書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『バースト・ゾーン』吉村萬壱(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 『ハリガネムシ』で芥川賞を受賞した吉村萬壱の近未来SFである。早川書房から出ているので、おやと思ったが、半分まで読んで理由がわかった。これは100%まごうかたなき純正SFなのである。 三章にわかれるが、第一章はテロリンと呼ばれる…

『ノモンハンの戦い』シーシキン他著、田中克彦編訳(岩波現代文庫)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 モンゴルの首都ウランバートルの空港に到着して最初に向かったのは、街の中心から南に3キロの…

『Rock Between The Lines<br> ロックの英詞を読む』ピーター・バラカン(集英社)

ロックの英詞を読む" title="Rock Between The Lines ロックの英詞を読む" src="http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4797670908.jpg" border="0" /> →紀伊國屋書店で購入 BGM(Stanley Smith/In the Land of Dreams (2002)) 「もう返して no one's c…

『NHKにようこそ!』滝本竜彦(角川文庫)

→紀伊國屋書店で購入 引きこもり問題をあつかった記事や座談会でよく言及される作品で、引きこもり小説の傑作ということになっているようだ。 ご大層な解釈をする論者が多いが、実物はコミカルなライトノベルで、あっという間に読めた。ナイーブというか、衒…

『寛容について』マイケル・ウォルツァー(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「寛容の政治的戦略」 寛容の問題は、異なる共同体が出会ったときから発生する原初的な問題だ。それが寛容という概念で捉えられるようになったのは近代以降だろうが、他なる共同体から訪れた「他者」をどのように待遇するかという問題は…

『ウェブ進化論』梅田 望夫(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「ウェブ進化論」 Webのトレンドって何だろう?10年後のインターネットはどうなっているだろう? ネットの世界は進歩は速すぎて予想など不可能に思われるが、 本書を読めば確かな方向性を感じることができる。 インターネット関連のビジネ…

『告白』町田康(中央公論社)

→紀伊國屋書店で購入 昨年の文芸界最大の話題作であり、町田康の(現在までの)最高傑作といっていいだろう。 この小説は明治23年(1893)に実際に起きた「河内十人斬り」をモデルにしている。事件のあらましは帯に紹介されているが、Wikipediaをリンクして…

『The Bayeux Tapestry』Musset, Lucien /Rex, Richard (TRN)(Boydell & Brewer)

→紀伊國屋書店で購入 フランス・ノルマンディー北部の町、バイユーにある有名な作品。日本人研究者に人気のある題材と聞く。ノルマン人によるイングランド王戴冠の正当性を誇示する目的で製作された。作品自体はタペストリーというより、むしろ刺繍作品であ…

『五十からでも遅くない』瀬戸内寂聴(海竜社)

→紀伊國屋書店で購入 BGM(Genesis/Seconds Out (1977)) 「Max RegerはSerpentineにThe Ringを架けた すると半音階の回廊がHyde Parkの空を登り AgogikとDynamikの神が舞い降りた」 【1973 九段下】高校の頃、よく受験勉強の合間をぬって四谷のイグナチオ…

『対馬藩江戸家老-近世日朝外交をささえた人びと』山本博文(講談社学術文庫)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 近世(初期近代)の外交について知りたくて、本書を開いた。日本史研究は、文献も研究者も多く…

『こんにちはマイコン』すがやみつる(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 私がこの業界に足を踏み入れるきっかけになった本である。内容はよくあるハウツーものだが、80年代において小学生向けにマイコン(この言葉自体が泣かせる..)の書籍を出版しようと考えた小学館の蛮勇には頭が下がる。当時、コロコロ…

『青の歴史』ミシェル・パストゥロー(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「青だけでなく、西洋における色彩の歴史」 西洋の絵画における青というと、すぐにフェルメールを思い出したりするが、ぼくたちが簡単に考える色一つにも長い歴史があることを教えてくれる興味深い書物だ。西洋の歴史においては長い間、…

『赤ちゃんが教室にきたよ』星川ひろ子・写真 寺田清美・文 鈴木良東・文(岩崎書店)

→紀伊國屋書店で購入 娘が産まれて、小学校へ2ヶ月おきに1年間連れて行った。 幼子をエネルギーのかたまりのような小学生の中に連れて行くのは、 最初は勇気のいることだった。 しかし、絶対に必要な活動だと確信したので、協力することにした。 これは、…

POP工房『長い長いさんぽ』(須藤真澄、エンタ-ブレイン)

→紀伊國屋書店で購入 見本を出しておいて何ですが、できればこの本は「人前で読まない方がいい」です。私はついうっかり休憩時間に読んでしまい、もう大変でした。 彼と暮らすこと。いつか必ずサヨナラの時がくるとしても一緒に過ごしたあの日々は、とてもい…

POP工房『風味絶佳』(山田詠美、文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 恋心をぴたりと言葉にしてしまう、山田詠美さんの描く恋愛は、やっぱりひと味もふた味も違います。幸せと裏あわせになっている苦さやあやうさ、そういうものを全部ひっくるめて恋は甘いんだ――そんな豊かでえもしれぬ風味が文章からじわ…

