書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2015-01-01から1年間の記事一覧

『紛争と国家形成-アフリカ・中東からの視角-』佐藤章編(アジア経済研究所)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書は、「「国家形成」という視座のもとで、綿密な実証的記述という地域研究の方法論を最大限に活かしつつ、社会学、政治学、国際関係論などの理論研究と歴史研究の成果も取り入れながら、紛争という現象の持つ意義を国家との…

『戦後史の解放Ⅰ 歴史認識とは何か 日露戦争からアジア太平洋戦争まで』細谷雄一(新潮選書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書は、サザンオールスターの「桑田佳祐の嘆き」からはじまる。「ピースとハイライト」のなかの歌詞、「教科書は現代史を やる前に時間切れ そこが一番知りたいのに 何でそうなっちゃうの?」が紹介されているが、現代史云々の…

『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』菅野恵理子(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「音楽とリベラル・アーツを考える」 アメリカには、ジュリアード音楽院のようなプロの演奏家を育成する教育機関とは別に、有名大学に音楽学科や音楽学校が存在している。本書(菅野恵理子著『ハーバード大学は「音楽」で人を育…

『右傾化する日本政治』中野晃一(岩波新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書のねらいは、「自由主義的な国際協調主義の高まりで幕を開けた新右派転換の動きが、いかにして偏狭な歴史修正主義を振りかざす寡頭支配へと帰着してしまったのか」、その政治プロセスを解き明かすことである。 「序章 自由…

『世界を動かす海賊』竹田いさみ(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 映画のタイトルにもなるように、「海賊」ということばからロマンと冒険をイメージする人がいるかもしれない。だが、その被害に遭うと考えると、そのようなイメージは吹き飛んでしまう。海賊の被害は国益に影響し、わたしたちの…

『宇沢弘文のメッセージ』大塚信一(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「編集者のみた宇沢弘文」 著者は岩波書店の元社長で、長い間、同社の著作物の編集に携わってきたが、とくに経済学者の中では世界的な数理経済学者だった宇沢弘文(1928-2014)と懇意にしてきたひとである。宇沢氏の主要著作は…

『「歴史認識」とは何か-対立の構図を超えて』大沼保昭著、聞き手江川紹子(中公新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 たまに電話取材が入る。自信がないので、参考文献をあげて、それを「読んでからあらためてお電話ください」と言う。たいていは、あらためて電話はかかってこない。かかってきたときは、丁寧に対応することにしている。自信がな…

『心理学で文学を読む 困難を乗り越える力を育む』山岸明子(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「心理学と文学の協同」 本書(山岸明子著『心理学で文学を読む―困難を乗り越える力を育む』新曜社、2015年)のまえがきは、心理学と文学の協同を示唆する興味深い文章から始まっている。 「優れた文学作品は人間性や人間の心理…

『和解は可能か-日本政府の歴史認識を問う』内田雅敏(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 著者、内田雅敏は「まえがき」の最後で、本書の目的をつぎのように語っている。「このブックレットでは、これまでの政府の歴史認識にかかわる公的な見解を紹介し、その中身をあらためて確認しながら、アジア諸国との和解はどう…

『未完に終わった国際協力-マラヤ共産党と兄弟党』原不二夫(風響社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 歴史が書けないことには、いろいろな理由がある。マラヤ共産党の歴史については、1960年の非常事態終了までの研究がほとんどで、その後1989年12月に和平協定が締結されるまで30年間近く続いた武装闘争については、ほとんど語ら…

『世界史の中の日本国憲法』佐藤幸治(左右社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「立憲主義の本質は政治に対する法的統制である」 本書(佐藤幸治著『世界史の中の日本国憲法』左右社、2015年)のメッセージは、一言でいえば、上のタイトル「立憲主義の本質は政治に対する法的統制である」ということに尽きる…

『大分岐-中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成』K. ポメランツ著、川北稔監訳(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 帯に「ユーラシアにおける発達した市場経済は生態環境の制約に直面していた。なぜ西欧だけが分岐していったのか。グローバルヒストリーの代表作」とある。「グローバルヒストリー」ということばは、本書の原著英語版が出た2000…

『天才を生んだ孤独な少年期 ダ・ヴィンチからジョブズまで』熊谷高幸(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「天才と孤独」 本書(熊谷高幸著『天才を生んだ孤独な少年期―ダ・ヴィンチからジョブズまで』新曜社、2015年)の存在を知ったのは地元紙の読書面に短い紹介が出ていたからだが、「天才と孤独」というテーマには惹きつけられる。…

『勝つまでやめない! 勝利の方程式』安藤宏基(中公文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 インスタントラーメンは、2012年に世界の総需要が年間1千億食を超えた。著者は、インスタントラーメンを最初に開発した創業メーカー日清食品の2代目社長である。日清食品は、国内25億食、海外110億食、計135億食、全世界の13.5…

『「からゆきさん」-海外<出稼ぎ>女性の近代』嶽本新奈(共栄書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「本書の大きな目的のひとつは、この「からゆきさん」と呼ばれる、しかし生き様は様々であった女性たちを取り巻く言説とまなざしの変容を、時代を追って検討していくことにある」。 さらに詳しく、同じく「序章」で、著者嶽本新…

