書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『ぼくは猟師になった』千松信也(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 狩猟というと「特殊な人がする残酷な趣味」といった偏見を持っている人が多いです。 また、狩猟をしていると言うと、エコっぽい人たちから「スローライフの究極ですね!」などと羨望の眼差しを向けられることがあります。でも、こういう…

『朝鮮植民地支配と言語』 三ツ井崇 (明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 ついこの間まで日本は日韓合邦時代に朝鮮語を禁止したとかハングルを抹殺しようとしたといった日本悪者論が横行していたが、『嫌韓流』のブームで日本が欧米の植民地ではありえない普通教育を実施し、しかも朝鮮語を必修科目としてハン…

『毎度!浦安鉄筋家族 』浜岡賢次(秋田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「今に生きる、古き良きギャグマンガの王道」 「研究しています」と胸を張ってまでは言えないけれども、私にとって、マンガを読むことはほぼ欠かせないライフワークとなっている。 漫画家を志した兄の影響もあって、生まれた時から数百…

『男性不況―「男の職場」崩壊が日本を変える』永濱 利廣(東洋経済新報社 )

→紀伊國屋書店で購入 「男の生きづらさを社会の変化から読み解く一冊 」 いつ頃からかは失念してしまったが、大学で成績をランキング化すると、女子学生がほぼ上位を独占するような傾向が見られるようになって久しい。個人的な体験から言っても、少なくとも1…

『ジャニヲタあるある』みきーる【著】 二平 瑞樹【漫画】(アスペクト)

→紀伊國屋書店で購入 「「キャラ化」するオタク 」 本書は、いわゆるジャニヲタとよばれる、ジャニーズ系男性アイドルのファンたちの実態を、イラストを交えながら面白おかしくまとめたものである。 勤務先の大学にもジャニヲタがたくさんいるのだが、その中…

『ハングルの歴史』 朴永濬他 (白水社)

→紀伊國屋書店で購入 最初に手にとった時は論文集かなと思ったが、読んでみると学術的というよりは雑学寄りの本だった。 邦題は『ハングルの歴史』となっているが原題は『韓国語の謎』だそうで、韓国語表記の歴史をめぐる14本のエッセイがおさめられている(…

『コルシア書店の仲間たち』須賀敦子(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「「せつなさ」の溢れるエッセイ」 本に関してはどうも時々天の邪鬼な癖が出る。人が良いといったのに、なかなか手に取ることができない。そして、後でとうとう読み始めた時に後悔する。何故もっと早く読まなかったのだろう、と。須賀敦…

『ハングルの成立と歴史』 姜信沆 (大修館)

→紀伊國屋書店で購入 韓国で1987年に上梓された姜信沆『訓民正音研究』の日本語版で、著者自身が邦訳している。『訓民正音』の訳読と関連論文を四部にわけて収録している。 困ったことに本書はすべて横書である。漢文を引用する場合はまず白文を掲げ、括弧で…

『訓民正音』 趙義成 (平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 世界にはさまざまな文字があるが、実際に使われた文字で誕生の経緯が文書として残っているのはおそらくハングルとパスパ文字くらいだろう。則天文字にも「改元載初赦文」が伝わっているが、いくつか造字しただけで文字体系を作ったわけ…

『ハングルの誕生』 野間秀樹 (平凡社新書)

→紀伊國屋書店で購入 ハングルは15世紀という遅い時期に他の文字を十分研究した上で作られたので造字原理が非常に洗練されている上に、誕生の経緯を記した文書群が今日に伝わっている。南北朝鮮の人たちがいうような至上の文字だとか万能の文字だという自画…

『ギャンブル依存との向きあい方:一人ひとりにあわせた支援で平穏な暮らしを取り戻す』認定NPO法人ワンデーポート編(中村努・高澤和彦・稲村厚)(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「支援の場を<ずらす>こと」 大学院の修士課程に入って研究をスタートさせようとしたころ、私はアルコール依存の人たちによるセルフヘルプ・グループ(自助グループ)に参加し始めました。そこでは、参加者たちが自分の体験を開示し語…

『韓国が漢字を復活できない理由』 豊田有恒 (祥伝社新書)

→紀伊國屋書店で購入 親韓派による韓国の漢字廃止批判である。 豊田有恒氏は『宇宙戦艦ヤマト』の設定者として有名だが、ヤマトタケルを主人公にしたヒロイック・ファンタジーを手がけたあたりから日本の古代史や朝鮮半島の歴史に関心を広げ、そちらの方面の…

『The Great Inversion and the Future of the American City』Alan Ehrenhalt(Alfred Knopf)

→紀伊國屋書店で購入 「21世紀に入っての米国の新たな人口の動き」 この間、用があって久しぶりにニューヨークのロワー・イーストサイドを歩いたらあまりに綺麗になっていたのでびっくりした。 おしゃれなレストランやブティックが並び、通りの様子は数年前…

『孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生』 前野 ウルド 浩太郎(東海大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 バッタ。バッタに興味ありませんか? あまりない。ほとんどない。まったくない。むしろ苦手だ。見るのも嫌だ…。そんなあなたにとって、この本は、ぱらりと開いたその日からバッタが、いやバッタ博士が頭から離れなくなってしまう悪魔の…

『極楽・大祭・皇帝―笙野頼子初期作品集』笙野頼子(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「三尺玉の祟り」 『二百回忌』を読んだら風邪をひいた。病床で『母の発達』を読んだら、支離滅裂な夢を見続けた。プロットはあったような気がするが、飛躍が過ぎて、脳が追いつけない。今となっては、イメージの残滓すらない。床上げし…

