書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

キノベス!2012

第1位『舟を編む』三浦しをん

→紀伊國屋書店で購入 (光文社/1,575円) 熱い。とにかく熱い!! 舞台は出版社、出てくるのはいい大人ばかり。けれどもこの作品は青春小説と言って良いのではないでしょうか。すごいアクションがあるわけでも激しい言葉のやりとりがあるわけでもない。だけ…

三浦しをんさん特別寄稿『辞書は「言葉」という希望を乗せた舟 』

キノベス!2012 第1位『舟を編む』 「いままで生きてきたなかで、『第1位』という事態を経験したことあったっけな」と考えてみたのですが、該当する記憶がまったくありませんでした。脳内の空白地帯を埋めてやろうというシナプスの粋なはからいなのか、徒競…

第2位『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』山崎亮

→紀伊國屋書店で購入 (学芸出版社/1,890円) 読み終わった後、希望で胸が熱くなった。人のつながりって、素晴らしい。人がつながり協力し合えば、困難な状況も必ず好転させることができるんだ。コミュニティの力を確信する著者の活動の記録には、社会の課…

山崎亮さん特別寄稿

キノベス!2012 第2位『コミュニティデザイン』 設計事務所に勤務しているときも、独立して仕事を始めてからも、最寄りの書店は紀伊國屋書店(梅田本店)でした。本が必要になればいつも駆け込んでいた書店です。このたび、愛着ある紀伊國屋書店の「キノベス…

第3位『アライバル』ショーン・タン

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,625円) なんの先入観もなく、まず手に取ってページを捲ってほしい絵本。これほどまでにイマジネーションを掻き立てられる「本」に出会ったのは多分初めてだと思う。絵の素晴らしさはもちろん、文章が無い、新しいタ…

第4位『困ってるひと』大野更紗

→紀伊國屋書店で購入 (ポプラ社/1,470円) 『困ってるひと』は、難病にあっても好奇心を失くさない「知りたがるひと」で、すぐに「行動するひと」でもある。やがて弊害にぶちあたった時には、はっきりおかしいといえる「疑問を持つひと」であり、八方塞が…

第5位『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ

→紀伊國屋書店で購入 (東京創元社/1,890円) 犯罪があるところには当然犯罪者があるわけで、つまりは犯罪を書くことは人を書くことであり、そしてここに書かれる人々はなんとも魅惑的。「『犯罪』って、いいね」なんて会話にすると誤解を生みそうなタイト…

第6位『人質の朗読会』小川洋子

→紀伊國屋書店で購入 (中央公論新社/1,470円) 昨年2月に刊行された小説だが、震災後の心にそっと寄り添ってくれる一冊だった。遠く地球の裏側で囚われた人々が、それぞれの記憶を語る。ささやかだけれど確固とした、時に美しい営みの証を。どんな人の内側…

第7位『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアズ

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/2,520円) オスカー・ワオは、そしてその家族たちは、どんなに困難な状況でも、己と周囲を傷だらけにしながら、愛を願い求める。これは遠い国、少し昔の時代の物語だけれど、彼らとぼくらにそう大きな違いはない。ドミニカ史…

第8位『中国化する日本』與那覇潤

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,575円) 32歳の気鋭の日本近代史家によるまったく新しい日本通史。「源平合戦は中国化勢力と反中国化勢力の争いだった」「戦国時代最大の闘いは関が原の闘いではなく石山戦争(織田信長VS本願寺)である」「じつは日本…

第9位『計画と無計画のあいだ―「自由が丘のほがらかな出版社」の話』三島邦弘

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/1,575円) 一冊一冊の本へのあたたかい思いが溢れていて、話を伺っているこちらもグッと胸がアツくなり、いつもお互いに感極まってしまう、それが社長・三島さんをはじめとするミシマ社の人たちと、そんな人たちから発…

第10位『笑い三年、泣き三月。』木内昇

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,680円) 数多くの傑作があった昨年。でも「2011年」という年に出会えてよかったと思えたのは、この小説でした。戦後の浅草、見世物小屋「ミリオン座」に集う、命のほかはすべてを失くした5人。生き残ったことに罪悪感を抱…

第11位『一般意志2.0―ルソー、フロイト、グーグル』東浩紀

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,890円) いまさら「がんばろう」と声をあげずとも、日本はずっとがんばってきた。理想の政治と国をめざして。なのにうまくゆかなくてみなが疲れきっている。この本はそんな日本のための、諦めと冷静さに支えられた処方箋だ…

第12位『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』三上延

→紀伊國屋書店で購入 (アスキー・メディアワークス/619円) 子供の時、初めて読んだ小説は、知らない言葉であふれていた。その言葉を辞書で調べて、意味を小説にメモして、ようやく読み切った。もしも大人になってそのなつかしい小説のなつかしいメモを見…

第13位『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) 世間から見向きもされない透明な存在だった冬子は、自分が孤独であることを引き受けることによって、確固たる一個人の尊厳を手に入れた。たとえ暗闇の中にも光はある。それは、孤独な自分に気づくことでようやく見…

