒する発言だらけのネットの掲示板にも日本に感謝する書きこみがあふれたという(『大陸浪人のススメ』というblogに文体まで再現した…

『中国を追われたウイグル人』 水谷尚子 (文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 世界各地に散った13人の亡命ウィグル人にインタビューした聞き書き集であり、大変な労作である。 新疆ウイグル自治区をとりあげた本はけっこうあるが、ほとんどがシルクロード紀行的な本で、わずかに今村明の『中国の火薬庫』と陳舜臣の…

『赤目四十八瀧心中未遂』車谷長吉(文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「金玉が歌い出した男」 なぜかこれまで縁がなかった作家が車谷長吉。さいきん、車谷を読みなさいと勧めてくださる方がまわりに何人もいて、さて、なにから読んだらいいのだろうと題名を見ると、「鹽壺の匙」「業柱抱き」「白痴群」「錢…

『家族の昭和』関川夏央(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 文芸作品にみる昭和の家族のうつろい 「二〇〇八年は平成二十年ではない。昭和八十三年だ。あえてそういいたい昭和人である」と著者の関川夏央は言う。その彼が、昭和戦前から昭和戦後へと移り変わっていく家族像を、小説、テレビドラマ…

『金閣寺』三島由紀夫(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「なぜ「生きよう」と思うのか」 パリに住んでいると、必然的に「美」とは何か、ということを意識させられる。美しいものが多いのである。石の街並も美しい、ノートルダムも美しい(特に後姿が)、夜景も美しい、街行く人の姿も美しい、…

『学校文化の比較社会学-日本とイギリスの中等教育』志水宏吉(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 外国に移住したひとならば、赴任地でのわが子の教育について、少しくらい余計な心配を抱いたとしてもやむを得ぬことだろう。イギリスに引越してもっと強く感じた印象は、学校の質の違いだった。「フラットな社会は適切な知識と技術と発…

『John』Cynthia Lennon(Three Rivers Press)

→紀伊國屋書店で購入 「シンシアが語るジョン・レノンとの人生」 以前このページで、ジョージ・ハリソンとエリック・クラプトンの妻となったパティ・ボイドの自伝『Wonderful Tonight』を紹介したが、今回はジョン・レノンの最初の妻シンシア・レノンが書い…

『ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬・上野千鶴子(文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 「セゾンの失敗から学ぶ」 東京在住時代、西武新宿線沿いに住んでいた。西武鉄道は移動の足だった。 その経営母体である西武鉄道グループの代表である堤義明が、粉飾決算(証券取引法違反。有価証券報告書の虚偽記載)で逮捕されて辞任…

『光源氏が愛した王朝ブランド品』河添房江(角川選書420)

→紀伊國屋書店で購入 『源氏物語』がブームだ。それもそのはず、今年は源氏物語の存在が記録として確認されてからちょうど千年目にあたる。さまざまな場所でこの物語に関する情報が紹介されているが、千年も昔の日本にこのようにたおやかで繊細な文化が栄え…

『Landscape and Memory』Simon Schama(Harpercollins Pub.)

→紀伊國屋書店で購入 テームズ河口域は不思議な地域だ。たしかにロンドンは、その程良い外海からの距離に守られ、テームズ川の輸送力に支えられ発展した町であって、もしもこれが外海にその扉を曝した町であったなら、スペイン艦隊であれ、ジャンヌ・ダルク…

『インドのヒンドゥーとムスリム』中里成章(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 インドの経済成長が著しく、日本の経済界も遅ればせながら、インドに注目しはじめた。そのイン…

『近代文化史入門』高山宏(講談社学術文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「記念です」 ついに高山宏書評コーナー「読んで生き、書いて死ぬ」が終わってしまった。 内輪でやってると思われても何なので、あえて氏の本を取り上げるのは避けてきたが、日本の英文学を語るには避けられない巨人であることは間違い…

『不安の力』五木寛之(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「五木ワールドのリアル」 先日、「ケータイ小説のリアル」を紹介した文章をこのブログにアップした後で、中高年向けの生活苦をテーマにしたケータイ社会批評があったら読みたい、と思った。そのあと書店にいって文庫を眺めていると、五…

『ケータイ小説のリアル』杉浦由美子(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「書き手と読者が求め合ってできた文芸はいかに生まれたのか?」 私はケータイ小説を読んだことがない。ケータイ小説からミリオンセラーが出ていることは知っている。名の知れた書評家がケータイ小説のヒット作を酷評していたことを覚え…

