書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『ウィキペディアで何が起こっているのか』 山本まさき&古田雄介 (オーム社)

→紀伊國屋書店で購入 『ウィキペディア革命』はWikipediaを文化論の視点から俯瞰的に論じていたが、本書は日本語版Wikipediaがどのような人たちによって、どのように運営されているかに注目していわば等身大に論じている。著者の山本まさき氏はSE、古田雄介…

『猫毛フェルトの本』蔦谷香理(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 よく、切った爪を捨てずに保存する性癖の持ち主がいるが、あれはいったいどういう心理に基づいているのだろう。切られた爪は自分の一部、それをゴミと一緒に葬り去るのは忍びない、という強烈な自己愛のせいなのか、それとも、たんぱく…

『2011年 新聞・テレビ消滅』佐々木俊尚(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」 日本のテレビ、新聞などのマスメディアのビジネスモデルがまもなく崩壊する、ということを事実を元に提示したノンフィクション。著者は、IT分野を専門に、ネットとリ…

『よくわかる国際社会学』樽本英樹(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「もうあと少し…」の知的好奇心に応える入門書」 世界地図や地球儀をみると、世界中の陸地が国境と線で区切られ、必ずどこかの「国」に属するようになっています。また、それぞれの領域に住んでいる人は「~人」という国民としてとら…

『ウィキペディア革命』 アスリーヌ編 (岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書はフランスのグランゼコールの一つであるパリ政治学院(シアンスポ)で講師をつとめるピエール・アスリーヌが、演習でおこなったWikipediaに関する調査をもとにまとめた本である。パリ政治学院を卒業したばかりの若いジャーナリスト…

『TOKYO一坪遺産』坂口恭平(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 はじめてパリに行ったとき、その街並み、建築はもちろんだが、ああ、西洋だなあ、としみじみ感じたのは、建設現場のありようを見たときだった。ちょうどルーヴル美術館が「グラン・ルーヴル・プロジェ」、ミッテラン政権下の大再開発の…

『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』マリ-・フランス・イルゴイエンヌ/高野 優 訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「モラルハラスメント」と翻訳者の社会的責任」 高野 優(=翻訳家) 翻訳者は社会的な存在ではない。と、長い間、思っていた。もちろん冷静に考えれば、それがまちがいだとすぐわかる。なんらかの職業についていて、社会と関わりを持…

『The power of the dog』Don Winslow(Vintage Books)

→紀伊國屋書店で購入 「荒々しい疾走感が味わえる作品」 ロサンゼルスに住んでいた頃、車を飛ばしてサンディエゴを抜けアメリカの国境を越えメキシコのティワナまで行った。 アメリカの永住権をもっていた僕は、アメリカを出てメキシコに行って、そのあと何…

『慰霊・追悼・顕彰の近代』矢野敬一(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 冒頭で、著者の矢野敬一は、「本書の目的は、近代において慰霊、追悼、そして顕彰といった事象がどのような政治的力学をはらみ、またそうした力学を通して家あるいは郷土というローカルな次元での共同性がいかに構成、もしくは再構成さ…

『私という運命について』白石一文(角川文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「運命とは何者なのか」 フランス人はラテン系人種の特色を見事に見せる時がある。明確に言えば、「いい加減」な時があるのだ。これを、許せるか許せないかは、人による。ドイツ的気質を好む人にとっては、たまらなく嫌だろうし、ラテン…

『新編 音楽家の社会史』西原稔(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 数十年前に出版された『音楽家の社会史』がこのたび「新編」として再版されることになった。大歓迎だ。歴史の本にありがちな古色蒼然とした内容とは一線を画し、現代の世相につながる接点がたくさん含まれている。今回あらためて読みな…

『エレファントム』ライアル・ワトソン(木楽舎)

→紀伊國屋書店で購入 「科学と非科学のはざまを駆け抜ける」 ライアル・ワトソンと聞くと、遠い昔のように感じるのは、80年代に一世を風靡した後、パタリと名前を聞かなくなったからだろうか。一種の流行現象のような印象があったので、この本を目にしたとき…

『月魚』三浦しをん(角川文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「友人以上家族未満?」 連載が長く、ヒットしている漫画の初期の頃を見ると、絵があまり上手でないことに驚くことがある。しかし、第一巻から読み返してみると、絵が不十分な時でも、何か強烈な魅力を持っているものである。小説にも同…

『ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて』生井久美子(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「苦悩には意味がある」 本書の主人公、福島智さんは幼少の頃に光を失い18歳で音も奪われ、盲ろうになった。そして、プロローグの詩にあるように、「闇と静寂の中でただ一人ことばをなくして座っていた」が、現在は東大教授。3年前の…

『からゆきさん物語』宮崎康平(不知火書房)

→紀伊國屋書店で購入 1960年前後に書かれた本書を、わたしたちはどのように読めばいいのだろうか。 本書は、「からゆきさん」の実録を基に書き起こした小説である。「からゆきさん」といえば、1972年に発行された山崎朋子『サンダカン八番娼館』(74年に映画…

