書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『チョムスキーの「アナキズム論」』ノーム・チョムスキー、木下ちがや訳(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 北米の言語学者ノーム・チョムスキーが、言語学ではなく、広く政治、社会を論じ始めた1969年から2004年までの論考やインタビューから、アナキズムに言及したものを集め、時系列に編纂した発言集である。日本においても、ここ二、三年で…

『資本主義後の世界のために』デヴィッド・グレーバー、高祖岩三郎(以文社)

→紀伊國屋書店で購入 昨年の金融危機と呼ばれる未曾有の事態を受け、誰もが饒舌にそれを語り、「活発」な議論がなされている。数年前まで礼賛されていたはずの新自由主義経済への批判は所与のものとなり、経済、政治をはじめとする様々な学者、ジャーナリス…

新しいアナキズムの系譜学 高祖岩三郎(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 NYの活動家/批評家が、現在、世界で展開されているグローバル・ジャスティス・ムーブメントと呼ばれるラディカルな反資本主義、反権威主義運動を「新しいアナキズム」と名辞し、実践的、理論的にそれらをまとめあげた渾身の一冊である。…

『のりたまと煙突』星野博美(文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 写真家であり作家でもある著者の日常を綴ったエッセイ集。 「のりたま」とはふりかけにあらず、「のり」と「たま」、二匹の猫の名で、著者の両親の家で飼われており、そこにいたるまでの長い顛末には、星野博美という人のパーソナリティ…

『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「嫁と姑との確執」 嫁と姑の問題は人種や国籍に関係なく、どこにでも存在するだろう。フランスでは一般的に若者は早目に家を出て独立することが多い。最近は金銭的理由で親と同居する者も増えてはいるが、日本よりはるかに少ないだろう…

『A Lion Called Christian : The True Story of the Remarkable Bond between Two Friends and a Lion』Anthony Bourke, John Rendall(Broadway Books)

→紀伊國屋書店で購入 「ロンドンで育てられたライオン、アフリカに帰る」 今回読んだ『A Lion Called Christian』は1971年に一度出版されているが、ビデオクリップをネット上で観ることができるYou Tubeからの国際的大人気を受け、加筆・修正がくわえら…

『「ひきこもり」への社会学的アプローチ――メディア・当事者・支援活動――』荻野達史・川北稔・工藤宏司・高山龍太郎(編著)(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「社会問題を無条件に「解決すべきもの」ととらえるのではなく、かといって支援に無関心でもいられない」 近年「ひきこもり」という言葉を頻繁に耳にするようになってきました。例えば、数年前にニート支援を卒業論文のテーマにした学生…

『ボロを着た王子様』村崎太郎(ポプラ社)

→紀伊國屋書店で購入 「そら、お前は部落に生まれたからどうせダメだって人は言うかもしれんが、そんなことはない。部落に生まれようが、部落でなく生まれようが、一生懸命やらん奴の人生はつまらんのじゃ。お前のようになんもせんで腐っている奴は、お父ち…

『富士山を汚すのは誰か──清掃登山と環境問題』野口健(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 「世界で最も汚い山」という汚名を着せられてしまった日本の霊峰、富士山。世界遺産として登録したい、という気運が盛り上がっていたものの、ゴミ問題が大きなネックになっていた。数年前の報道では「ゴミ処理に関して富士山周辺に位置す…

『働くママが日本を救う!』光畑由佳(毎日コミュニケーションズ)

→紀伊國屋書店で購入 「子連れ出勤というシンプルな答え」 なんとなく会社に行きたくないという日がありました。妻はそれを感じ取ってかこう言います。「私が石松君(息子の仮名)を連れて会社に行こうか?」 「ああ、いいねぇ」 と、そこで会社に妻が子連れ…

『モノから見た海域アジア史-モンゴル~宋元時代のアジアと日本の交流』四日市康博編著(九州大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 海を介した交流は、ある時代ある地域で、突如「沸いて」突如「消える」。文献に残されることもなく、人びとの記憶からも消え去ることが多い。しかし、謎が多く、人びとにロマンを感じさせ、なにかをきっかけに人びとの関心が突如海に向…

『手の美術史』森村泰昌(二玄社)

→紀伊國屋書店で購入 「手を描くこと、その手ごわい歴史」 カウンター席に座るときは、端っこの席が好きである。カウンターがカーブしている場合は、同じ端でもカーブしている先のシートがなおよい。カウンターの中が見える。料理屋だったら、ネギを刻んだり…

『子どもの最貧国・日本』山野良一(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「子どもの貧困を、しっかりと「発見」するために」 『子どもの貧困』(阿部彩)で、詳細に引用された子どもの貧困についてのデータ、そして論旨があまりにもショッキングだったため、現場のレポートを読もうと思い手に取りました。阿部…

『この風にトライ』上岡伸雄(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「実利を求めて」 球技としてそれほど根づいていないわりに、なぜか熱血ドラマとなると定番。日本のラグビーは、学校系スポーツの中でもちょっと変わった位置を占めてきた。おそらく競技としての注目度が高いのは大学レベルだが、高校ま…

『市場の変相』モハメド・エラリアン(プレジデント社)

→紀伊國屋書店で購入 「社会を組み込む市場」 サブプライムローン問題とそれに続く世界不況については、大量の書籍が刊行されており、もはや汗牛充棟の感もある。そのなかで本書は、不況が本格化する前に着想されたにもかかわらず、現代の金融市場の持つ独特…

