書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

上田宙

『ガリ版ものがたり』志村章子(大修館書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「絶滅危惧印刷、ガリ版」 ガリ版は謄写版印刷の通称で、版式でいうと孔版(こうはん)印刷の一種だ。文字どおり、印刷用の版に孔(あな)を空け、その穴からインキを通して印刷する。 なんて書いても、実物を知らない人にはな…

『文字の食卓』正木香子(本の雑誌社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「絶対文字感」 「文字の食卓」は、Webサイトで連載されていたときから、たびたび立ち寄っては読むのを楽しみにしていた。文字に対する感覚がちょっと変わっていて、こんな面白い人がいるんだなあ、といつも感嘆しながら味わっ…

『牛腸茂雄写真 - こども』牛腸茂雄(白水社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「そのままの子供」 2002年の夏、ある印刷教育に関する勉強会で、写真家の三浦和人氏の話を聞く機会があった。「写真における技術と感性」がテーマで、同じ写真をグラビア印刷した初版本とオフセット印刷した復刊本を見比べたり…

『[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート』寺門 和夫(青土社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「謎解き[銀河鉄道]」 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はややこしい作品だ。読む本によって印象が変わる。というか、内容が変わる。 学生時代、「銀河鉄道の夜」でレジュメを書くことになり、参考のため『「銀河鉄道の夜」とは何…

『世界の美しい欧文活字見本帳 ― 嘉瑞工房コレクション』嘉瑞工房(グラフィック社)

→紀伊國屋書店で購入 「良い組版ってなに?」 パソコンとともにワープロソフトが普及し、だれもが自分で文字を組んで文章を発表できるようになった。文章に合ったフォントを選び、強調したい部分には「太字」を使い、ちょっと窮屈だなと思ったら行間をあける…

『地上 ― 地に潜むもの』島田 清次郎(季節社)

→紀伊國屋書店で購入 「ただの一発屋だと思っていました」 ごめんなさい。調子にのって自滅した、ただの一発屋だと思っていました。 島田清次郎について、本書を読むまで私が持っていたイメージは、 「大正時代の変人で一発屋。石川県に生まれ弱冠20歳で発表…

『茶の本 日本の目覚め 東洋の理想―岡倉天心コレクション』岡倉 天心(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「これ、名著です」 西洋人は日本が平和な文芸に耽っていた間は、野蛮国と考えていたものである。ところが日本が満洲の戦場に大虐殺を行い始めてからは文明国と呼んでいる。(中略)もし文明ということが、血腥い戦争の栄誉に依存せねば…

『装丁山昧』小泉 弘(山と溪谷社)

→紀伊國屋書店で購入 「本の品格は表紙にある」 私の大好きなブックデザイナー、小泉弘さんの本が山と溪谷社から出版された。 題して『装丁山昧』(そうていざんまい)。 本と同じくらい山を愛する「紙のアルピニスト」小泉弘さんが、これまで装丁してきたた…

『紙と印刷の文化録 — 記憶と書物を担うもの』尾鍋 史彦(印刷学会出版部)

→紀伊國屋書店で購入 「紙と人間の親和性は永遠か?」 待ちに待っていた本が刊行された。『印刷雑誌』連載中から、本になるのをずっと待っていたものだ。紙と印刷について、文化、歴史、科学技術面からの考察をはじめ、9.11やWikiLeaks問題といった政治経済…

『痕跡本のすすめ』古沢 和宏(太田出版)

→紀伊國屋書店で購入 「《書き込みあり》に魅力あり」 【痕跡本 KONSEKI-BON】前の持ち主の痕跡が残された古本のこと。(本書の帯より) 古本を買うと、たまに出会うことがある。 私が出会った「痕跡本」で印象に残っているのは、十年ほど前に福岡の古書店か…

『『印刷雑誌』とその時代―実況・印刷の近現代史』中原雄太郎ほか(印刷学会出版部)

→紀伊國屋書店で購入 「ニセ札の作り方、教えます」 最近必要に迫られて古本ばかり読んでいるから、新本はほとんど読めていない。なので、むかし私が編集した、今でも新本で買える本について書いてみる。 『印刷雑誌』という名前の雑誌がある。「デジタル雑…

『「本屋」は死なない』石橋 毅史(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「書店ファンによる、書店ファンのための、書店員の物語」 先日、印刷関係の人と話をしていて、最近電車の中で週刊誌を読んでいるおじさんをすっかり見なくなった、という話になった。たしかにそうだ。ひと昔まえは、一両に少なくとも4…

『笛吹川』深沢 七郎(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「夢もない、希望もない、オールもない」 武田信虎、信玄、勝頼らが治める甲州の石和(いさわ)、笛吹川のそばに「ギッチョン籠」と呼ばれる掘っ建て小屋が立っていた。「笛吹川」はそこに住む農民一家を描いた深沢七郎の長編小説だ。 …

『平行植物(新装版)』レオ・レオーニ 著、宮本淳 訳(工作舎)

→紀伊國屋書店で購入 「活版本の楽しみ方」 久々に「印刷買い」をした。このブログで最初に書いた『池田学画集1』以来だから、ほぼ半年ぶりだ。 書店で平積みになっている『平行植物(新装版)』のジャケットを見たとき、タイトル文字がギザギザした輪郭だっ…

『うつろ舟 ─ブラジル日本人作家・松井太郎小説選』松井太郎(松籟社)

→紀伊國屋書店で購入 「どこか投げやりで、潔い人々」 不思議な小説集だった。 日系ブラジル移民の作品集。一人の移民の苦労を描いた自伝的な作品だろう、なんてことを予想しながら読み始めたのだが、実際にはまったく違った。本書には表題作である中編小説…

『震える舌』三木 卓(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「詩人の目」 『震える舌』は、詩人であり小説家でもある三木卓氏が1975年に発表した長編小説だ。幼稚園児だった愛娘が破傷風にかかったときの実体験をもとに、娘の闘病を父親の視点から描いたものなのだが、さすが「詩人の目」とでもい…

『切りとれ、あの祈る手を──〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』佐々木中(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「「本を読むこと」の恐ろしさ」 佐々木中氏の語り下ろし作品、『切りとれ、あの祈る手を──〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』を読もうと思ったきっかけは、この2月に「ビブリオバトル with キノベス」というイベントに参加したこと…

『スローカーブを、もう一球』山際 淳司(角川グループパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「静かな、スポーツ・ノンフィクション」 先日、箕島高校野球部の元監督、尾藤公氏が亡くなった。おそらく、私のようなアラフォー世代以上の和歌山県出身者にとって、「箕島」という言葉は、ただの校名以上の意味を持っている。それは思…

『池田学画集1』池田 学(羽鳥書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ジャケ買い」や「装丁買い」といった言葉がある。作者や作品の内容ではなく、見た目のデザインに惹かれて思わずCDや本を買ってしまう、というものだ。それらとよく似たもので私がついついやってしまうのが、本の「印刷買い」である。…