『Y氏の終わり』 スカーレット・トマス[著] 田中一江[訳] (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 Y氏の終わりでT氏の終わり 「終わり」は珍しく小説で。 女主人公アリエル・マントは雑誌に科学哲学のコラムを書いているが、ソール・バーレム教授(小説『Y氏の終わり』の作者)のトマス・E・ルーマスに関する講演を聴きに行って、バー…

『ニューヨーク・チルドレン』クレア・メスード(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 大都市に生きる人間たち、それぞれの屈託と処し方 カバー写真を見ればだれでも、この本の内容に関係があるはずだ、と思うだろう。夕闇に包まれたワールド・トレード・センター。9.11以前の写真であるのが一目瞭然だ。事件以来、ツインビ…

『ポケットは80年代がいっぱい』香山リカ(バジリコ)

→紀伊國屋書店で購入 リカちゃんの80年代 「私は、リアルタイムで『HEAVEN』にかかわり、「ゼビウス」で徹夜し、ナイロン100%で勉強してパルコの「モダーンコレクション」のステージにも上がった。というしょうもない自負心。それがどうした、と言われれば、…

『The commoner』John Burnham Schwartz(Nan a Talese)

→紀伊國屋書店で購入 「美智子様をモデルとしたアメリカの小説」 1959年、美智子様が当時皇太子だった明仁親王と結婚をした。その時、僕は10歳にもなっていなかったが、ふたりを乗せたはでやかな馬車のパレードは鮮明に記憶している。白黒のテレビに映…

『実体への旅-1760年-1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』バーバラ・M・スタフォード[著] 高山宏[訳] (産業図書)

→紀伊國屋書店で購入 彼女に目をつけるなんて流石だね、と種村季弘さんに言われた バーバラ・M・スタフォード著書・邦訳書--> この百回書評もあと一回を残すところとなった。取り上げたい本は今年刊のものだけで10冊も積み残しているし、「仲間褒め」を頼ん…

『本の読み方-スロー・リーディングの実践』平野啓一郎(PHP新書)

→紀伊國屋書店で購入 「スローな世界」 「ファーストフード」に対し「スローフード」が提唱されて、徐々に広がっているようだ。その事自体は賛成だし、何も文句は無い。しかし、フランスで暮らしていると、本当に「スロー」な人々に出会う。修理を頼むと、午…

『デーモンと迷宮-ダイアグラム・デフォルメ・ミメーシス』ミハイル・ヤンポリスキー[著] 乗松亨平、平松潤奈[訳] (水声社)

→紀伊國屋書店で購入 金余りのロシア団塊がやりだしたら、ホント凄そうだ いよいよ残り3回ということになったから、また一段と個人的な思い入れ、偏愛を恣にさせていただこう。となると第一弾はミハイル・ヤンポリスキーの最初の邦訳本たる『デーモンと迷宮…

『若者が主役だったころ----わが60年代』色川大吉(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「歴史が文学だったころ」 色川大吉、ぼくにはとても懐かしい名前である。もう四半世紀ほど前、日本史学科に所属していたことがあった。やろうと思っていたのは近代史、とくに自由民権運動あたりで、その頃に読んだ色川の『明治精神史』…

『ワンダー植草・甚一ランド』植草甚一(晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 「私はジョギングと雑文が好き 今何故再び、植草甚一なのか 私は自分で解決しようとした」 羽田から志木行きのリムジンバスは22時20分発で、和光市行きは21時50分発なので、今21時49分なので後者を選び、その30分の差はかなり大きい。伊…

『エッセンス・オブ・久坂葉子』久坂葉子 早川茉莉・編 (河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 エッセンスのままで逝った人 カバー袖にある、スカーフで髪をくるみ、上目遣いに頬杖をついた写真からは、このひとが二十一歳の大晦日に終電車に飛び込んだとは思えない。冷たい夜のプラットフォームよりも、真夏の海辺のほうが似つかわ…

『心中への招待状-華麗なる恋愛死の世界』小林恭二(文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 「虚実の際(きわ)に耐えた心中の観客たち」 著者の小林恭二は三島由紀夫賞を受賞した『カブキの日』のみならず、『悪への招待状―黙阿弥歌舞伎の愉しみ』の著作もあるように、歌舞伎をはじめとする古典芸能に造詣が深い。本書では、心…

『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか?-アウトサイダーの時代』城繁幸(ちくま新書)

→紀伊國屋書店で購入 「「アウトサイダーの時代」の開幕を告げる、元気のでる新書」 あの富士通の人事担当者として、成果主義の実態を暴露した「内側から見た富士通「成果主義」の崩壊」の著者、城繁幸氏の新刊だ。これは読むべきだ。売れている。新書のベス…