書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『誰も読まなかったコペルニクス』 ギンガリッチ (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 科学革命の端緒となったコペルニクスの『回転論』は1453年の初版が273部、1566年の第二版が325部残っているが、著者のギンガリッチは世界中を飛びまわって現物にすべてあたり、本の現状と来歴、補修の有無、書きこみを調べ、2002年に『…

『経済は感情で動く――はじめての行動経済学』マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳 (紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「経済は「勘定」で動く?」 勝間和代(経済評論家) 伝統的な経済学は、「合理的経済人」を前提としている。すなわち、常に情報を正確に収集し、判断ミスなく、感情のぶれなく、自分の損得を正しく計算し、答えを出す、『スタートレッ…

『極東ホテル』鷲尾和彦(赤々舎)

→紀伊國屋書店で購入 「現代社会の肖像か? それとも人間の普遍的肖像なのか?」 「極東ホテル」という名前のホテルが実在するわけではない。だが、どこかにありそうな気持ちにさせるところが、この写真集のタイトルのうまさだ。時代のズレを感じさせる懐か…

『生命保険のカラクリ』岩瀬大輔(文芸春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「自動車と家は買わないが、保障は買いたい、という若者に読んでほしい」 生命保険に加入しているすべての人にとっての必読書である。 著者は、日本初のインターネット生命保険「ライフネット生命」の副社長。わずか創業2年でぐいぐい業…

『人間の将来とバイオエシックス』ユルゲン・ハ-バマス(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「ブレーブ・ニューワールド時代の哲学」 クローン人間だけでなく、両親が生まれてくる子供のための善を祈って遺伝子操作を行えるようになる時代がもう間近に迫っている。こうした「ブレーブ・ニューワールド」(ハクスレー)を前にして…

『コペルニクスの仕掛人―中世を終わらせた男』 ダニエルソン (東洋書林)

→紀伊國屋書店で購入 コペルニクスの『回転論』はレティクスという若い数学者との出会いがなかったら完成することも出版されることもなかったろうが、本書はそのレティクスの生涯を描いている。 いくらコペルニクスが偉大にしても脇役の伝記まで本になり、邦…

『コペルニクス―地球を動かし天空の美しい秩序へ』 ギンガリッチ&マクラクラン (大月書店)

→紀伊國屋書店で購入 オックスフォード大学出版局から出ている「科学の肖像」という科学者の伝記シリーズの一冊である。共著者のオーウェン・ギンガリッチはコペルニクスの権威であり、書誌学の怪物的達成というべき『誰も読まなかったコペルニクス』の著者…

『天体の回転について』 コペルニクス (岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 地動説=太陽中心説をとなえ、科学革命の端緒となったコペルニクスの主著が岩波文庫のリクエスト再刊で書店にまたならぶようになった。みすず書房からは高橋憲一訳が出ているが、こちらは絶版である。紙の本で手にはいるのは今回が最後…

『葬式は、要らない』島田裕巳(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「高額な葬式代を出したくない人のための実用書」 生命保険に加入した。妻子がいる身としては、当然のこととして受け入れた。生命保険のビジネスモデルとはどういうものなのかと真剣に考え始めたのは加入してからだ。 保険の営業マンは…

『事件現場清掃人が行く』高江洲敦(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 「孤独死と自殺の現場処理をするという仕事がある。」 ご縁があって、孤独死現場となった部屋の特殊清掃をすることを生業とする社長と立て続けに出会った。1人は女性。1人は男性の社長である。 おもしろそうな仕事だと思い、現場を見…

『「プガジャ」の時代』大阪府立文化情報センター編(ブレーンセンター)

→紀伊國屋書店で購入 「西風は東風を圧倒する。東京の情報消費文化は張子の虎だ。」 この書評ブログでは度々、帯の宣伝文に偽りあり、と文句をつけてきた。だが本書の帯に関しては、短い文章で本書の内容が紹介されていて見事である。赤い帯に白抜きの横書き…

『ピアノ大陸ヨーロッパ』西原稔(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 すでにこのブログで紹介した『クラシックでわかる世界史』や『新編 音楽家の社会史』の著者である西原稔による新刊『ピアノ大陸ヨーロッパ』がおもしろい。西原は18、19世紀を対象とする音楽社会史や音楽思想史の専門家だ。本書も19世紀…

『The Walk』 Richard Paul Evans(Simon & Schuster)

→紀伊國屋書店で購入 「神が与えてくれた運命の道を歩く」 神が与えてくれた運命の道。人は時にその道に出会うときがある。この命題を受けて書かれたのがこの「The Walk」だ。 主人公のアラン・クリトファーセンはシアトルで広告会社を経営する若い実業家だ…

『流線形シンドローム――速度と身体の文化誌』原克(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「現代、それは科学神話の時代――『流線形シンドローム』の背景」 原克(早稲田大学教授) 科学雑誌を読んでいる。米国・ドイツ・日本の、過去百年にわたるものだ。膨大な数にのぼる。おかげですっかり視力が落ちた。 科学の進歩とは脱迷…

『大人のための数学シリーズ「数と量の出会い――数学入門」』志賀浩二(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「大人のための数学」 志賀浩二(数学者) 本屋に行って数学に関係する本が並んでいる書棚を覗いてみよう。まず学習用の本棚には、小学生の補習に役立つような本があり、中学生、高校生には参考書がたくさん並んでいる。それ以上は数学…

