書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『Webアクセシビリティ』 ジム・サッチャー他 (毎日コミュニケーションズ)

→紀伊國屋書店で購入 インターネットにつないだパソコンは障碍者にとって重要なコミュニケーション手段となっている。聴覚に障碍があったり、歩行に障碍のある人はパソコンによって健常者と対等に仕事ができる。視覚に障碍のある人にとってもパソコンは社会…

『現場のプロから学ぶXHTML+CSS』 CSS Nite編 (毎日コミュニケーションズ)

→紀伊國屋書店で購入 Webデザイナーのための再教育本はたくさん出ているが、一歩進んだ内容の本を紹介しよう。CSS NiteというWeb技術関係のセミナー会社が編纂した『現場のプロから学ぶXHTML+CSS』で、『Web標準の教科書』の益子貴寛氏ら七人の専門家が執筆…

『砂糖のイスラーム生活史』佐藤次高(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 『山川 世界史小辞典 改訂新版』(2007年発行の第2刷)の「砂糖」の項目をみると、つぎのように書かれていた。「サトウキビを原料とする砂糖生産は、原産地のインドあるいは東南アジアから中国をへて、17世紀初め頃琉球に伝わった。一方…

『Mistress Shakespeare』Karen Harper(Putnam )

→紀伊國屋書店で購入 「シェークスピアの恋」 いまから10年ほど前の99年に「恋におちたシェークスピア」という映画があった。この映画は作品賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞など多くの賞を受賞して脚光を浴びた。 僕はずっとこの映画を観ていなくて…

『Webデザイン 知らないと困る現場の新常識100』 こもりまさあき他 (MdNコーポレーション)

→紀伊國屋書店で購入 今、書店に行くと、古い作り方でやってきたWebデザイナーに新しいWeb技術を教える本が山のように積んである。 古い作り方というのは、枠線を非表示にした見えない表でWebページをまず四角形に仕切り、その四角形の中に文章を流しこんで…

『Web標準の教科書』 益子貴寛 (秀和システム)

→紀伊國屋書店で購入 あるサイトの構築をまかされることになり、久しぶりにホームページの作り方を勉強し、浦島太郎の気分を味わった。 わたしはWebデザインを仕事にしているわけではなく、単なるアマチュアだが、これまで二度、HTML関係の本をまとめて読ん…

『限界芸術論』鶴見俊輔(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「限界芸術とは何か?」 フランスのテレビで以下のようなコマーシャルが流れていた。若い娘が彼氏を始めて自宅に連れてきて、両親に紹介する。ぎこちない時間が過ぎていくが、父親が彼に「ところでご職業は何ですか?」と聞くところで、…

『謎の1セント硬貨 真実は細部に宿る in USA』向井万起男(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 東京から、妻の向井千秋さんの暮らすヒューストンへと出かけては、そこからアメリカのあちこちをドライブ旅行してまわるマキオちゃん(向井氏、とか、著者、と書くのはどうも居心地がわるいので、本のなかでのご夫妻のお互いの呼び名「…

『いつか記憶からこぼれおちるとしても』江國香織(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「少女たちの残酷、そして不感症」 江國香織の作品は読んだことがなかった。多作の作家への謂れのない不信感と、直感的姓名判断によるまったく謂れのない猜疑心が重なってのことだ。だから、或る友人が本書を懲りずに勧めてくれても、わ…

『読んでいない本について堂々と語る方法』ピエール・バイヤール著、大浦康介訳(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<流><忘>○」 原題は「読んでいない本についていかに語るか」。筑摩書房(あるいは訳者?)はこの原題に「堂々と」という副詞を付け加えた。3文字の追加が劇的な効果を生んでいる。編集者も自信があったのだろう、表紙カヴァーの…

『ハチはなぜ大量死したのか』ローワン・ジェイコブセン(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「「家畜化」されたハチたちの現在」 数年前までうちの近くに養蜂所があった、と書くと里山に暮らしているように聞こえるが、住まいは都心にある。JR信濃町駅を出て四谷方面にむかう途中に、うっそうと庭木の繁る洋館の屋敷が建ってい…

『交渉術』佐藤 優(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「時代遅れの社会 残された時間 それを代表する人達」(BGM: Returns (Return to Forever)) 何10頁にも及ぶ何冊もの文章を書いて毎日のように校正して、やはりどうしても満足出来ず インプロビゼーションにはやはり基礎が必要であると …

『もし大作曲家と友だちになれたなら…』スティーブン・イッサーリス(板倉克子訳、音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 小学校高学年から大人まで誰でも気楽に読める、楽しく魅力的な本である。一般的な“偉人伝”とは違った味わいの、さまざまなエピソードが提供されている。本書を読めば、登場する主人公を単なる偉人として尊敬するだけでなく、愛すべき隣…

『新南島風土記』新川明(岩波現代文庫)

→紀伊國屋書店で購入 1881年1月をもって、宮古・八重山諸島は、清国の領土となる条約が発効されることになっていた。清国側が提案していた琉球3分案(奄美諸島の帰属は日本、沖縄本島は王国再興、宮古・八重山諸島の帰属は清国)にたいして、日本は宮古・八…

