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『Roads : Driving America's Great Highways』Larry McMurtry(Simon & Schuster)

Roads : Driving America's Great Highways

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「アメリカのインターステートを走る旅行記」


 これまで、アメリカ大陸を3度横断したので、いまでもアメリカ全土のロードマップをみるとその時のことが思い出される。もの凄いヒートウェイブのなかをニューメキシコ州アルバカーキに向けて走ったインターステート40、ワイオミング州の荒々しい自然にみとれたインターステート80、テネシー州メンフィスからルイジアナ州ニューオーリーンズに抜けるインターステート55など、それそれの道と僕の記憶はいつまでも結び付いている。

 そんな僕の心の扉をノックするような本を読んだ。それはラリー・マクマートリーの新刊『Roads』だ。マクマートリーは1985年に出した小説『Lonesome Dove』でピューリッツァ賞を獲得した作家だが、『Roads』は小説ではなくエッセー集だ。内容は60歳を超えた著者が20世紀の終わりに、メリカのインターステートを走り、そのときに感じたことを書いたものだ。

 「20世紀の終わりにアメリカの道を車で走り、この国を再びみてみたかった」と著者はこの本の冒頭に記している。

 ニューヨークの本屋でこの本を手に取り、冒頭の文を読んだ僕は、「いいな〜」と心のなかで呟いた。僕も、自分の狭いアパートとときには仕事のことばかりになるニューヨークを抜け出して、果てしなく続いていそうなインターステートをまた走り回ってみたいのだ。

 著者の書く文章は旅行者の助けになるような情報はほとんどなく、車でアメリカを走り回ったビート作家、ジャック・ケルアックの『On the Road』に出てくるような英雄的な逸話もない。

 インターステートを走り、そのときに心に浮かんできた事象を、時には皮肉を込めて、またときには懐かしく思い出しながら書き進めている。

 

 この本のなかで、僕が最も気に入ったのは、著者が子供のころから何度も使ったサム・カウアン・ロードというかつては舗装もされていなかった道のことを書いた『Short Roads to a Deep Place』という話だった。

 その道は、著者がまだ子供のころ祖父と一緒に馬車に揺られ、6マイル離れた小さな町まで郵便を受け取りに行った道であり、トラックが使われ出す前に、カウボーイの一員として牛を運んだ道でもあった。

 ノスタルジックな描写に、どこか埃の匂いさえ漂う文章は一読の価値がある。また、インターステート75、US1を走りフロリダ州のキーウエストを訪れる話も面白かった。

 テーマパークのようになってしまったキーウエストを、「ここはもうディズニーに運営を任せた方がいい。ディズニーなら最低でも駐車場を上手く取り仕切るだろう」と皮肉を言い、キーウエストに残されたヘミングウエイの蔵書をみて、「ろくな本がない。きっとヘミングウエイの3人の妻の誰かががこの本を選んだに違いない」と意見を述べている。

 僕は、この本を読みながらこの皮肉にニヤリと笑い、センチメンタルな文章にアメリカの知らない土地への思いを馳せた。


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