『1493 : Uncovering the New World Columbus Created』Charles C. Mann(Alfred A. Knopf)
「コロンバスの「発見」が世界にもたらしもの」
歴史家ではなくサイエンス系の著者によって著された歴史の本。
15世紀、ヨーロッパは世界で最も強力で富んだ国であった中国との貿易を望んでいた。スペインもそんな国のひとつであったが、中国と通商を行うためには敵対するイスラム教の国々と交渉するか高い値段を要求するベニスやジェノバの商人と話をつけるしかなかった。
これはスペインにとってどちらもよい選択ではない。そんな時代にいたのがクリストファー・コロンブスだった。彼はスペインの植民地カナリア諸島から出港すれば2400海里(実際は1万600海里)で東洋に到着すると主張した。
当時の「専門家」たちは彼の主張に反対したが、スペインのイザベル女王はコロンブスに資金を提供することを決めた。こうして1492年コロンブスは船団を組み東洋へと出港した。
彼が到着したのはカリブ海の島だったが、これにより世界が変わった。
一方、中国はコロンブスよりずっと早く1405年から1433年にかけてインド洋を渡りアフリカまで到着している。当時の中国の国力をもってすれば、アフリカに拠点を作り大西洋に繰り出すこともできたはずだが、中国はアフリカに植民地を築くでもなく引き返した。当時、技術的に先進国で原材料にも恵まれていた中国は費用も時間もかかる航海に興味を示さなかった。
今回読んだ「1493」はコロンブスの航海が何を世界にもたらしたかを描いている。コロンブスの「新大陸」発見により、その後ヨーロッパの国々はアメリカや東洋へ進出し、現在へと続いている。その過程で生物学的、社会学的、文化人類学的、政治学に何が起こったかを描いたのがこの本だ。
例えば、コロンブスの発見によりマラリアがアメリカに持ち込まれ、原住民のインディアンや入植者たちがマラリアに罹り大量に死んでいくなか、アフリカからの黒人の中には遺伝子的にマラリアを寄せ付けない人口がいた。煙草の葉が持ち込まれプランテーション化が進むなか、地主たちはインディアンの奴隷や自国から来た労働者たちより黒人の奴隷を求めた。
「ヨーロピアンにとってその経済的理論は無視できないものだった。彼らが煙草、米、砂糖を栽培しようとするならヨーロッパからの年季奉公人やインディアン奴隷よりもアフリカからの奴隷を使った方が有利だった」
時が経ち、アメリカは南北戦争をおこなうが、北と南の境界線はちょうどマラリアが発生し得る境界線や煙草栽培が可能となる南北の境界線と重なる。
また、スペイン人は、南米のアンデス山脈にあったポテトをヨーロパに持ち帰った。アイルランドで生産性の高いポテトは麦に代わり多くの人口を支える食料となったが、再びアメリカからポテトの疫病の病原菌が持ち込まれると大量のアイルランド人が死んだ。
コロンブスがもたらした新たな発見が中国、アフリカ、アメリカなど世界に何をもたらしたかを知るのはとても興味深い。そして、この本はその知識欲を十分に満たしてくれる優れた本だ。