『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「貧乏ノンフィクションの名作の結末は恋」 三畳間。 不動産物件としては絶滅の危機に瀕していると思われる三畳間を舞台にした、ひとりの貧乏ライターの青春ノンフィクション。 これまで読んできた貧乏ノンフィクションとしては最高級の…

『過激な隠遁』川崎浹(求龍堂)

→紀伊國屋書店で購入 「年長の「友」とまとめた「画家」の評伝」 生まれたときはみな周囲の誰よりも若く、そして次の瞬間からほかの誰かの年長者となる。中学生のころは一学年上でもたいへんな「先輩」だったが、年を重ねるほどに「先輩」との年齢差は開いて…

『外見オンチ闘病記』山中登志子(かもがわ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「闘病記とは、沈黙を破るための光である。」 ユニークフェイスな女性がカミングアウトした自伝ノンフィクションの傑作。この作品は、現代日本人の身体コンプレックス理解のための必読書である。 外見に目立つ疾患・傷害がある人達がい…

『世界でいちばん大事なカネの話』西原理恵子(理論社)

→紀伊國屋書店で購入 「カネは家族の幸福を守るためにある」 私と西原理恵子との出会いは、ユニークフェイス当事者取材のとき。10年くらい前、外見に病状が表面化する女性の自宅におじゃまして話を聞いているとき、書棚のなかに「まあじゃんほうろうき」(…

『西鶴の感情』富岡多惠子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 西鶴の別号「二万翁」は、貞享元年(1684)住吉大社で行われた「一昼夜二万三百五十句独吟」の興行に由来する。 西鶴が亡き妻の追善に一日千句を作り、それを『俳諧一日獨吟千句』として上梓したことが、寺社の境内などに観衆を集め、制…

『豚と真珠湾 幻の八重山共和国』斎藤憐(而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 舞台は、1945年11月の沖縄の石垣港近くの料亭で始まる。登場人物は、「サカナヤー(料理屋)「オモト」の主人」「武部隊。海南新報記者」「小学校教師」「中学校の歴史の教師」「密貿易業者」「台湾人の元暁部隊隊員」「日系二世の兵士…

『富士日記』武田百合子(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「2Bの鉛筆で」 誰が書いてもいい。形式も自由。そう見えながら、実は得も言われぬルールがあるのが日記というジャンルのおもしろいところだ。ブログ上での日記の隆盛はご存知のとおり。日記の名で出版される書物も多い。でも内容は玉…

『Snobbery : The American Version』Joseph Epstein(Houghton Mifflin)

→紀伊國屋書店で購入 「スノッブの行動学」 スノッブ(Snob)。辞書をひくと「俗物」、「気取り屋」などとなっている。しかし、スノッブは単なる「俗物」や「気取り屋」という意味ではない。どこが違うかというと、スノッブには、「気取り屋」という意味のほ…

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「世界が滅び、父子は旅を続け、火をつなぐ」 現代アメリカ文学を代表する巨匠、コーマック・マッカーシーの最新作。 私は、昨年、マッカーシーの『血と暴力の国』を読み、これを原作にした映画『ノーカントリー』も観た。原作に忠実に…

『愛撫』庄野潤三(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「日常生活に潜む不安」 時間の流れの違いなのだろうか。フランスから日本へ一時帰国すると、どうも落ち着かない。パリに似た、または一見それよりも美しく見えるカフェも大都市では増えているのだが、そんな所に座っていても落ち着けな…

『インドネシアの歴史-インドネシア高校歴史教科書』イ・ワヤン・バドリカ著、石井和子監訳、桾沢英雄・菅原由美・田中正臣・山本肇訳(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 世界的に偏狭なナショナル・ヒストリーが否定され、日本の学界でも「国史」からより相対的に自国の歴史を観る「日本史」へと名称変更がおこなわれたのは、もう何年も前のことだった。しかし、自国史を相対化することはそれほど容易いこ…

『良い死』 立岩真也(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「良い死?ではなくて、存在の肯定のためのあらゆる思考」 しばらく更新を怠っていました。スミマセン。患者会の仕事も、ますます忙しくなる今日この頃です。先々週は、厚労省の「終末期医療の在り方に関する懇談会」第三回目にALSの…

『江利子と絶対』本谷有希子著(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「若いということは偉大なことなので」 本谷有希子。1979年生まれ、と聞いてめまいがしそうになった。若い。自分もいまの本谷と同じ年の頃、若いねえ、と言われて、若いのは俺のせいじゃないわい、と内心イラッとしたものだ。だから、若…

『都と京』酒井順子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「いけずと意地悪」「始末とケチ」「おためとお返し」……。さまざまなテーマ毎に、京都と東京を比較考察した本書。単行本のでたときはつとめて避けていたのだった。京都に暮らして十四年になる。日本というのはどこも、生まれ育った神奈…

『ダブル・ファンタジー』村山由佳(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「少しダサいくらいがちょうどいい」 500頁に達しようかという作品なのに、ストーリーがほとんどない。何人かの男が代わるがわる現れ、抑えがたい性欲を内に抱えているのだという主人公の女性と関係を持つ。男から男へと移るときに、…