『How to Be Good』Nick Hornby(Riverhead Books)
「一体、よい人間って何だろう」
出だしの数ページを読んだだけで、つい買ってしまう本というのがあるが、イギリスの作家ニック・ホーンビイの新刊『How to be Good』がまさにそうだった。
アパートの近くのバーンズ&ノーブルの棚にあったこの本を手に取り、最初の二ページを立ち読みしたところで、先が読みたくなり買ってしまった。
物語は、主人公のケイティが駐車場に止めてある車から、携帯電話を使って夫に離婚話を切り出す場面から始まる。
ケイティは、人を助けるために医者になり、ふたりの子供も育ててきた。彼女の心のなかには、自分はよい人間だという確信がある。しかし自分が何故、車のなかからそれも携帯電話を使って離婚の話を夫に切り出すような人間になってしまったかを考える。
夫のデイビッドは、地元の新聞で「怒れる男」の視点からコラムを書いている作家だ。常に皮肉たっぷりの夫との生活に疲れてしまったのだろうかとケイティは思う。
ケイティは夫が変わってくれればいいと考える。彼女の望みは現実となり、ある事件をきっかけに本当に夫は変わってしまう。
デイビッドはある日から突然「よい人」になってしまうのだ。彼は、恵まれない子供たちのために玩具を贈り、ホームレスに空いている部屋を提供するための住民運動を繰り広げる。そして、ケイティを怒鳴りつけることも無くなる。
夫のこの変化によってケイティは幸せになれるのだろうか。『How to be Good』は、よい人間とは一体どういう人間なのか。よい人生とはどんなものなのかを問いかける物語だ。
この新作もこれまでに発表されたホーンビイの小説、『High Fidelity』や『About a Boy』のようにコミカルな部分のある作品となっている。
ところで、ホーンビイはあるインタビューで「私はアメリカの作家の小説しか読まず、テレビもアメリカのものしか見ない」と言っていた。彼が好きな作家もアン・タイラー、ローリー・ムーア、トビアス・ウルフとみなアメリカ人だ。
ホーンビイによると、イギリスの作家の多くは、自分がインテリであることをみせびらかすような作品を書いているため読者を失っているという。イギリスには小さな文学の世界があり、イギリスの作家たちはその世界に向けて作品を書いているというのだ。その点、アメリカの作家には読者を排除するようなところがないとホーンビイは言っている。
ホーンビイの作品が、いわゆるエンターテインメント小説ではなく、文学でありながら、なおコミカルであるのは読者を賢そうな言葉で怖がらせないようにとの計算から生まれていたのだ。ホーンビイはこれからも注目の作家のひとりだろう。