『働き方革命』駒崎弘樹(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「失われた世代が、働き方革命を起こす!」 日本人はワーカホリック(仕事中毒)である、と海外から言われ、日本人自身も自虐的に語り続けて幾星霜。 「過労死」という、不条理な死が批判されても、過労死はなくなりません。1年の自殺…

『子どもの貧困』阿部彩(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「子どもの貧困問題は、まだ市民権を得ていなかった」 格差社会についての文献を読み継いできましたが、子どもの経済格差については知りませんでした。そのような情報が少なかったからです。いえ、そんなことはないでしょう。情報があっ…

『歴史は生きている 東アジアの近現代がわかる10のテーマ』朝日新聞取材班(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 日本人の多くは、9月18日や7月7日が中国人にとってどういう意味をもつのか、まったく意識していない。これらは、それぞれ1931年の満洲事変と37年の廬溝橋事件が起こった日で、中国人にとって忘れてはならない国辱的な記念日である。5月4…

『極北へ』ジョージーナ・ハーディング(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 北極海で越冬した男が到達した境地 知らない作家の小説を手にとるとき、作家のプロフィールが読み出すきっかけになることがある。若いときから創作一筋という人より、いろいろな道を経て書くことにたどりついた人のものに惹かれる場合が…

『One Fifth Avenue』Candace Bushnell(Voice )

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーク、ダウンタウンの住人たち」 「セックス・アンド・シティ」の著者としてすっかり名をあげたキャンディス・ブシュネル。彼女の最新作はな〜んと『One Fifth Avenue』。何故「な〜んと」かというと、本のタイトルとなってい…

『ヴェルサイユ条約-マックス・ウェーバーとドイツの講和』牧野雅彦(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 本書を読み終えて、まず第二次世界大戦の戦後処理を理解するには、第一次世界大戦の戦後処理を理解する必要があると思った。欧米各国は、第一次世界大戦の戦後処理の経験を、そのままいかして第二次世界大戦の戦後処理をおこなったよう…

『おくりびと』百瀬しのぶ(小学館文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「死の風景」 小説を映画化するのは難しい。というより、小説を映画化し、先に小説を読んでいた読者を、映画が満足させることは非常に困難だ。もちろん、映画史を振り返ってみれば、小説から映画化された作品でも名作は存在する。それで…

『東大駒場学派物語』小谷野敦著(新書館)

→紀伊國屋書店で購入 「もてない学者」 小谷野敦は毀誉褒貶の激しい人である。この本は、小谷野がその大学院生活を送った東京大学大学院比較文学比較文化、通称、「東大駒場学派」(筆者には、「東大比文」の名称のほうがなじみ深い)の歴史を語ったものだが…

『山梔 (くちなし)』野溝七生子(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「肉食系少女の曙」 久しぶりに空恐ろしい小説を読んだ。怖ろしいのは冷血無比な殺人者でもなく、霊界・幽界の魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)でもない。芳香を放つクチナシを母の髪に添えようと、その繊細な小枝に届かぬ手を伸ばす少女こそ…

『人を惚れさせる男 吉行淳之介伝』佐藤嘉尚(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「一本松の便意」 帯を見て、ちょっとびっくりした。吉行淳之介の伝記は、これが「初」だという。吉行について語った本がなかったわけではない。母の吉行あぐりや妹で女優の吉行和子も出しているし、作家と関係のあった女たち――宮城まり…

『Her Mother’s Face』Roddy Doyle(Scholastic)

→紀伊國屋書店で購入 「少女が反復する顔、言葉」 アイルランドが大好きだがアイルランドに行ったことがないのでSiobhánという女の子の名前をどう発音すればいいのかわからなかった。わからないままに読みはじめ、読み終えて、ぐっと胸を突かれた。なんとも…

『身体としての書物』今福龍太(東京外語大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「この本は、歩きしゃべり耳を傾ける「書物」である」 「書物」のことをあまりになにも知らないし、買って読んだ本のこともほとんど頭に残っていないし、それでいったい私は「本」の、何がどう好きだというのだろうと思うのだ。それでも…

『近代日本外交とアジア太平洋秩序』酒井一臣(昭和堂)

→紀伊國屋書店で購入 本書のキーワードは、ふたつ。文明国標準と国際協調主義である。本書は、著者、酒井一臣が2002年に提出した博士論文「「文明国標準」の帝国-国際協調外交の選択と展開」をもとに、改稿したものである。博士論文のタイトルのほうが、本…

『この言葉の語源を言えますか?』日本語倶楽部編(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「人は1年後に死んでいるかもしれないですから 雨上がりの夜空に 毎日がブランニューデイ」 忌野清志郎さんが亡くなられたということで高校のクラス会を思い出すのも一つの手かもしれません RCサクセションの語源が、ある日作成しよう…

『BEYOND TALENT: 音楽家を成功に導く12章』アンジェラ・マイルズ・ビーチング著、箕口一美訳(水曜社)

→紀伊國屋書店で購入 私たちのように大学の技術系にいるものにとっては、科学技術の研究開発が仕事の大きな部分を占める。そして、世界の同じ分野の研究者を相手に、少しでも前に出ようと常に競争をしている。そんな私にとって、大きなカルチャーショックを…