『Trois jours chez ma mère』François Weyergans(Grasset)

→紀伊國屋書店で購入 Ce roman tant attendu de François Weyergans est enfin paru chez Grasset ; il a par ailleurs remporté le prix Goncourt.Dans Trois jours chez ma mère, François Weyergans écrit l’histoire de François Weyergraf qui tente d’…

新宿南店仕入だより~2月(奥田英朗『ガール』ほか)

→紀伊國屋書店で購入 【登場する新刊】 ●『 " target="_blank" >ガール』(奥田英朗、講談社) ●『銀齢の果て』(筒井康隆、新潮社) ●『 " target="_blank" >クロ-ズド・ノ-ト』(雫井脩介、角川書店) ●『きいろいゾウ』(西加奈子、小学館、3月刊行予定…

『空間の生産』アンリ・ルフェーブル著、斎藤日出治訳(青木書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 2005年11月10日、国営テレビ局フランス2に出演したサルコジ内相は、暴動に参加した移民出身の…

POP工房『ジェノサイドの丘―ルワンダ虐殺の隠された真実』上巻(P.ゴーレイヴィッチ、WAVE出版)

→紀伊國屋書店で購入 昨年のアカデミー賞でも高い評価を得た映画「ホテル・ルワンダ」。が、アフリカものは、日本ではなかなか受け入れられないetcということで、公開は未定…署名活動などの動きにより、この度、よーやく公開される運びとなった。この映画の…

POP工房『LOVE』(古川日出男、祥伝社)

→紀伊國屋書店で購入 登場人物たちが(猫たちが) 様々なエピソードが 出会ったり出会わなかったりすれ違ったり 流れるように進んでいく物語の中で 繰返し立ち上がってくる既視感のような風景 目を凝らして 耳を澄まして 気配感じて リズムをとって 頭と身体…

POP工房『犬はどこだ』(米沢穂信、東京創元社)

品がイイ! センスがイイ! とぼけた味わいがイイ! それでこのラスト! 今、米澤穂信ちょっとイイ! 【新宿本店・平野千恵子作店頭POPより】 →紀伊國屋書店で購入

POP工房『ナラタージュ』(島本理生、角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 「恋の終わりには理由がいる」そんなとある舞台の台詞を思い出しました。 結ばれぬ理由なんて何もありはしなかったのに 一度でも叶えられたならいつか色褪せることもあっただろうに 終わらなかった恋だからきっとずっと忘れられない ふ…

『美学への招待』佐々木健一(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「美学とは何か」「何をどう扱う学問なのか」「美学を知らなくては藝術は論じられないのか」…。わからないことばかりである。美学の学者なんて、霞を食べて生きている仙人のようなものではないか、と思いたくなる。 私のように音楽を専…

『科学的思考とは何だろうか-ものつくりの視点から』瀬戸一夫(ちくま新書)

→紀伊國屋書店で購入 このごろ気になっていることの一つは、占いの流行である。科学が発展し広く浸透してきている現代に、科学とは相容れないように見える占いの流行は、私には不思議である。我が家でも家族が朝のテレビで星占いなどの番組を見ながら、今日…

『日本の昔話』おざわとしお再話 赤羽末吉画(福音館書店)

→紀伊國屋書店で購入 日本各地の昔話をこつこつと再話した昔話集。 その数なんと301話。 こどもたちに一日に一つずつ読んできかせてちょうどよい。 (一年に35日くらいはさぼりそうだし・・・) 第1巻から第5巻へ、春夏秋冬と季節が過ぎていく構成に…

『福野礼一郎の宇宙(甲・乙)』(双葉社)

→福野礼一郎の宇宙(甲)を購入 →福野礼一郎の宇宙(乙)を購入 デザイナーを志す人のための必読書というと小難しい理論書ばかりを連想するかもしれませんが、そんなものばかりでもありません。気軽に読めて奥が深いものの筆頭に、グラフィック・デザイナー…

『Invible Monsters』Chuck Palahniuk(W.W. Norton)

→紀伊國屋書店で購入 This startling, raw novel deals mainly with cruelty and, trendy as it seems these days, numbness and fecundity in a modern America. The protagonist is former fashion model Shannon McFarland, turned monstrous when a horr…

『図書館力をつけよう』近江哲史(日外アソシエーツ)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 図書館が便利で使いやすくなると、著作権をもっている者にとって、敵になるのか味方になるのか…

『Leonardo』Kemp, Martin(Oxford University Press)

→紀伊國屋書店で購入 1月28日付けの日本経済新聞に「一度は見てみたい絵画」という読者アンケートが掲載された。全く驚くには値しないが、第1位はルーブルにある「モナリザ」で、5位がミラノのサンタ・マリア・デル・グラツィエ教会にある「最後の晩餐」と10…

『社会学になにができるか』奥村 隆 編(八千代出版)

→紀伊國屋書店で購入 「読者を当たり前の世界から説いて引き剥がす一冊」 前々回(2005年11月)には、初学者向けの入門書としてお勧めの浅野智彦編『社会学が面白いほどわかる本』を取り上げましたが、少し違ったタイプのものとして挙げられるのがこの本です…