第14位『暇と退屈の倫理学』國分功一郎

→紀伊國屋書店で購入 (朝日出版社/1,890円) 「人生は死ぬまでの暇つぶし」という言葉があるけれど、そもそも“暇と退屈”がなければ読書の時間だってありえない。あまりにありふれているのに誰もが逃れられない“暇と退屈”論。でも読みすすめるとタイトルに…

第15位『これはペンです』円城塔

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,470円) 叔父は文字だ文字通り。叔父から届く手紙、それは文章自動生成装置で書かれていたり、DNAや磁石なんかで書かれていたりで、これを読み解こうとする姪は中華鍋を焦がす程炒めてみたり、公安部から呼び出しを喰ら…

第16位『私のいない高校』青木淳悟

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) わからない。小説なのかわからない。誰が語っているのかわからない。色々わからない。でも、わからないことが楽しい。なにより、こんな小説が生まれてしまったことが楽しい。―――青木さんは、日本文学界における突然…

第17位『ソーラー』イアン・マキューアン

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/2,415円) 世の中に氾濫している能天気な「エコ」という文字が全部「エゴ」と書かれているように見えてきた。地球温暖化問題をめぐる様々な取組みは人類の叡智の結集!…ではなくて、まさかまさかの総勢70億人による茶番劇だ…

第18位『和子の部屋―小説家のための人生相談』阿部和重

→紀伊國屋書店で購入 (朝日新聞出版/1,785円) ワタクシ事ですが、インターネットでよく見かける「いいね!」というボタンがどうしても押せません。なぜなら「いいねえ…」と思ったり、「いいわあ!」と感じていたりするからです。何が違うのかって? いや…

第19位『ミステリウム』エリック・マコーマック

→紀伊國屋書店で購入 (国書刊行会/2,520円) ミステリ好きだったら、一度マコーマックを読んで頭の中のミステリの概念をひっくり返されたらいいと思います。いや、ホンマに。きれいに解けた謎をもう一回きれいにひっくり返す、人を小バカにしたマコーマッ…

第20位『円卓』西加奈子

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,299円) 西さんを育んできた愛情、西さんが育んできた愛情。そういうものが全部詰め込まれたこの作品には、夕餉のお味噌汁のような安心感がある。「3月11日」という日があって、誰もが一番に探し求めたもの、一番に見つけ…

第21位『たとへば君―四十年の恋歌』河野裕子・永田和宏

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,470円) たった31文字が伝えようとする思いはあまりにも深い。彼女は絶筆となった歌にどれほどの想いをこめたのか。呼吸するように、けれど己を見つめてみつめて紡がれるがゆえに、歌が私たちの心をとらえるのは当たり前…

第22位『未来ちゃん』川島小鳥

→紀伊國屋書店で購入 (ナナロク社/2,100円) 未来ちゃん、ブルータスの表紙をひと目見た瞬間からメロメロです。キュートなだけじゃなく、大人をドキッとさせるその瞳はズルイ。未来に期待いっぱいの未来ちゃんに連られて自分の未来も明るくなりそうな予感……

第23位『ワーカーズ・ダイジェスト』津村記久子

→紀伊國屋書店で購入 (集英社/1,260円) 理不尽な仕打ちにじっと耐え、腑に落ちない命令にも黙々と従い、合わない同僚とも極力波風立てずに。しんどいけれど、働くってそういうこと。おしごと男女あるある満載。みんな頑張ってんだよな、と思えば、明日も…

第24位『大人の流儀』伊集院静

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/979円) 一般的な常識マニュアルにあらず、大人の男の本音が烈しく突き刺さる。「大人の流儀」、いや、伊集院静の流儀がここにある。大胆かつ潔い人生哲学。スポーツ、酒、ギャンブル… 「遊びだからこそ、いい加減にしない!…

第25位『紙の民』サルバドール・プラセンシア

→紀伊國屋書店で購入 (白水社/3,570円) 「土星が俺たちを監視してる」「土星と戦争する」 何だそれ! 突っ込んだ時にはもう負けてます。引き込まれてます。SFなのか、SFという枠にすらはまらないのか、怪物新人出現!! 〔泉北店・川村学〕 →紀伊國屋…

第26位『かんさい絵ことば辞典』ニシワキタダシ

→紀伊國屋書店で購入 (ピエ・ブックス/997円) ほんまにこの本はうまいこと出来てます。ありえないシチュエーションの中で個性豊かなキャラクターが関西弁を巧みに使い、一瞬で笑いを取る… 笑いを愛する関西の醍醐味がきゅっと凝縮されてます。また、話が…

第27位『銀の匙①』荒川弘

→紀伊國屋書店で購入 (小学館/439円) 北海道出身で、あの『鋼の錬金術師』の著者がおくる農業高校を舞台とした青春学園漫画。だがしかし、ただの「青春学園」とは訳が違う。「農業」という過酷な職業がコミカルにまたはシリアスに描かれている。これは、…

第28位『コケはともだち』藤井久子

→紀伊國屋書店で購入 (リトルモア/1,575円) 私は苔になりたい。そう思える程、これまでの苔のイメージをくつがえす、素敵なコケの性質がかわいらしい挿絵つきで解説された一冊です。生息する場所を選ばず、どこででも生きられるが、他生物に迷惑をかける…