『<small>哲学の歴史 08</small> 社会の哲学』 伊藤邦武編 (中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第8巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本巻は18世紀末のフランス社会主義から20世紀のホワイトヘッド…

『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』森岡督行 (ビー・エヌ・エヌ新社)

→紀伊國屋書店で購入 「"日本の対外宣伝グラフ誌"の、美しい宣伝グラフ誌」 タイトルにある1931年から1972年は満州事変から札幌オリンピックに重なる。東京・茅場町で古書店を営む森岡督行さんが、この間に刊行された"日本の対外宣伝グラフ誌"から106点を選…

『ぼくらの昭和オカルト大百科―70年代オカルトブーム再考』初見健一(大空出版)

→紀伊國屋書店で購入 ノストラダムスの大予言。ネッシー。ツチノコ。ユリ・ゲラー。スプーン曲げ。UFO。あなたの知らない世界。心霊写真。コックリさん。口裂け女。これら実にいかがわしいトピックが日本全土を座巻した時代がありました。 70年代です。…

『資源の戦争-「大東亜共栄圏」の人流・物流』倉沢愛子(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「本書を通じて訴えたかったことは、住民にそれだけの犠牲を強いて実施した経済施策は、全く現地の実情や民生の向上などを考えず、そのために意図せざる人的被害を現地の社会にもたらしたということ、そしてそれだけの犠牲を強いて実行…

『ベートーヴェン』平野昭(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 「作曲家 人と作品シリーズ」の中の一冊だ。9月に刷り上がったばかりだから、ベートーヴェンの伝記として、現時点では世界でもっとも新しいものだろう。ベートーヴェンの生涯を追った伝記の部分とともに活気にあふれた言葉でまとめられ…

『なんらかの事情』岸本佐知子(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「岸本道場の掟」 出た、と思った人も多いだろう。 『気になる部分』『ねにもつタイプ』につづく〝タイトルが七五調〟シリーズのエッセイ集第3弾。今回はちょっと字余りだが、細かいことは気にしなくていい。 電車の中で読んではいけな…

『 Shades of Justice』Fredrick Huebner(Simon & Schuster)

→紀伊國屋書店で購入 「法医学者ウィル・ハットンが活躍する法廷スリラー」 今回、読んだ本は、法廷スリラーの『Shades of Justice』。著者のフレドリック・ヒューブナーはシアトル州で資格を持つ弁護士だ。 「弁護士が書く法廷スリラー」。どこかで聞いたこ…

『スペイン帝国と中華帝国の邂逅-十六・十七世紀のマニラ』平山篤子(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 帯に、「マニラにおけるスペイン政庁設立の1571年から1650年前後まで、スペイン人と華人との邂逅を地球一元化の過程における画期と位置づけ、両者の関わりにおいて惹起された事件を軸に、「ヒトの移動と邂逅」を考察」とある。著者平山…

『永遠まで』高橋睦郎(思潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「異時間体験の方法」 詩を読む人が少なくなっている理由のひとつは、日常生活の中に〝詩のための時間〟がないことだと思う。詩には、ふつうの時間とはちょっと違う時間が流れている。ふだんの生活にひたったまま接するのは難しい。だか…

『私の献立日記』沢村貞子(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 今夜の献立をどうするか。 ご飯のしたく=料理をすること、と、人のつくったものを食べるだけの人は考えるようだが、献立の決定と材料の調達からそれははじまっていて、しかも、連綿とつづく日常生活のなかで、栄養が偏らないよう、飽き…

『ハグモミ』手島渚(マーブルトロン)

→紀伊國屋書店で購入 「ハグするように、モミモミしよう!」 「ハグするようにモミモミしよう!」 想像しただけで、うっとりする言葉だ。 「ハグモミ」は若きセラピスト、手島渚さんが、 暮らしの中でパートナーと、家族と、子どもと、 それから、なによりも…

『気仙川』畠山直哉(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「見えること」と「見えないこと」のはざまに立つ もっと早くにこの写真集を取り上げたかったのに、時間がとれないまま11月になってしまった。もっと早くに、と思ったのは、東日本大地震の惨状を写した写真への世間の関心が、日に日に遠…

『コロニアリズムと文化財-近代日本と朝鮮から考える』荒井信一(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 近年日本と韓国の学術交流がさかんになって、日本人研究者が韓国で発表する機会も増えている。これらの日本人研究者、とくに日本考古学、日本近現代史を専門とする者は、本書で書かれているようなことを充分に認識しているのだろうか。…

『The Greatest Player Who Never Lived : A Golf Story』 J. Michael Veron(Broadway Books)

→紀伊國屋書店で購入 「史的事実も交えたエンターテインメント性の高いゴルフ・ストーリー」 もう二〇年以上昔の話となるがニューヨーク州ロングアイランドに住んでいた頃、近くにゴルフ場があったので、ゴルフ好きな友人に連れられゴルフをやった。 それま…

『わたしは菊人形バンザイ研究者』川井ゆう(新宿書房)

→紀伊國屋書店で購入 「菊人形は日本人共有の秋のガーデン」 菊人形、あったあった。遊園地か公園に入ってすぐの右か左に並んでいた。菊の衣装がきれいというより、白々とした顔や手足が怖かった。NHK大河ドラマの一シーンかなにかだったのだろう。祖父母か…