書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『こども東北学』山内明美(イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 「三陸沿岸の村で育った女性研究者の切実な問い」 私がそれまで無関心だった日本の風土や民俗について目を開かれたのは、80年代半ばにバリ島に行ったときだった。学生時代に国内を旅していた70年代にはなかった視野を、80年代のバリ島で…

『現場主義の知的生産法』関満博(ちくま新書)

→紀伊國屋書店で購入 「今だから読みたい、あくまでアナログな仕事術の本」 本書は、明星大学経済学部教授で一橋大学名誉教授の関満博氏が、その仕事術(=研究の作法)の極意を記して2002年にちくま新書から刊行したものである。 関氏といえば、日本の製造…

『ポピュラー文化論を学ぶ人のために』ドミニク・ストリナチ著/渡辺潤・伊藤明己訳(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「ポピュラー文化研究の理論的なレビューに最適の一冊」 いきなり私事で恐縮だが、本書は本年度大学院ゼミの購読文献の一つであった。評者のゼミにはポピュラー文化研究を志向して集まってくる海外からの留学生が多いのだが、その特徴の…

『自己分析する学生は、なぜ内定できないのか?』森田均(日本経済新聞出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「本当に必要な「自己分析」のために」 大学生の就職活動で二極分化が進んでいると言われて久しい。実際に、かなり早い段階で複数の会社から内定をもらう学生と、まったく内定がもらえない学生とにクリアーに分かれており、その中間にあ…

『摂食障害の語り――<回復>の臨床社会学――』中村英代(新曜社)

の臨床社会学――" title="摂食障害の語り――の臨床社会学――" src="http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4788512513.jpg" border="0" /> →紀伊國屋書店で購入 「<人々による>回復の物語を際立たせる:社会学のナラティヴ・アプローチにできることのひと…

『真珠の耳飾りの少女』トレイシー・シュヴァリエ(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「魅惑の少女の正体は?」 フェルメールの「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」に出会ったのは、1981年の事だった。ようやくパリに行く切掛けをつかみ、アリアンス・フランセーズで3ヶ月間フランス語を学んでいる時だった。フ…

『Nothing : A Portrait of Insomnia』Blake Butler(Perennial )

→紀伊國屋書店で購入 「129時間眠れなかった作家の独白」 以前、僕は明け方4時か5時頃まで起きていて、昼頃目を覚ます生活サイクルを保っていた。机に向かっていると夜中の12時頃から明け方3時頃まで精神的にハイになり、ぐんぐん仕事が進んだ。その…

『空間の男性学―ジェンダー地理学の再構築』村田陽平(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「男性性研究の新たなフロンティア」 やや荒削りだし、一つの書籍としてはまとまりの悪い部分が多少感じられなくもなかったが、それを補って余りある魅力のある一冊だと思った。 本書は、「女性学的視点による研究が中心であった従来の…

『深海のパイロット—六五〇〇mの海底に何を見たか』藤崎慎吾/田代省三/藤岡換太郎(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 謎めいた人物ネモ船長が主人公たちを連れて世界中の深海を旅する物語「海底二万里」を知らない人はいないでしょう。庵野秀明監督の「ふしぎの海のナディア」の原作であり、宮崎駿監督の「天空の城のラピュタ」の原案でもあり、その他、…

『超高齢者医療の現場から-「終(つい)の住処(すみか)」診療記』後藤文夫(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 著者、後藤文夫は70歳を過ぎた医師である。本書を出版しようと思い立ったのは、本書に登場する85歳以上の超高齢者の「終焉がわたくしの心に強く響いた」からである。「その「心に響いた」病歴には、「こうありたい」と思う終焉がある一…

『ニッポンのここがスゴイ!―外国人が見たクールジャパン』堤和彦(武田ランダムハウスジャパン)

→紀伊國屋書店で購入 「文化としての『クールジャパン』」 本書は、2006年に放送が開始されたNHKの衛星放送番組『COOL JAPAN 発掘! かっこいいニッポン』で交わされたトークや、外国人による取材の内容をプロデューサーの堤和彦氏がまとめたものだ。スタジ…

『Cooking for Geeks―料理の科学と実践レシピ』ジェフ・ポッター・著/水原文・訳(オライリー・ジャパン)

→紀伊國屋書店で購入 温泉卵を作ろうとネットにあたると、沸騰したら火を止めて放置する、あるいはそのお湯に片栗粉を入れて湯の温度を保つという〝裏技〟、そのほか、魔法瓶を使う、電子レンジを使う、カップラーメンの容器を使う、一度卵を凍らせる等々、…

『日本近世の起源 戦国乱世から徳川の平和(パックス・トクガワーナ)へ』渡辺京二(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「日本近世は何を護ったか」 驚くべき本を読んでしまった。 著者・渡辺京二(敬称を略します。以下同じ)には、江戸後期のユートピア社会を描いた名著『逝きし世の面影』があるが、本書も『逝きし世』に遡る作品として当初は構想された…

『石の記憶』田原(思潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「《は》の効用」 すごい詩人が現れたものだ。これなら現代詩アレルギーのひとにも自信を持って薦められる。おおらかで、力強くて、土の中から生えだしてきたかのような安定感がある。それでいて実に柔軟。間接がやわらかいのだ。まさに…

『How to Be Good』Nick Hornby(Riverhead Books)