『近代日本社会と公娼制度-民衆史と国際関係史の視点から-』小野沢あかね(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「男たちの放蕩や「家」の没落を招いた遊郭。女たちの勤倹貯蓄精神や修養意欲は、どう公娼制度批判へ発展したのか。また、東アジアに拡大した日本の公娼制度政策の特徴を国際関係史的視点から解明。慰安婦問題の歴史的前提にも…

『日本のコモンズ思想』秋道智彌編著(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 参院選の「一票の格差」を是正する選挙制度改革で、隣り合う人口の少ない県を統合して新たな選挙区をつくる「合区」をめぐって、県連を中心に反対意見が出ている。県境越えの選挙区のどこに問題があるのだろうか。本書の「コモ…

『海の国の記憶 五島列島:時空をこえた旅へ』杉山正明(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「神州極西の孤島」といえば、辺境や離島のイメージがあるかもしれない。だが、本書を読めば、五島列島は大陸、朝鮮半島とのgateway (出入口)で、日本の最先端であったことがわかる。 五島列島を「辺境」にしてしまったのは、…

『阿姑とからゆきさん:シンガポールの買売春社会 1870-1940年』ジェームズ・フランシス・ワレン著、蔡史君・早瀬晋三監訳、藤沢邦子訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「娼婦の生活史から日本とアジアの近代を問いなおす」「イギリス植民都市シンガポールの形成過程のなかで、性を生業にする日本と中国の女性たちはいかに生き、死んでいったか。近代という時代に翻弄されながらも懸命に生きた人…

『帝国日本のアジア研究-総力戦体制・経済リアリズム・民主社会主義』辛島理人(明石書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本のアジア研究は、現在問題となっている歴史認識など近隣諸国との関係改善・強化に、あまり貢献していないようにみえる。それはなぜなのか、戦前・戦中からの連続性、非連続性をもって語らなければ、わからないのではないか…

『もうひとつの「王様と私」』石井米雄著、飯島明子解説(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 6月7日、アメリカ演劇界最高の栄誉とされる「トニー賞」の授賞式がおこなわれた。ミュージカル部門主演男優賞に「王様と私」の王様役で渡辺謙がノミネートされたことから、日本で大きく報道された。「私」役が主演女優賞を受賞…

『近代中国の在外領事とアジア』青山治世(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 西欧を中心とした領事制度は非西欧諸国を巻き込んで世界的に発展し、今日の外交の基本となった。従来、非西欧諸国での領事制度は西欧化あるいは近代化として、研究されてきた。日本も例外ではなく、領事制度を導入した日本は、…

『戦後責任-アジアのまなざしに応えて』内海愛子・大沼保昭・田中宏・加藤陽子(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「戦後責任」のことを考えれば、戦争をはじめることはできないはずだ。「戦後責任」は、だれもどのようなかたちであれ、とれるはずがないからだ。本書で語りあう4人は、そのことを充分にわかって議論している。 本書は、表紙見…

『「戦場体験」を受け継ぐということ-ビルマルートの拉孟全滅戦の生存者を尋ね歩いて』遠藤美幸(高文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「戦場体験」を記録したもので、もっとも資料価値が高いのは、戦場で書いたものである。だが、全滅した部隊では、そのような記録は、まず期待できない。わずかな生存者が戦場でのメモをもとに、時間をおかずに捕虜収容所などで…

『シンガポール戦跡ガイド-「昭南島」を知っていますか?』小西誠(社会批評社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 著者小西誠は、「著者略歴」によると、「1949年、宮崎県生まれ。航空自衛隊生徒隊第10期生。軍事ジャーナリスト」で、『自衛隊の対テロ作戦』『ネコでもわかる?有事法制』などの時事問題のほか、『サイパン&テニアン戦跡完全…

『ぶらりあるき シンガポールの博物館』中村浩(芙蓉書房出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書は、同著者による「ヨーロッパシリーズ」(パリ、ウィーン、ロンドン、ミュンヘン、オランダ)につぐ「アジアシリーズ」の第4弾である。第1弾のマレーシアを出版して半年のあいだにバンコク、香港・マカオ、そして本書シン…

『20世紀アメリカ国民秩序の形成』中野耕太郎(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「序章 二〇世紀アメリカ国民秩序へのアプローチ-アメリカニズムと社会的なもの-」「1 二〇世紀ナショナリズムへ」「(1)新旧のナショナリズム」は、つぎの文章ではじまる。「本書の目的は、二〇世紀におけるアメリカ・ナシ…

『外交ドキュメント 歴史認識』服部龍二(岩波新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「繰り返されてきた関係悪化と修復」と、帯にある。今回の「悪化」は長すぎる。いまの若者にとって、ものごころついたときから、ずっと「悪化」状態がつづいている。「いいとき」を知らないのである。この事実は、「悪化と修復…

『投資社会の勃興-財政金融革命の波及とイギリス』坂本優一郎(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書を読みながら、現代の金融のことを考えていた。つまり、本書でおもに扱っている18世紀後半から19世紀初めのイギリスの「投資社会」が現代につながっているということである。 本書帯には、大きく「証券投資をする人びとの誕…

『【図説】「資源大国」東南アジア-世界経済を支える「光と影」の歴史』加納啓良(洋泉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 コーヒーと茶、砂糖、米、スズ・ボーキサイト・鉄鉱石・銅・ニッケル、天然ゴム、石油・天然ガス・石炭、ココナツとアブラヤシ、これらは、これまで東南アジアが世界に供給してきた代表的な一次産品である。そして、この7項目が…