書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『科学の花嫁 ロマンス・理性・バイロンの娘』 ウリー (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 本書はラヴレス伯爵夫人オーガスタ・エイダ・キングの伝記である。 彼女はある事情からファーストネームのオーガスタではなく、セカンドネームのエイダと呼ばれた。エイダは生前はバイロン卿の娘として著名だったが、現在では世界最初の…

『ドレスを着た電信士マ・カイリー』 松田裕之 (朱鳥社)

→紀伊國屋書店で購入 女電信士マ・カイリーを軸にアメリカの電信事業の栄枯盛衰を描いた本で、読物として抜群に面白い。 マ・カイリーは綽名で、本名をマッティ・コリンズという(カイリーは二度目の夫の姓)。彼女は22歳から62歳まで40年間電信士として働き…

『モールス電信士のアメリカ史』 松田裕之 (日本経済評論社)

→紀伊國屋書店で購入 副題に「IT時代を拓いた技術者たち」とあるように19世紀の通信革命に現在のインターネット革命の原型を見ようという本である。『ヴィクトリア朝時代のインターネット』とテーマは共通するが、『ヴィクトリア朝』が腕木通信を含めた大西…

『第四の消費―つながりを生み出す社会へ』三浦展(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「個人化の果てに生まれた、消費社会の新たなステージ」 現代は、個人化社会であるといわれる。人の手を煩わせずとも、ほとんどのことが自分一人でできるようになりつつある。ケータイやスマートフォンさえあれば、いつでもどこでも、好…

『文学 2012』日本文藝家協会(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「2011年を考えるための1冊」 年の瀬も押し詰まると、誰しも一年を振り返る事が多くなるだろう。『文学2012』はその一助となる。ただしここに収められているのは2011年の文芸雑誌に掲載された短編である。その意味では、振り返る一年は2…

『母の遺産 新聞小説』水村美苗(中央公論社)

→紀伊國屋書店で購入 「Aujourd'hui, maman est morte.」 水村美苗の『母の遺産 新聞小説』は、主人公の美津紀の母が死に、入居していた老人ホームから戻ってくる金額を、姉の奈津紀と電話で話している場面から始まる。何とも即物的な会話だと感じられるが、…

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』 スタンデージ (NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 19世紀の通信革命を描いた本である。 通信革命というと電信の発明が目立つが、革命は電信以前からはじまっていた。フランスのクロード・シャップが発明した腕木通信である。 シャップは電気的にメッセージを伝えようとしたが、まだ技術…

『謎のチェス指し人形「ターク」』 スタンデージ (NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 ポオが26歳の時に書いたエッセイに「メルツェルの将棋差し」がある。 メルツェルの将棋差しとはメルツェルという興行師が1826年にアメリカに持ちこんだチェスをさす自動人形(オートマトン)のことで、ニューヨークやボストン、フィラデ…

『日本はなぜ敗れるか―敗因21カ条』山本七平(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「安倍晋三“想定外”内閣」成立時にこそ読み返すべき著作」 先日行われた衆院選の結果、自民党が圧勝し、安倍晋三氏が再び首相の座につくこととなった。選挙での勝利それ自体については、大方の予想通りであったものの、その後彼らが進…

『ギャルと不思議ちゃん論―女の子たちの三十年戦争』松谷創一郎(原書房)

→紀伊國屋書店で購入 「女子コミュニケーションの通史として」 女子会という言葉がある。男子抜きで女子だけで気ままに集まる会合を意味しており、今や多くの人が知ることとなった言葉だが、先日、ツイッター上でその裏側の定義ともいうべきものを見つけて、…

『受動喫煙の環境学―健康とタバコ社会のゆくえ』村田陽平(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「ジェンダー地理学の興味深い実践例として」 ふと考えてみたのだが、タバコを吸う女性とタバコを吸わない男性とでは、どちらが肩身の狭い思いをするのだろうか。 今日の日本社会で考えてみると、特に女性の若年層における喫煙者の割合…

『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』 マーチャント (文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 先日NHKの「コズミック・フロント」で「古代ギリシャ 驚異の天文コンピューター」という番組が放映された。 1900年にギリシアのアンティキテラ島の沖合で古代の沈没船が発見された。大理石やブロンズの彫像など貴重な遺物が引きあげられ…

『<small>哲学の歴史 09</small> 反哲学と世紀末』 須藤訓任編 (中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第9巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本巻はウィーン体制成立から第一次大戦までの百年間のドイツ語…

『あたらしいみかんのむきかた』岡田好弘 神谷圭介(小学館 )

→紀伊國屋書店で購入 もうすぐお正月ですね。強制的に集められた親戚同士、旧交を深め合わなければならない微妙な季節です。義理の家族への対応にも頭が痛いですね。共通の話題もないし禁句も多い。「孫はまだかしら」とか「お義母さまの味付けって濃いです…

『二〇世紀の戦争-その歴史的位相』メトロポリタン史学会編(有志舎)

→紀伊國屋書店で購入 「二〇世紀は、義和団の乱とボーア戦争[に]よって幕を開け、第一次および第二次世界大戦という二度にわたる未曾有の大戦争を人類は経験した。一九一四年以降、二〇年代の一時期を除いて地球上に戦争がなかった年はないと言われ、戦争…

