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プロの読み手による書評ブログ

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『高橋留美子傑作短編集〈2〉〈保存版〉る-みっくわ-るど』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 高橋留美子氏の初期短編をまとめた『高橋留美子傑作短編集』の第二巻で1980年から1984年にかけての作品が収められている。冒頭の「炎トリッパー」以外は発表順になっており、シリアスな作品とコミカルな作品をほぼ交互に発表していたこ…

『高橋留美子傑作短編集〈1〉〈保存版〉る-みっくわ-るど』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 高橋留美子氏は1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門をとり「少年サンデー」からデビューした。すぐに『うる星やつら』を描きはじめるが、『うる星やつら』は当初は不定期連載であり、連載とは別に月刊の「少…

『THE BOOKS -365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』ミシマ社(編)(ミシマ社)

→紀伊國屋書店で購入 本が売れない時代だといわれます。出版業界は縮小の一途だそうです。人々が本を読まなくなったからでしょうか。みんな忙しいですからね。本を読む暇なんて刑務所にでも入らなければ捻出できない。そんな人もいるでしょう。それとも本が…

『鉄道と国家-「我田引鉄」の近現代史』小牟田哲彦(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「鉄道と政治の切っても切り離せない関係」 面白かった、そして考えさせられた。というのが本書の感想だ。 著者の小牟田哲彦氏については、アジア圏の鉄道について書かれた良質なルポルタージュで名前を知っていたのだが、本書について…

『東京シャッターガール』桐木憲一(日本文芸社)

→紀伊國屋書店で購入 「プリコラージュとしての東京」 「東京とは何か?」「それはどんな街か?」と聞かれても、答えに困ることだろう。 そこにはいくつもの特徴があるし、あるいはまた、人によっても感じ方が異なっているからだ。 よくある旅行ガイドの類い…

『社会学の方法-その歴史と構造』佐藤俊樹(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「社会学のマージナリティ 」 「社会学って何なの?」とは昔からよく聞かれる質問である。 多くの社会学者が経験していることだろうが、「文学部社会学科」のような専攻に所属していると、「社会科学なのか、人文科学なのか、ハッキリし…

『ベッカー先生の論文教室』 ベッカー,ハワード・S.【著】 小川 芳範【訳】 (慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「書きたい論文を書くための希望の書」 本書は、『アウトサイダーズ-ラベリング理論とは何か』(新泉社)などの著作で知られる社会学者、ハワード・S・ベッカーが記した論文執筆の指南書である。初版は1986年に出ているが、その後も読…

『運命の鳥 高橋留美子傑作集』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 『高橋留美子劇場』の第四集にあたる本で2006年から2011年にかけて発表された6編が収められているが、第一集~第三集のような普及版ではなく、まだオリジナル版が流通していている。版型は一回り大きいA5版で、表紙はエンボス加工のして…

『高橋留美子劇場〈3〉赤い花束』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 『高橋留美子劇場』の第三集で2000年から2005年にかけた発表された6編を収める。 「日帰りの夢」 人生に疲れたオヤジが初恋の人に会えるかもしれないと胸をときめかせて同窓会に出席する話である。幻滅するだろうと最初から逃げ腰なのに…

『高橋留美子劇場〈2〉専務の犬』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 第一集はオバサンとお婆さんが主人公だったが、第二集からはオジサンが主人公の作品が多くなる。オバサンものとオジサンものではオジサンものの方が断然面白い。作者自身もオジサンの方が描きやすいのではないか。高橋留美子の頭の中に…

『高橋留美子劇場〈1〉Pの悲劇』 高橋留美子 (小学館)

→紀伊國屋書店で購入 先日、NHKで二夜にわたって『高橋留美子劇場』というコメディを放映したが、近来まれに見る傑作だった。調べたところ原作は高橋留美子氏の短編で、それぞれ三編を組みあわせて48分のドラマに仕立てていた。 高橋氏の漫画は『めぞん一刻…

『<small>哲学の歴史 06</small> 知識・経験・啓蒙 人間の科学に向かって』 松永澄夫編 (中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第6巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本巻は18世紀の哲学をあつかうが、前半は英国経験論、後半はフ…

『Havana Bay 』Martin Cruz Smith(Ballantine Books)

→紀伊國屋書店で購入 「キューバを舞台として読み応えのあるスリラー」 今回読んだ「Havana Bay」は「Gorky Park」」や「Polar Star」などに続きロシア人調査官、アルカディ・レンコが登場するマーティン・クルーズ・スミスの作品。旧ソ連の影響力が弱くなっ…

『小川洋子の偏愛短篇箱』小川洋子・編著(河出文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ふだんはあまり読まないミステリやSF、長編の翻訳物などを、汗だくになりながら一気読みする。今の私には夏休みなどないけれど、そんな、ただ読むことを楽しむための読書で、夏休みらしい気分を味わうというのが、いつの頃からかのなら…

『ヒューマニティーズ 政治学』刈部直(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書のタイトルを「政治学」だけでなく、「ヒューマニティーズ」を加えた。普通、「ヒューマニティーズ」といえば、自然科学や社会科学にたいして使われる「人文学」「人文科学」あるいは「哲史文」すなわち哲学、歴史学、文学などのこ…

『北海道の旅』串田孫一(平凡社ライブラリー)

