書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『チベット女戦士アデ』 アデ・タポンツァン&ジョイ・ブレイクスリー (総合法令出版)

→紀伊國屋書店で購入 1958年から1985年――26歳から53歳――までの27年間、獄中にあったチベット人女性アデ・タポンツァンの生涯をノンフィクション作家のジョイ・ブレイクスリーがまとめた本である。日本ではさっぱり売れなかったようだが、アメリカではベスト…

『チベットの核―チベットにおける中国の核兵器』 チベット国際キャンペーン (日中出版)

→紀伊國屋書店で購入 中国の核兵器というと、まず、新疆ウィグル自治区(東トルキスタン)が思い浮かぶ。中国は楼蘭遺跡で有名なロプノールの砂漠地帯を核実験場にして、46回の大気圏核実験をおこない死の灰を撒き散らした。ロマンあふれるシルクロードは実…

『医師アタマ――医師と患者はなぜすれ違うのか?』尾藤誠司編(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「これからの「医師」像はどこへ?」 何度見ても可笑しい駄洒落のようなタイトルと、非常に重く大きな問題をストレートに表したサブタイトルとのコントラストが印象的です。この本は、プライマリ・ケアやへき地医療を経験した医師、そし…

『おれにはアメリカの歌声が聴こえる―草の葉(抄)』ホイットマン 飯野友幸訳(光文社)

→『おれにはアメリカの歌声が聴こえる―草の葉(抄)』 →“Leaves of Grass” 「ホイットマンをゆるす」 ホイットマンの名を聞いたことがないという人は少ないだろう。英語圏の詩人の中では、おそらくシェイクスピアについでもっともよく知られた存在である。小…

『チベット白書―チベットにおける中国の人権侵害』 英国議会人権擁護グループ (日中出版)

→紀伊國屋書店で購入 英国議会は1976年に国際的な人権擁護のために上下両院合同で「英国議会人権擁護グループ」(The Parliamentary Human Rights Group)という委員会を設立したが、本書は1987年のラサ騒乱後、この委員会に提出された報告書の邦訳である。初…

『チベット入門 改訂新版』 ペマ・ギャルポ (日中出版)

→紀伊國屋書店で購入 長らくダライ・ラマ法王日本代表部事務所代表をつとめ、最近はTVでコメンテーターとしても活躍しておられるペマ・ギャルポ氏の最初の著書である。初版は1987年に出たが、1991年と1998年に内容を増補し、現在も店頭にならんでいる定評の…

『囚われのチベットの少女』 ブルサール&ラン (トランスビュー)

→紀伊國屋書店で購入 オリンピックの聖火をめぐる騒動で中国という国家の本質がはしなくも白日の下にさらされたが、聖火リレーに対する異議申し立ての口火を切ったのがフランスだったことに日本では戸惑いがあったようである。なぜフランスが遠く離れたチベ…

『中国はいかにチベットを侵略したか』 マイケル・ダナム (講談社インターナショナル)

→紀伊國屋書店で購入 3月10日のラサ騒乱以来、チベット問題ににわかに注目が集まるようになったが、1950年以来のチベット侵略以来、中国によるチベット民族の絶滅政策は60年近くにわたってつづいている。日本の人権団体は社会主義国の人権問題にはふれようと…

『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』John Irving(Bloomsbury Publishing Plc)

→紀伊國屋書店で購入 「ジョン・アーヴィングが書いた絵本童話」 1942年ニューハンプシャー生で生まれたジョン・アーヴィング。これまで『ガープの世界』、『ホテル・ニューハンプシャー』、『第四の手』などの傑作を発表。映画化された『サイダー・ハウ…

『世界をよくする簡単な100の方法』斎藤槙(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「ひとりでポジティブに世界を変えていこう。」 前回、紹介した「生きるための経済学」では、いまの市場経済は「死に魅入られた経済」によって形成されており、そこから脱出するため「生を肯定する経済」に転換されるべきであると説かれ…

『アドルフ』コンスタン(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「フランス流恋愛講座」 フランスと言うと、ファッションやワイン等が思い浮かぶかもしれないが、ここは恋の国でもある。こちらでよく耳にする冗談に、世界最高の贅沢は、中国人の料理人、日本人の妻(?)、などと続き、必ず出てくるの…

『近代論-危機の時代のアルシーヴ』安藤礼二(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 著者のいる多摩美の芸術人類学研究所、凄くなりそうね 夏目漱石の1900年代、また萩原朔太郎の1930年代を対象として、未曾有の強度で体感された「近代」をそれぞれあぶりだそうとした博論力作二篇を読んだ後だ。山口昌男流「歴史考古学」…

『ビルマの民族表象-文化人類学の視座から』高谷紀夫(法蔵館)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「脈絡」、本書で何十回と出てくるキーワードである。著者、高谷紀夫は直接説明していないが、…

『萩原朔太郎というメディア-ひき裂かれる近代/詩人』安智史(森話社)

→紀伊國屋書店で購入 したたかな引き裂かれ?それってマニエリスムじゃん 漱石を取り巻いていたメディア的環境に関する優れた博士論文を読んだ後では、その直後の時代、大正から大東亜戦争くらいの時代にメディアの世界はどうなっていたのか、という関心が湧…

『草枕』夏目漱石(ワイド版岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「春の一日、仙郷に遊ぶ」 フランスの学校に春休みはないが、4月に2週間程イースター休暇がある。今私はそれを利用して、ピレネー山中の小村に来ている。コトレというのだが、温泉が出るので一九世紀から保養地として知られている。読も…

『いつか僕もアリの巣に』大河原恭祐(ポプラ社)

