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プロの読み手による書評ブログ

2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について―リキッド・サーベイランスをめぐる7章』ジグムンド・バウマン+デイヴィッド・ライアン  著 /伊藤茂 訳(青土社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「道徳的中立化」され、「液状化」した監視社会」 本書は、『リキッドモダニティ』などの著作で知られ、現代社会に鋭い批判の視線を送り続ける社会学者ジグムンド・バウマンと、監視社会論の第一人者として知られるデイヴィッ…

『腐女子実録24時―FJS24―』種十号(エンターブレイン)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「虚構の現実化」と「現実の虚構化」の合わせ技」 本書は、いわゆる腐女子を対象とした、昨今流行の「あるある」本の一つでありながら、それらの多くがせいぜい一コママンガを交えた細切れのエピソード集であるのに対し、四コ…

『クレイジー・ライク・アメリカ―心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ/阿部宏美訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アメリカ型精神疾患の蔓延と克服の可能性」 われわれはいわゆる精神疾患もしくは精神疾患のようにみえる状態にどのように向かい合っているだろうか。ここで問うているのは、自分や周囲の者がそれらに罹患した場合のことではな…

『遊びの社会学』井上俊(世界思想社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ゲーミフィケーションを考えるために、読み返したくなる名著」 何度となく読み返したくなる名著というものがある。この社会の何がしか、本質的で重要な点を言い表しているような著作、評者にとっては、この『遊びの社会学』が…

『理性の不安』 坂部恵 (勁草書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本語で読めるカントの研究書として有名な本である。初版は今から30年近く前に出たが、何度か改版をくりかえしてロングセラーをつづけている。 よく言及されるので気になっていたが、はじめて読んだ。意外だったのは読みやすい…

『A Short History of England』Simon Jenkins(Profile Books Ltd.)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「イギリス史はおもしろい」 ロンドンの国会議事堂を知らない人はいないだろう。テムズ川ぞいにそびえるビッグベンという大きな時計塔は、メアリーポピンズやピーターパンなど、イギリスの童話を題材にした映画にも登場する。上…

『爪と目』藤野可織(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ぜんぶ読ませないと気が済まない小説」 遅ればせながら芥川賞受賞作。当欄でも、すでに大竹昭子さんが取り上げておられる。 読みはじめての第一印象は、こちらの読書のぜんぶを面倒みてくれる文章だな、ということだった。た…

『社会を超える社会学―移動・環境・シチズンシップ』ジョン・アーリ著/吉原直樹監訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「移動性(モビリティ)の社会学」への期待的な展望」 本書はイギリスの社会学者、ジョン・アーリが2000年に出した著作“Sociology beyond Societies: Mobilities for the twenty-first century”の翻訳である。原著が出されて…

『カントの人間学』 フーコー (新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 カントは1772年度の冬学期から『実用的見地からの人間学』(以下、『人間学』)を開講した。カントは当時48歳で『純粋理性批判』を準備する10年間の沈黙の期間にはいっていた。 『人間学』はコペルニクス的展開のただ中ではじま…

『ドアノーの贈りもの 田舎の結婚式』ロベルト・ドアノー(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「カメラを携えた語り部」 人生で写真が切実なものになるときは三度ある。一度目はこの世に生まれでたとき、三度目はこの世に別れを告げて遺影となったときで、ふたつのあいだ、人生の伴侶を得て結婚をするときに二度目が巡って…

『「若者」とは誰か――アイデンティティの30年』浅野智彦(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「若者」をだけで語らないために」 いつもよく耳にしてきた「最近の若者は・・」という言葉。あまりに素朴なものは「そりゃ年寄りの愚痴ってもんでしょ」などと退けることができても、もう少し洗練された議論であればどうでし…

『死にたくないんですけど――iPS細胞は死を克服できるのか』八代嘉美・海猫沢めろん(ソフトバンク新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「生と死をめぐるおもしろ対談集」 まったく科学的な知識のないわたしでも、「再生医療」とか「ES細胞」とか「iPS細胞」とかは聞いたことがあるし、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したことや、iPSのiが…

『奇跡のリンゴ』石川拓治(幻冬舎文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「この奇跡は必然か?」 フランスのブルゴーニュ地方に、最高のワインを作るルロワ・ビズー女史がいる。ロマネ・コンティの共同経営者であった父の薫陶を受け、幼い頃から抜群のティスティング能力を発揮した。だが、次第に満足…

『忘却のしかた、記憶のしかた-日本・アメリカ・戦争』ジョン・W.ダワー著、外岡秀俊訳(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「忘却のさせられかた、記憶のさせられかた」とも読めた。本書は、『敗北を抱きしめて』の著者ダワーが、1993年以降に発表したエッセイ・評論に、それぞれ自ら書き下ろした解題をつけた論集である。そのときどきに書いたものは…

『青鞜の冒険 ―女が集まって雑誌をつくるということ―』森まゆみ(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「東京本郷区駒込林町九番地」、現在の文京区千駄木五丁目三番地十一で、女性たちの手による雑誌『青鞜』が発刊されたのが明治四十四年。その七十三年後の昭和五十九年、著者の森まゆみと、山崎範子、仰木ひろみの三人が、地域…