→紀伊國屋書店で購入 「自然と同化する旅」 日本人がヨーロッパを旅行する時「ユーレイルパス」という、一定期間鉄道乗り放題のパスが買える。ヨーロッパ在住の日本人はそれを買えない代わりに、国際結婚をしているか、永住権を持っていれば「ジャパンレール…

『共喰い』田中慎弥(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「ぬるぬる的思考」 よけいなお世話かもしれないが、ひとつ心配をしていた。例の受賞会見で変な注目のされ方をして、この人は本来の読者を取り逃してしまったのではないか、と。多数派ではなくとも寡黙で熱心なファンに守られ、執拗に書…

『ホテルオークラ総料理長の美食貼』根岸規雄(新潮選書)

→紀伊國屋書店で購入 「自信を取り戻すための一冊」 S君という教え子がいる。数年前、東京のホテルオークラで友人と昼食をとり、エントランスの付近で午後から向かう会議の場所を地図で確認していたら、「どこかお探しですか?」と一人のドアマンが優しく声…

『歴史のなかの熱帯生存圏-温帯パラダイムを超えて-』杉原薫・脇村孝平・藤田幸一・田辺明生編(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、1冊の本として理解しやすいものではない。だからこそ、全体を通して読みたい本である。本書が目指しているものを端的にあらわしているのは、「終章 多様性のなかの平等-生存基盤の思想の深化に向けて-」のつぎの冒頭のことば…

『安倍圭子 マリンバと歩んだ音楽人生』レベッカ・カイト(ヤマハ・ミュージック・メディア)

→紀伊國屋書店で購入 マリンバという楽器をご存じだろうか。平たくいえば大型の木琴だが、木製の鍵盤ひとつひとつに共鳴パイプがつけられ、ふくよかな、味わい深い音が出るように設計されている。もともとはアフリカの民族楽器だったものが、さまざまな工夫…

『A Farewell to Arms : The Hemingway Library Edition』Ernest Hemingway, Patrick Hemingway(前書き), Sean Hemingway (インロダクション)(Scribner)

→紀伊國屋書店で購入 「ヘミングウェイが考えた違ったエンディングが読めるエディション」 出版社スクリブナーの編集者チャールズ・スクリブナー3世にヘミングウェイについて話を聞いたことがある。 チャールズ・スクリブナー3世は名前の通りはスクリブナ…

『羆撃ち』久保俊治(小学館文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「生と死に対する畏敬の書」 北海道帯広市の隣に芽室という町がある。ここに弟一家が動物と共に住んでいるのだが、「フチ」という名前の北海道馬がいたことがある。名の由来を尋ねると、アイヌ語で「お婆さん」という意味だと教えられた…

『この世界の片隅に 〈前編〉』こうの史代(双葉社)

→紀伊國屋書店で購入 こうの史代(以下敬称略)を知っていますか? ご存知ないのなら、この機会に、ぜひ知っていただきたいと思います。 こうの史代は、広島で被爆したある女性とその家族を描いた『夕凪の街 桜の国』で2004年度文化庁メディア芸術祭大賞を受…

『東南アジア占領と日本人-帝国・日本の解体』中野聡(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、「南方徴用」された作家・文化人の徴用令書を受け取った戸惑いの様子からはじまる。「大東亜戦争」では、「多くの民間人が国家総動員法・国民徴用令により徴用され、陸海軍に勤務した。軍属とも言う。通常その任期は一年であっ…

『星のかけらを採りにいく―宇宙塵と小惑星探査』矢野 創(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 この本は、宇宙塵(うちゅうじん)を集めることに心血を注ぐ、ある研究者によって書かれました。名前は矢野創。彼が何者であるかは、冒頭の一節を読めばすぐにわかります。 二〇一〇年六月一四日。私は南オーストラリアのウーメラ砂漠の…

『季節の記憶』保坂和志(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「文盲小説」 保坂和志の文体は、吉田健一から教養のおもちゃ箱を取り上げたような感じで、読点ばかりが続いてなかなか句点に辿りつかない。同じ句点のお預けでも、野坂昭如のような粘りや速いピッチはなくて、意地もなく(意気地がない…

『茶の本 日本の目覚め 東洋の理想―岡倉天心コレクション』岡倉 天心(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「これ、名著です」 西洋人は日本が平和な文芸に耽っていた間は、野蛮国と考えていたものである。ところが日本が満洲の戦場に大虐殺を行い始めてからは文明国と呼んでいる。(中略)もし文明ということが、血腥い戦争の栄誉に依存せねば…

『Bitch』Elizabeth Wurtzel(Anchor Books)

→紀伊國屋書店で購入 「バッドガールの作り方」 ニューヨークを捨ててサンフランシスコに帰ってしまったカメラマンが、僕にこう言ったことがある。 「新しい社会への反抗の仕方を考え付いた奴は、すごい金持ちになるよ」 そのカメラマンはバロウズやギンズバ…

『植物はすごい―生き残りをかけたしくみと工夫』田中 修(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 現代日本のビジネス社会は、前に進むことが良しとされ、その結果として続々と発生する矛盾や問題に直面しては、毎日毎日ソリューションの発明を強いられる社会である。私が属しているのはそういう社会である。 立ち止まって考えることさ…

『ドリアン ― 果物の王』塚谷裕一(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「ドリアンと〝消える魔球〟」 本書の冒頭に、「ドリアンという言葉を聞くと、たいがいの日本人はにやりとしはじめる」とある。さっそく、ある飲み会の席上「すいません、実はドリアンのことなのですが…」と切り出してみると、あら不思…