書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『古本屋めぐりが楽しくなる 新・文學入門』岡崎武志と山本善行(工作舎)

→紀伊國屋書店で購入 「均一小僧」岡崎武志と「古本ソムリエ」山本善行。高校時代からの文学の友であるふたりの繰りひろげる文学漫談。 岡崎武志の語りにはこれまでも、心からの本への愛と本を読むことのよろこびをしみじみと教えられることがあったが、ふた…

『百』色川武大(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「地面を掘る」 まるで文章の下にやわらかい地面があるようだ。どう転んでも、何を書いても、言葉が根を生やして繁茂してしまう。サマになってしまう。そんな書き手がいる。 色川武大の『百』に収められているのは、これでもかとばかり…

『軋む社会』本田由紀(双風舎)

→紀伊國屋書店で購入 「ギシギシと若者の心身を軋ませる構造をみつめるために」 いま日本で進行している、若年労働者に対する、国家、企業が総掛かりになって行っている、大規模な搾取の構造を描いた傑作である。 著者の本田由紀氏の専門は教育社会学。教育…

『海を生きる技術と知識の民族誌-マダガスカル漁撈社会の生態人類学』飯田卓(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 本書最後の第6章には、「研究者に何ができるか」という見出しがある。本書を通読すれば、著者飯田卓がつねに「研究者に何ができるか」を自問自答しながらフィールドワークをおこなっている様子がよくわかる。本書の「目次」は、章と節の…

『Stork Club : American’s Most Famous Nightspot and the Lost World of Cafe Society』Ralph Blumenthal(Little Brown)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨークの華やかさが偲ばれる一冊」 以前、当時の『ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー』誌の編集長だったチップ・マックグラスに会った時に、アメリカの雑誌『ニューヨーカー』誌の話を聞いたことがある。マックグラス自身…

『論集 川端康成-掌の小説』川端文学研究会【編】(おうふう)

→紀伊國屋書店で購入 「少女の羽織に触れただけの少年」 自宅の部屋のドアの裏側にいつも1枚のポスターが貼ってあります ポスターというよりは、新聞の1面広告なのですが この部屋は私が使う前は、上の子が使っていて その子が貼ったものでした いつもふと…

『雲の都〈第3部〉城砦』加賀乙彦(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「続いている話」 加賀乙彦のファンである。何がいいかというと、小説が長いからだ。たとえば、死刑囚の物語である『宣告』は新潮文庫で3冊(上|中|下)。第二次大戦前後を時代背景に、アメリカ人の妻を持つ日本の外交官・来栖三郎の…

『漁民の世界-「海洋性」で見る日本』野地恒有(講談社選書メチエ)

→紀伊國屋書店で購入 「終章 日本文化の基層としての「海洋性」」は、読みごたえがあった。著者、野地恒有の「海洋性」論に、引き込まれていく。それまでの第一~五章の具体的な事例で、のんびりした海辺の情景を楽しんできただけに、その落差は大きい。そし…

『非常階段東京』佐藤信太郎(青幻舎)

→紀伊國屋書店で購入 薄暮の東京が描く架空の時間 知らない街のホテルにチェックインし、カーテンを開けて窓の外を眺める瞬間が待ち遠しい。表通りに面した部屋より、裏側のほうがおもしろい。裏は裏同士でくっつきあっていて、ちょっと投げやりな、人に見ら…

『藤田晴子音楽評論選 ピアノとピアノ音楽』藤田晴子(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 前回は「とんでもない評論家」の迷文を集めた本を紹介させていただいたが、今回は「すばらしい評論家」の紹介だ。藤田晴子である。2003年秋に惜しくも故人となった藤田は、日本の音楽界にあってピアニストとしての視点から書かれた評論…

『For All We Know』Ciaran Carson(Wake Forest Univ Pr)

→紀伊國屋書店で購入 「現代風ソネット」 英語圏の現代詩というと、どうしてもアイルランド方面に目がいってしまう。現存の詩人では、骨太さと感覚美の同居するイーヴァン・ボーランド、意味不明の快楽を官能的に味わわせてくれるメーヴ・マッガキアンなど、…

『Blood and Champagne : The Life and Times of Robert Capa』 Alex Kershaw (Da Capo Press)

→紀伊國屋書店で購入 「架空の写真家だったロバート・キャパ」 いま僕はコンピューターの画面に向かい、スクリーンに映っている一枚の写真を見ている。 「The Falling Soldier」というタイトルがつけられたその写真は、ひとりの兵士が頭を撃ち抜かれ、仰向け…

『稲作渡来民-「日本人」成立の謎に迫る』池橋宏(講談社選書メチエ)

→紀伊國屋書店で購入 日本人は、稲作や米食論議が大好きである。しかも、古来から米を主食としてきたと信じている日本人の常識で考えたがる。わたしが、学生によく訊く質問に、「水稲作と陸稲作では、どちらが収穫量が多いですか?」とか「ジャポニカ(短粒…

『隅田川のエジソン』坂口恭平(青山出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「都心で狩猟採集生活をする」 私がニューヨークに暮らしていたころ、街中のいたるところにホームレス・ピープルがいた。80年代初頭のことだ。彼らの多くは物乞いをして生活していたが、物を乞う卑屈さが少しもない。朝、コーヒーを買っ…

