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『New York Diaries : 1609 to 2009』Teresa Carpenter (EDT)(Modern Library)

New York Diaries : 1609 to 2009

→紀伊國屋書店で購入

「人々の住んだニューヨークを日記で綴る」


 ニューヨークに住んでいると、この街の歴史を感じることが多い。僕は夜にアパートを出て外のベンチに座り、通りをぼーっと眺めていることがある。以前はソーホーを夜に散歩するのが好きだったけれど、いまのソーホーはまるっきり商業の地区となってしまって歩いていても面白くもなんともない。

 そこで、アパートの近くの小さな公園のベンチに座ることになるのだが、目の前を通る人を眺めていると、やはりずっと前にも僕と同じようなことをやっていた人がいて、同じように往く人々を眺めていたんだろうなと思う。

 僕にとってはこれは、O・ヘンリーの世界だし、ジャック・ケルアックの世界で、ジェイ・マキナニーの世界だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の書評欄で、1609年から2009年までの年月にニューヨークにいた人々の日記を集めた本「New York Diaries」の書評を読んで、この本を買った。

 この本は1月1日から12月31日までに一日ずつ区切られていて、それぞれの日に2つから4つのエントリーがある。

 例えば 4月16日のエントリーには1912年のこの日に書かれたタイタニック号沈没の感想を書いた日記が載っている。また、10月2日の項にはハドソン河を探検したヘンリー・ハドソンの航海船ハーフムーン号の乗組員の日記(1609年)、ニューヨークの画家ジョン・スローンの日記(1909年)、そのほかに女優マリリン・モンローの日記(1963年)のエントリーナドがある。

 この本に登場してくる人物はアルベール・カミュ、ジョン・ドス・パソス、トマス・エディソン、アレン・ギンズバーグ、キース・ヘイリング、ヘンリー・ハドソンユージン・オニールセオドア・ルーズベルトジョージ・ワシントンマーク・トウェインエドガー・アラン・ポージャック・ケルアックアンディ・ウォーホル、ウィリアム・スタインウェイドロシー・パーカー、ノア・ウェブスターなどここに書ききれないくらいだ。

 1月18日の項にはジョージ・ワシントンが歯痛と歯茎の腫れを訴える日記があり、同じ日の項にタクシーでユニオン・スクエアにきた(料金3ドル)アンディ・ウォーホルが強風で人が宙に飛ばされる光景を人生のなかで初めて目撃したことを伝えている。

 11月19日の項ではジャック・ケルアックが家に迎えたダーク・アイズ(女の友人か)と一緒に朝まで踊りあかし、9月10日の項ではニューヨークの作家/画家デイヴィッド・ウォイナロナヴィッチが1977年のソーホーやクリストファー通りを歩き、8月16日の項では詩人ウォルト・ホイットマンが24丁目のレストランで朝食をとる。

 名前を知らない人物のエントリーも多いので、本の後ろについている人物紹介を引きながら読み進めるので時間がかかるが、ニューヨークでの夜の散歩と同じように楽しい作業だ。

 図書館、歴史協会、遺産管理組織などから苦労して本当に多くの人物の日記を集めたこの本の編者テレサ・カーペンターには感謝。彼女自身ピューリッツア賞の受賞者で、ビレッジ・ボイス紙の元シニア・エディターだ。

 ニューヨークが好きな人にお勧めの本。


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