『ことり』小川洋子(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「怖い声が聞こえる」 「ことり」とは「小鳥」のことだが、平仮名になっていると擬音語の「ことり…」も連想されるだろう。さらに作品の後半では、ある禍々しい意味がちらっと示される。私たち読者は早くこの胸騒ぎから解放されたいのだ…

『世界で1番大切なことの見つけかた PRESENT』坂之上洋子(メディアファクトリー)

→紀伊國屋書店で購入 「クリスマスシーズンを生き抜くために」 クリスマスって幼い子どものいる家庭や 一緒に何気なく過ごす人がいる人には やってきて当たり前の年中行事のひとつだろうけど、 そうではない人にとっては、 悲しく、痛く、辛い1日。 どうや…

『フランス人の流儀 日本人ビジネスパーソンが見てきた人と文化』日仏経済交流会(大修館書店)

→紀伊國屋書店で購入 「フランス(人)との上手なつきあい方が学べる!」 フランスに赴任する人や長期滞在を考えている人は元より、短期留学を考えている人、または単なる観光旅行よりももう少し深くフランス人と触れ合いたいと思う人々にとって、『フランス…

『テラフォ-マ-ズ』貴家悠 橘賢一(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「テラフォーミング」という言葉をご存知でしょうか。惑星地球化計画、つまり他の惑星を人類の住みやすいように改造する計画のことです。最有力候補地は地球と環境が似ている火星。人類が火星に住むなんて、今は想像すらできませんが、…

『Tepper Isn't Going Out』Calvin Trillin(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨークの駐車スポットを題材にした小説」 ニューヨークに住んで、もう15年近く車を持たない生活をしている。しかし、最初の1年目だけ僕は車を持っていた。アメリカで車のない生活は考えられないので、その前に住んでいたロサ…

『編集復刻版 南方開発金庫調査資料(一九四二~四四年)』早瀬晋三編集・解説(龍溪書舎)

→紀伊國屋書店で購入 南方開発金庫は、日本占領下の東南アジアで、事実上、中央銀行として活動した日本政府の金融機関である。占領地の資源開発のための資金を日本の軍受命企業に融資するなど、軍政に大きくかかわり、占領地の住民への影響も大きかった。そ…

『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』寄藤文平(美術出版社)

→紀伊國屋書店で購入 著者は広告のアートディレクションやブックデザインを手がけるデザイナー、イラストレーター。本書は、それまでの仕事をまとめたギンザ・グラフィック・ギャラリーでの展覧会「寄藤文平夏の一研究」と連動し、著者が、その生業において…

『海のいる風景 重度心身障害のある子どもの親であるということ』児玉真美(生活書院)

→紀伊國屋書店で購入 「親子の間に横たわるもの」 子を授かると、新品の電化製品を購入するかのごとく、どこにも欠陥がなければいいとか、返品不可能なのだから、などと思ってしまう。重い障害のある児は生まれない方がいいとさえ言われてきた。だが、社会と…

『江戸の読書会』前田勉(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「近世にあった「創造的な場」」 『ジェイン・オースティンの読書会』みたいなものを連想すると、大分ちがうようだが、江戸時代の日本にも「読書会」があったらしい。『江戸の読書会』という書名をはじめて見たとき、山田風太郎の小説『…

『評伝小川国夫 ― 生きられる〝文士〟』勝呂奏(勉誠出版)

→紀伊國屋書店で購入 「作家と失敗」 文学研究について不安を持つ人は多い。いったい何を「研究」するんですか?と。文学ってそういうもんじゃないでしょう?と。でも、そうでもないのだ。文学についてあれこれ知的探究をすることは十分に可能なのである。た…

『指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語』菊池美佳子(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 テレフォンセックスと聞いて何をイメージしますか? 私が思い出すのは「セックス・アンド・ザ・シティ」のワンシーン。ニューヨーク在住の独身女性キャリーが元彼とセクシーな言葉の応酬で楽しむ場面です。正直思いました。電話でセック…

『アホウドリと「帝国」日本の拡大-南洋の島々への進出から侵略へ』平岡昭利(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 12月5日(水)NHKテレビは、絶滅が心配されている国の特別天然記念物アホウドリが、現在の繁殖地である伊豆諸島の鳥島から南に350キロ離れた小笠原諸島の聟島への移転の期待が膨らんだことを報道した。鳥島はしばしば火山の噴火で壊滅的…

『僕らが育った時代1967-1973』武蔵73会(れんが書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 手前味噌ながら紹介させていただきたい本がある──というのは、本書には私自身が担当した部分(“武蔵の時代──親子関係のひずみ”)も含まれているからだ。いや、それだけではない。書評空間の評者のひとりである西堂行人(舞台芸術)も貴…

『弱いロボット』岡田美智男(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「ひとりでできないもん、って、つぶやいていたんだけど」 ロボット開発の話かと思いきや、そうではなかった。この本は私に「違う話」をしたがっている。いや、もちろん著者の岡田美智男さんは優秀な科学者でロボットの開発者で、そして…

『The Dogs of Babel』Carolyn Parkhurst(Back Bay Books)

→紀伊國屋書店で購入 「愛する人を失った悲しみを乗り越えようようとする物語」 アメリカに住んでいてこんな話を聞いたことがある。犬を飼っていた家族が引っ越しをすることになり、犬を連れて車で引っ越しをした。しかし、途中の休憩所で犬が他の犬と喧嘩を…