『カザルスと国際政治 カタルーニャの大地から世界へ』細田晴子(吉田書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「音楽はビジネスではなく、聖職(カザルス)」 パブロ・カザルス(1876-1973)は、20世紀最大のチェリストである。クラシック音楽のファンなら、そのことは誰でも知っている。しかし、本書(細田晴子著『カザルスと国際政治-カタ…

『カントの人間学』 中島義道 (講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 カントの『自然地理学』と対をなす『実用的見地における人間学』(以下『人間学』)の概説本かと思って読んだら、そうではなかった。 本書の元になった本は『モラリストとしてのカントⅠ』という表題で、『人間学』などを材料に…

『アメリカ文学のカルトグラフィ—批評による認知地図の試み』新田啓子(研究社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「文学研究の新たな地平へ」 作家であれ研究者であれ、この人と同じ時代を過ごすことができてよかった、と思える人々がいる。新刊を心待ちにしたり、掲載論文を探したりする対象は、多い方が楽しい−−すべてをフォローするのは大…

『Prep』Curtis Sittenfeld(Random House)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アメリカ東部のプレップ・スクールが舞台となった小説」 マサチューセッツ州ボストンで大学の4年間を過ごした僕は、時々マサチューセッツ州が恋しくなる。ボストンは都会なので、ボストンに行きたいとはあまり思わないが、大…

『カント先生の散歩』 池内紀 (潮出版社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 カントというと謹厳実直な哲学者を思い浮かべる人が多いだろう。毎日規則正しく散歩したので時計がわりになったという逸話がいよいよ気難しそうなイメージを強める。 しかしカントを直接知る同時代人の書簡や回想によると、実際…

『忘れられたワルツ』絲山秋子(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「トカトントンの降臨」 絲山秋子は、2003年のデビュー以来、一定の質と量の執筆を維持しつつ、着々と成長している。粗暴な棘を孕んだ荒々しさと、心の機微を読む繊細さが巧みに同居するところに、この作家の醍醐味がある。二極…

『永遠平和のために』 カント (光文社古典新訳文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 カントが還暦を過ぎてから発表した政治哲学と歴史哲学に関する論文を集めた本である。 60歳は当時としては大変な高齢だが、カントは3年前に『純粋理性批判』を世に問うたばかりで、本格的な活動はこの頃からはじまる。『実践理…

『自然地理学』 カント (岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『カント全集』の第16巻で『自然地理学』をおさめる。 『自然地理学』とはカントがケーニヒスベルク大学の私講師となった翌年の1756年夏学期から事実上の引退をした1798年まで、実に43年間にわたって講義した科目である。1772年…

『日本料理の贅沢』神田裕行(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「真の日本料理とは?」 数年前から、パリは日本食ブームである。バカンス前は中華料理店だったのが、バカンスから帰ってきてみると「Restaurant Japonais」となっている事が珍しくなくなった。メニューは「寿司・焼き鳥」がメ…

『アイルランドモノ語り』栩木伸明(みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「だからアイルランドはおもしろい」 栩木伸明氏は、今、日本でもっとも元気な外国文学者のひとりだろう。専門はアイルランド文学。筆者が最初に手に取ったのは『アイルランド現代詩は語る ― オルタナティブとしての声』(思潮…

『エビと日本人Ⅱ-暮らしのなかのグローバル化』村井吉敬(岩波新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「二〇年経った」で始まる本書は、『エビと日本人』(岩波新書、1988年)の続編である。著者、村井吉敬は「この二〇年、エビとそれを取り巻く世界もかなり大きな変化に見舞われた。その変化が何なのか、そのことを本書のなかで…

『カント「視霊者の夢」』 カント (講談社学術文庫)/『神秘家列伝〈其ノ壱〉』 水木しげる (角川ソフィア文庫)

→『カント「視霊者の夢」』を購入 →『神秘家列伝〈其ノ壱〉』を購入 『視霊者の夢』は1766年、カントが42歳の時に出版したスウェーデンボリ論である(英語読みではスウェーデンボルグ)。 スウェーデンボリはカントより36歳年長のスウェーデンの科学者である…

『悲しき熱帯』Ⅰ&Ⅱ レヴィ=ストロース (中公クラシックス)

→『悲しき熱帯Ⅰ』を購入 →『悲しき熱帯Ⅱ』を購入 世界的なベストセラーとなったレヴィ=ストロースの自伝的紀行である。 原著は1955年に刊行されたが、日本では1967年に『世界の名著』第59巻にマリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』(これも文化人類学の…

『改訂普及版 人類進化大全』 ストリンガー&アンドリュース (悠書館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 古人類学の図鑑である。原著は2005年に刊行され、2011年に改訂版が出た。日本では2008年にハードカバーで邦訳が出ているが、1万2600円という個人には手の出しにくい価格だったので、2012年に装幀を簡略化し価格を6,090円におさ…

『歌うネアンデルタール』スティーヴン・ミズン、熊谷淳子訳(早川書房) & 『言葉と脳と心』山鳥 重(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 最近、気になっていることがある。言語と音楽の共通点だ。双方とも人類ならではのコミュニケーション手段だが、そこにはルールが存在する。言語には「単語」という部品があり、それらを組み合わせるための「文法」…