→紀伊國屋書店で購入 「人の行いはすべてアリに先を越されている」 装丁に惹かれて本を手にとることがたまにあるが、本書はそのケースだった。白いカバーに本物のアリがたかっているように小さな黒い影が散らばっている。手で触れるとアリの部分が盛り上がっ…

『決定版 ショパンの生涯』バルバラ・スモレンスカ=ジェリンスカ著、関口時正訳(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 小学生でもその名を知っているショパン。プロからアマチュアまですべての音楽ファンのアイドルだ。 これほどショパンの音楽が日本人に愛される背景には、いくつかの理由が考えられる。まず、あまり幸せではなかったように見えるその人生…

『流行と虚栄の生成-消費文化を映す日本近代文学』瀬崎圭二(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 難しそうだが読むととても面白い博士論文、続々 ほぼ一年続けてきたこの書評シリーズでは、極力、評者自身の個人的な経験と近づけたところで議論することを心掛けた点に功も罪もあるはずだが、新刊、瀬崎圭二『流行と虚栄の生成』など、…

『五味康祐 音楽巡礼』五味康祐(新潮オンデマンドブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「JBL」 あれは12月の28日過ぎ、29日だったか30日だったか。何れにしても正月休みに入るので、建物は全館ロックされてしまうので、夕方の5時だったか、出て行きなさいとアナウンスがあって、私はソソクサと身の回りの物を片付けて、建…

『ニーチェ-ツァラトゥストラの謎』村井則夫(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 中央公論新社にあの二宮隆洋が移ったことの意味 ツァラトゥストラは齢(よわい)30にして、故郷と故郷の湖をあとにして山に入った。ここで彼は、彼の精神と彼の孤独を楽しみ、10年間飽きることがなかった。 ニーチェの“Also sprach Zara…

『生きるための経済学-<選択の自由>からの脱却』安冨歩(NHKブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「虐待された迷えるアダム・スミスの亡霊に市場経済は支配されている」 マイペースで経済の勉強をはじめて1年ほど経ったろうか。 そうしたら、昨年、サブプライムローン問題が顕在化して、世界経済が大混乱に陥った。優秀な頭脳をもっ…

『The Future of Life』Edward Wilson(Vintage Books)

→紀伊國屋書店で購入 「美しい英文と興味深い題材が魅力の本」 僕がアメリカやイギリスの本を本格的に原書で読むようになったのは、ボストンにある大学に入ってからだった。アメリカの大学に入ったので、当たり前といえば当たり前だが、教科書や課題書籍、そ…

『フランス近代美術史の現在-ニュー・アート・ヒストリー以後の視座から』永井隆則(三元社)

→紀伊國屋書店で購入 新美術史への素晴らしい導入。本当は何もかもこれから、らしい。 「ニュー・アート・ヒストリー」という呼び名を初めて耳にしたのは、ノーマン・ブライソン(Norman Bryson)が編んだ『カリグラム』(“Calligram : Essays in New Art Hi…

『桜の森の満開の下』坂口安吾(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「峠という結界で」 桜の開花と散花ほどに時を感じさせるものはない。今年も地元の桜の推移にこころ巡らせていたものの、異郷の桜を求める欲に駆られ、気がそぞろになった。ところが、遠い地の或る桜を死ぬまでには拝みたいと望んでも、…

『乳児保育の基本』汐見稔幸・小西行郎・榊原洋一【責任編集】(フレーベル館)

→紀伊國屋書店で購入 「横綱級の課題図書!」 乳児に関わる人にとっての、平成の課題図書。 しかも横綱級。 乳児保育の基本。基本とは、何か。 こうあるべき、といった議論ではない。かといって、マニュアルでもない。 毎日の実践の中でくりかえし、丁寧に積…

『SNOWY』萩原義弘(冬青社)

→紀伊國屋書店で購入 「桜花に似た雪のはかなさ」 桜が散りだす時期にこれを取上げるのは季節的にミスマッチかもしれないが、この雪の写真集を見ていて、桜に通じるものがあると思った。雪も桜も撮るのにむずかしい対象である。雪も桜も白くて、質感や量感が…

『日本・デンマーク 文化交流史 1600-1873』長島要一(東海大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 日本とヨーロッパの文化交流史は、すでに多く語られてきた。しかし、日本人一般がイメージする…

『詐術としてのフィクション-デフォーとスモレット』服部典之(英宝社)

→紀伊國屋書店で購入 「英文学研究的とは?」 ドラマを観たり漫画や小説を読んだりすることは何ら特殊な体験ではない。「批評」となるとやや難しげに聞こえるかもしれないが、要するに、「いい」とか、「ダメ」とか言うことでしょう、といった了解はある。書…

『イギリス炭鉱写真絵はがき』乾由紀子(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 炭鉱、写真、絵葉書の「普通考えつかないような結合」 港千尋さんなど写真を撮る人の文章は巧いものが多いが、今どきの写真論となるとどうもパターンに入っていて、最後は必ずベンヤミン、バルト、ソンタグの三題噺に結び付けられてチョ…

『CORE MEMORY-ヴィンテージコンピュータの美』マーク・リチャーズ[写真] ジョン・アルダーマン[文] 鴨澤眞夫[訳] (オライリー・ジャパン/オーム社)

→紀伊國屋書店で購入 コンピュータにも「神代の歴史」があった その由来からして、年代もののワイン、せいぜいでジーンズ、あるいは20世紀初めのクラシック・カーくらいが使用範囲かと思っていた「ヴィンテージ」という言葉が、コンピュータについても使われ…