『春琴抄』谷崎潤一郎(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「禁断の愛、それとも純愛?」 毎年この時期には、高校2年・3年で扱う文学作品を高校一年生と相談する。最後の2年間が国際バカロレアではディプロマ・プログラムと呼ばれ、大学入学資格取得試験へ向けての準備が始まる。数多い選択肢の中…

『不幸になりたがる人たち―自虐指向と破滅願望―』春日武彦(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「感情的啓蒙書という文学」 この本は痛快きわまりない。深夜に読んでいて、何度、不気味な高笑いをしたかわからない。著者は冒頭に「わたしの書き綴った内容が上手く読者諸氏へ伝わるなら、おそらく本書はきわめて後味の悪い読後感をも…

和田博文 エッセイ

ロンドンやパリに比べると東京のエリアは広い。おのずから東京のなかには、個性的な小都市がいくつも成立している。モダン都市化が進行した1920~30年代でも、その特徴は変わらない。たとえば東京の表玄関(1914年開業の東京駅)に隣接する丸ノ内は、1923年…

和田博文氏の著書

飛行の夢 1783-1945-熱気球から原爆投下まで 和田博文 藤原書店(2005/05) ISBN: 9784894344532 4,410円 (税込) 書評(日本経済新聞|2005.6.19|芳賀徹氏) 日本で飛行機による定期旅客輸送が始まるのは1928年。空を飛びたいという人々の夢が日本近代に…

コレクション・モダン都市文化 第I期(全20巻)

昭和初期に花開いたモダン都市文化の魅力が満載! 豊富な貴重図版 各巻に編者による詳細な解題・エッセイ・関連年表・参考文献一覧を収録 [監修]和田博文 銀座のモダニズム ファッション 築地小劇場 ダンスホール モダン都市景観 丸ノ内のビジネスセンター …

コレクション・モダン都市文化 第II期(全20巻)

昭和初期に花開いたモダン都市文化の魅力が満載! 豊富な貴重図版 各巻に編者による詳細な解題・エッセイ・関連年表・参考文献一覧を収録 [監修]和田博文 モダン都市の電飾 花街と芸妓 セクシュアリティ 歌舞伎座 変態心理学 関東大震災 未来主義と立体主義 …

紀伊國屋書店と新宿

[選者]和田博文 コレクション・モダン都市文化 第37巻 紀伊國屋書店と新宿 和田博文【編】 ゆまに書房(2008/06) ISBN: 9784843321379 18,900円 (税込) 1920~30年代の紀伊國屋書店の面白さを初めて意識したのは、1997年に石神井書林の古書目録で「都市の…

モダン都市文化―都市

[選者]和田博文 モダン都市の誕生-大阪の街・東京の街 橋爪紳也 吉川弘文館(2003/06) ISBN: 9784642055567 1,785円 (税込) モダン都市の表現-自己・幻想・女性 鈴木貞美 白地社(1992/07) ISBN: 9784893590923 2,344円 (税込) 消えたモダン東京 内…

モダン都市文化―文化

[選者]和田博文 石神井書林 日録 内堀弘 晶文社(2001/10) ISBN: 9784794965080 2,100円 (税込) モダニズムのニッポン 橋爪紳也 角川選書(2006/06) ISBN: 9784047033955 1,575円 (税込) 大衆モダニズムの夢の跡-彷徨する「教養」と大学 竹内洋 新曜…

モダン都市文化―アート

[選者]和田博文 クラシックモダン-1930年代日本の芸術 五十殿利治/河田明久 せりか書房(2004/12) ISBN: 9784796702607 2,520円 (税込) 越境のアヴァンギャルド 波潟剛 NTT出版(2005/07) ISBN: 9784757141155 3,360円 (税込) アヴァンギャルドの時…

『食の共同体-動員から連帯へ』池上甲一・岩崎正弥・原山浩介・藤原辰史(ナカニシヤ出版)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、2004年に組織した研究会の3年以上にわたる討論の成果である。4人の執筆者の生年は1952年、61年、72年、76年で、それぞれ別々に戦後の食生活の変化を実体験しているはずだが、問題意識とキーワードを共有し、「統一性と論理的な…

『老嬢は今日も上機嫌』吉行和子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](38) 女優吉行和子のラストステージを見に、六本木・俳優座劇場に出かけた。タイトルは『アプサンス~ある不在~』(ロレー・ベロン作、大間知靖子演出)。この女優にふさわしい舞台だった。決して派手ではなく、ひ…

『英語の冒険』メルヴィン・ブラッグ著、三川基好訳(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「多国籍企業「イングリッシュ・カンパニー」社史」 筆者はふだん、英語文学、英語学・言語学、英語教育といった分野の本を編集する仕事をしている。たまには本業に近い本も選んでみよう。 取り上げるのは、英語業界では「英語史」と言…

『金融権力-グローバル経済とリスク・ビジネス』本山美彦(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 石油や穀物の暴騰が、実態経済とあっていないことは明らかである。にもかかわらず、歯止めがかからないのは、「金融権力」がそれを容認しているからにほかならない。その「金融権力」とは何なのかを知りたくて、本書を開いた。 「本書は…