『逃亡くそたわけ』絲山秋子(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「頼むから俺を観察しないでよ」 絲山秋子は大好きな作家なのだが、そればっかり続けて読む気はしない。ずっとそこに居続けたい、しっとりその雰囲気に浸りたい、という類の小説ではないのだ。もっとケンカ的というか、向こう気が強くて…

『旅の夢かなえます』三日月ゆり子(読書工房)

→紀伊國屋書店で購入 「旅は異文化コミュニケーションであり、そして人生そのもの。」 日本は諸外国と比較すれば、高速道路、鉄道、バスなどの交通インフラが縦横に張り巡らされた便利な国だと言えるでしょう。 しかし、日本はどんな人でも自由に移動ができ…

『私のなかの東京  わが文学散策』野口富士男(岩波現代文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「東京のアーキテクチャを批判するのでなく、そのテクスチャーを味わうこと」 前回の「つけたし」に書いたように、坪内祐三お薦めの野口富士男の短編集『暗い夜の私』(1969年、講談社)を読んで、私は大きな衝撃を受けた。素晴らしいと…

『The Yankee Years』Joe Torre/Tom Verducci(Doubleday )

→紀伊國屋書店で購入 「ジョー・トーリのヤンキース」 1980年代からニューヨークに住んでいる僕は、当然のことながらヤンキースのファンだ。知り合いにはメッツのファンもいるが、昔からナショナル・リーグよりアメリカン・リーグに親しみを感じていて、…

『資本主義に徳はあるか』アンドレ・コント=スポンヴィル/小須田健&コリーヌ・カンタン訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「経済と倫理のあいだ」 小須田健(中央大学ほか講師=訳者) 最近では、店頭まで行かなくともインターネットで商品が購入できる。たいがい品物は宅配便でくる。近年急成長のこのサービスは質の向上が著しい。配送日時指定やクール便は…

『ヒューマニティーズ-歴史学』佐藤卓己(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書を読んで悲しくなった。この手の入門書は、著者が自分の読書歴にもとづいて書かれている。著者と同じ本や同種の本を読んだことのある者は、頷きながら、あるいは自分と違う読み方をしていると反発しながら、読み進める。しかし、本…

『内田百閒( (ちくま日本文学 1) (文庫) 』内田百閒(ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ">「深入りしない物(もの)の怪(け)」 内田百閒の作品では、始終、男が歩いている。大概は、土手を歩いている。歩いているうちに、しばしば、物の怪が現れる。両者はしばらく同行し、いかにも物の怪らしい挙動があったりなかったりして、…

『脳のなかの水分子―意識が創られるとき』中田 力 (紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「三丁目で見た夕日」 (中田 力・新潟大学統合脳機能研究センター長=著者) 秋晴れがきれいな日だった。 図書館の地下食堂から裏庭を抜けて北病棟に戻ろうと思っていた私は、垣根を越えたところで踵を返した。三四郎池を横目に見なが…

『眼の冒険―デザインの道具箱』松田行正(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「『眼の冒険』のブックデザイン賞と次作について」 (松田行正・グラフィックデザイナー=著者) 成人になってから授賞式で賞状を受け取るなんてはじめて。賞を頂くということがこんなに気持ちのよいことなんて知らなかった、というの…

『英霊-創られた世界大戦の記憶』ジョージ・L・モッセ著、宮武実知子訳(柏書房)

→紀伊國屋書店で購入 「戦後日本の「ねじれ」を解く鍵がここにある!」「欧州の「戦後」、すなわち第一次大戦後ドイツで展開された戦没者崇拝をめぐる左右勢力の攻防。靖国問題を読み解くためにも欠かせない一冊」。本書の帯に、こう書かれているが、その意…

『IN』桐野夏生(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「『OUT』から『IN』へ」 桐野夏生は、一九九七年に出た『OUT』で大きな注目を集めた。工場の深夜パートに出ている団地の主婦たちが、夫の暴力や介護、貧困でじりじりと心身をすり減らすなか、ほんのささいな偶然からバラバラ殺人の…

『ニッポン画物見遊山』山本太郎 (青幻舎)

→紀伊國屋書店で購入 「ニッポン画党のマニフェスト」 『ニッポン画物見遊山』というタイトルに似合うお名前の画家・山本太郎さんは、画学生であった1999年に「ニッポン画」を定義づけ、制作と発表を続けてきた。2009年初夏、京都で開かれた個展「ニッポン画…

『抒情するアメリカ ― モダニズム文学の明滅』舌津智之(研究社)

→紀伊國屋書店で購入 「敗北と文学」 なぜ文学研究は、判で押したように「抑圧された欲望」とか「ジェンダーのゆらぎ」といったフレーズでオチをつけるんですか? 最初から結末が決まってるのでしょうか? なんていうことをいやらしく問うてくる学生がいたと…

『奇想ヤフオク学』橋本憲範(平安工房)

→紀伊國屋書店で購入 「古本を3億円売って世界一周!」 6年間で3億円の古書を売り切った、伝説の古書店エーブックスの店主が書いた、ヤフオクビジネスのすべて。この本の存在をまったく知らなかった。 まずはこの書籍にたどり着くまでのことを書きます。 …