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『The White House Connection』Jack Higgins(Penguin Group)

The White House Connection

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「ミッド・アトランティック英語を楽しめるサスペンス」

 ミッド・アトランティックという英語がある。和洋折衷という表現があるけども、こちらは英米折衷の言葉、つまりイギリス英語とアメリカ英語の中間を意味する。ニューヨークに住んでいると、ミッド・アトランティック英語を話すアメリカ人に時々会う。気取ってそんな英語を話すのかと思うが、その人の育ってきた経歴のせいなのかも知れない。

 今回読んだ『The White House Connection』の主人公がこのミッド・アトランティク英語を話す人物だった。著者はサスペンス作家としてお馴染みのジャック・ヒギンズ。サスペンスには犯人が分からず謎解きを楽しむものと、最初から犯人が分かっていて、追う側と追われる側のかけひきを楽しむもがある。『The White House Connection』は、このふたつが同時に楽しめる作品だった。

 つまり、殺人を続ける犯人は最初に知らされるのだが、事件のきっかけとなるスパイの正体は最後まで明かされない。

事件は、IRA(北アイルランドの独立を求めるカトリック系過激派組織)の一派であるサンズ・オブ・アーインの一味に、イギリスのおとり捜査官五人が殺害されることから始まる。

 しかし、この事件はイギリスとアイルランドの平和交渉の障害となるため、闇に葬りさられてしまう。数年後、死期の迫ったイギリスの諜報部員が、殺された五人の捜査官のリーダーだった青年の母親に真実を告げる。

 この母親がボストンで生まれ、イギリス貴族の家庭に嫁いだという設定のため、彼女の話す英語がミッド・アトランティク英語だった。母親は、ホワイトハウスにいる「コネクション」と呼ばれるスパイが流した情報のせいで息子が殺されたことを知る。復讐を誓った初老の母親はサンズ・オブ・アーインのメンバーを次々と殺害していく。

 そして、この殺害事件を追うのが、イギリスの首相直属の諜報員三人と、アメリカの大統領直属の一人の諜報員。

 殺害を繰り返す母親を追ううちに、ホワイトハウスの高官でなければ得られない情報を流す「コネクション」と呼ばれるスパイの存在が明らかになっていく。

 殺人を続ける母親と事件解決を使命とした諜報員の動きに、「コネクション」が誰であるかの謎解きがからむ二重構成となっている。

 物語の舞台も、ニューヨーク、ロンドン、ロンドン郊外、北アイルランドとアメリカとイギリスを合わせたものだった。

 北アイルランドでのカトリック系住民の独立を目指す北アイルランド紛争のことを知っていれば、物語の設定がすんなりと入ってくるが、知らなくとも十分楽しめる作品だった。


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