『赤ちゃんはコトバをどのように習得するか-誕生から2歳まで-』ベネディクト・ド・ボワソン・バルディ(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 「言語習得の深い謎」 ぼくたちは誰もが、まったく知らない言葉を覚えて、使いこなせるようになるという不思議な、ほとんど奇跡的なことを実現してきたのである。しかしそれでいて、赤子がどのようにして言葉を習得するのかは、ほとんど…

世界ランキング

皆様大変長らくお待たせ致しました。 一時は永遠に続くかとも思われた集計もようやく終了し、 いよいよランキングを発表する準備が整いました。 集計方法は例によって文庫本1冊=1ポイント、 単行本1冊=3ポイントとしています。 初めての栄冠は誰の手に? …

『ALS――不動の身体と息する機械』立岩真也(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「<負け戦>を語ること――ALSをめぐる社会批判の視座」 今回はALSを社会学的に考えるうえでは基本書となる一冊を取り上げます。著者である立岩真也さんは、1960年生まれの社会学者で、現在は立命館大学大学院(先端総合学術研究科…

『現代日本人の意識構造(第七版)』NHK放送文化研究所【編】(日本放送出版協会)

→紀伊國屋書店で購入 「「社会意識」を計測する困難な試みの最新版」 『現代日本人の意識構造』は、NHK放送文化研究所が1973年から5年おきに実施している調査の報告書であり、これが第七版となる。古くから多くの場所に引用されているので、おなじみかもしれ…

『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「伝説の書店、そのユートピア思想と混乱ぶり」 本書のタイトルを見て、イギリスではなくパリの街を思い浮かべた人は、シェイクピア&カンパニー書店の元祖についてご存知だろう。戦前のパリにその名を馳せた伝説的な書店で、ガートルド…

『貧困と共和国―社会的連帯の誕生』田中拓道(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 「「社会」の発明」 かつてアレントは『人間の条件』において、ギリシアの公的な空間と私的な空間の分離について説いた後、近代、とくにフランス革命になってからこの二つの空間とはことなる社会的な空間」が登場し、それが公的な空間を…

『春の祭典-第一次世界大戦とモダン・エイジの誕生[新版]』モードリス・エクスタインズ著、金利光訳(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「イギリスの参戦により、一九一四年の戦争はヨーロッパ大陸における列強の覇権争いから、まぎれもない文化の戦争に変容した」。「はじめに」にあるこの一文が、本書のすべてを語っているように思えた。 本書の概要は、「訳者あとがき」…

『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』シェリフ,ムスタファ(駿河台出版社 )

→紀伊國屋書店で購入 「地中海の子、デリダ」 著者のムスタファ・シェリフは、デリダの生まれた国アルジェリアのイスラーム学者であり、駐エジプト大使や高等教育大臣を歴任した政治家で、哲学者である。著者はデリダの哲学に心酔しており、2000年の3月に、…

『働かざるもの、飢えるべからず』小飼弾(サンガ)

→紀伊國屋書店で購入 「ベーシックインカムという、貧困をなくす処方箋についての優れた入門書」 小飼弾さんは天才か?愚者か? 本書を読みながら、僕は首をかしげていた。どちらにしても小飼氏への賞賛になるわけだが。 本書はベーシックインカムについての…

『スローモーション考―残像に秘められた文化』阿部公彦(南雲堂)

→紀伊國屋書店で購入 「モードとしてのスローモーション」 本サイトでも執筆されている阿部公彦(あべ・まさひこ)さんによる単著である。本書は、「ゆっくり」に秘められる意味を現代文化のなかでとらえようという大きな構想力に基づいている。そのためのキ…

『石毛直道 食の文化を語る』石毛直道(ドメス出版 )

→紀伊國屋書店で購入 「近代日本の食事の歴史」 ぼくは紀伊国屋書店で刊行している『スクリプタ』のファストフードの歴史についての連載を毎号楽しみに読んでいる。同時代的に経験している出来事も、遅れたものものもあるが(マクドナルドはすっかり定着して…

『A Day in a Medieval City』Chiara Frugoni(University of Chicago Press)

→紀伊國屋書店で購入 「中世イタリアの町の暮らしが分かる本」 昨年の夏休みに生まれて初めてやっとフランスとイギリス以外のヨーロッパに行った。出かけた場所はローマとフィレンツェ。かつて作曲科専攻の学生だった僕は、音楽を通して絵画や彫刻などの芸術…

『夏の朝の成層圏』池澤夏樹(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「文明は麻薬か?」 「初心忘れるべからず」という言葉がある。どんな人にも大切であろうし、時として耳が痛い言葉でもある。人は誰でも変わっていくが、それが必ずしも良い方向であるとは限らない。また、例え良い方向に向っていても、…

『ヘヴン』川上未映子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「斜視という身体性をどうとらえるのか」 言うまでもなく、著者は芥川賞作家であり、すでに人気作家としての地歩を築いている。したがって、その著者によって書かれた本書の書評も数多く存在している。しかも評者は文学作品については門…

『政治概念の歴史的展開〈第1巻〉』古賀 敬太【編著】(晃洋書房 )

→紀伊國屋書店で購入 「重要な政治的な概念の歴史的考察」 政治的な概念の歴史的な展開を考察するシリーズで、第三巻まで刊行されている。ドイツには『歴史的な基本概念』という9000ページに及ぶ大シリーズがあるが、それには及ばないものの、ひとつの概念に…