→紀伊國屋書店で購入 「一体、よい人間って何だろう」 出だしの数ページを読んだだけで、つい買ってしまう本というのがあるが、イギリスの作家ニック・ホーンビイの新刊『How to be Good』がまさにそうだった。 アパートの近くのバーンズ&ノーブルの棚にあ…

『年老いた猫との暮らし方』ダン・ポインター(岩波書店)<br>『のこされた動物たち』太田庸介(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 老いは人間だけに訪れるのではない。すべての生き物にとって平等だ。弱肉強食の自然界に生きる野生動物たちにとって、老いによる衰えは死を意味する。 しかし医療の発達により、動物園で飼育される動物、あるいは家…

第1位『舟を編む』三浦しをん

→紀伊國屋書店で購入 (光文社/1,575円) 熱い。とにかく熱い!! 舞台は出版社、出てくるのはいい大人ばかり。けれどもこの作品は青春小説と言って良いのではないでしょうか。すごいアクションがあるわけでも激しい言葉のやりとりがあるわけでもない。だけ…

三浦しをんさん特別寄稿『辞書は「言葉」という希望を乗せた舟 』

キノベス!2012 第1位『舟を編む』 「いままで生きてきたなかで、『第1位』という事態を経験したことあったっけな」と考えてみたのですが、該当する記憶がまったくありませんでした。脳内の空白地帯を埋めてやろうというシナプスの粋なはからいなのか、徒競…

第2位『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』山崎亮

→紀伊國屋書店で購入 (学芸出版社/1,890円) 読み終わった後、希望で胸が熱くなった。人のつながりって、素晴らしい。人がつながり協力し合えば、困難な状況も必ず好転させることができるんだ。コミュニティの力を確信する著者の活動の記録には、社会の課…

山崎亮さん特別寄稿

キノベス!2012 第2位『コミュニティデザイン』 設計事務所に勤務しているときも、独立して仕事を始めてからも、最寄りの書店は紀伊國屋書店(梅田本店)でした。本が必要になればいつも駆け込んでいた書店です。このたび、愛着ある紀伊國屋書店の「キノベス…

第3位『アライバル』ショーン・タン

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,625円) なんの先入観もなく、まず手に取ってページを捲ってほしい絵本。これほどまでにイマジネーションを掻き立てられる「本」に出会ったのは多分初めてだと思う。絵の素晴らしさはもちろん、文章が無い、新しいタ…

第4位『困ってるひと』大野更紗

→紀伊國屋書店で購入 (ポプラ社/1,470円) 『困ってるひと』は、難病にあっても好奇心を失くさない「知りたがるひと」で、すぐに「行動するひと」でもある。やがて弊害にぶちあたった時には、はっきりおかしいといえる「疑問を持つひと」であり、八方塞が…

第5位『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ

→紀伊國屋書店で購入 (東京創元社/1,890円) 犯罪があるところには当然犯罪者があるわけで、つまりは犯罪を書くことは人を書くことであり、そしてここに書かれる人々はなんとも魅惑的。「『犯罪』って、いいね」なんて会話にすると誤解を生みそうなタイト…

第6位『人質の朗読会』小川洋子

→紀伊國屋書店で購入 (中央公論新社/1,470円) 昨年2月に刊行された小説だが、震災後の心にそっと寄り添ってくれる一冊だった。遠く地球の裏側で囚われた人々が、それぞれの記憶を語る。ささやかだけれど確固とした、時に美しい営みの証を。どんな人の内側…

第7位『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアズ

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/2,520円) オスカー・ワオは、そしてその家族たちは、どんなに困難な状況でも、己と周囲を傷だらけにしながら、愛を願い求める。これは遠い国、少し昔の時代の物語だけれど、彼らとぼくらにそう大きな違いはない。ドミニカ史…

第8位『中国化する日本』與那覇潤

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,575円) 32歳の気鋭の日本近代史家によるまったく新しい日本通史。「源平合戦は中国化勢力と反中国化勢力の争いだった」「戦国時代最大の闘いは関が原の闘いではなく石山戦争(織田信長VS本願寺)である」「じつは日本…

第9位『計画と無計画のあいだ―「自由が丘のほがらかな出版社」の話』三島邦弘

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/1,575円) 一冊一冊の本へのあたたかい思いが溢れていて、話を伺っているこちらもグッと胸がアツくなり、いつもお互いに感極まってしまう、それが社長・三島さんをはじめとするミシマ社の人たちと、そんな人たちから発…

第10位『笑い三年、泣き三月。』木内昇

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,680円) 数多くの傑作があった昨年。でも「2011年」という年に出会えてよかったと思えたのは、この小説でした。戦後の浅草、見世物小屋「ミリオン座」に集う、命のほかはすべてを失くした5人。生き残ったことに罪悪感を抱…

第11位『一般意志2.0―ルソー、フロイト、グーグル』東浩紀

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,890円) いまさら「がんばろう」と声をあげずとも、日本はずっとがんばってきた。理想の政治と国をめざして。なのにうまくゆかなくてみなが疲れきっている。この本はそんな日本のための、諦めと冷静さに支えられた処方箋だ…

第12位『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち』三上延

→紀伊國屋書店で購入 (アスキー・メディアワークス/619円) 子供の時、初めて読んだ小説は、知らない言葉であふれていた。その言葉を辞書で調べて、意味を小説にメモして、ようやく読み切った。もしも大人になってそのなつかしい小説のなつかしいメモを見…