『Prep』Curtis Sittenfeld(Random House)
「アメリカ東部のプレップ・スクールが舞台となった小説」
マサチューセッツ州ボストンで大学の4年間を過ごした僕は、時々マサチューセッツ州が恋しくなる。ボストンは都会なので、ボストンに行きたいとはあまり思わないが、大学の春休みや夏休みを過ごした田舎町にまた行ってみたいと思う。
いまはマンハッタンのビルに囲まれて住んでいるので、あの樹木の多い古く美しい土地でのんびりと時間を過ごしてみたいと思うのだ。
そして、一緒に休みを過ごした大学時代の友人たちのことも思い出す。もう、居場所も分からなくなってしまった奴らのほうが多いが、それでも数人は連絡を取っている友人もいる(と言っても年に1回とか2回だけど)。マサチューセッツ州は、僕にとって学生時代の思い出と切り離せない場所となっている。
今回読んだ本は、マサチューセッツ州にある学校が舞台となった小説『Prep』だった。Prepとは、ハーバード大学やブラウン大学などアメリカの一流大学進学のための準備をする進学校のことだ。正式にはプレパラトリー・スクールと言うが、ほんとんどの場合は短く「プレップ・スクール」と呼ばれている。
東海岸の名門プレップ・スクールに通う生徒はプレッピーと呼ばれ、彼ら(彼女ら)のアイビー調の服装はプレッピー・スタイルと呼ばれている。小説『Prep』は、もちろんプレッピーの物語だ。
物語の舞台となっている寄宿制の学校の名前は「オルト・スクール」となっているが、これがマサチューセッツ州にある超名門プレップ・スクール「グロトン・スクール」であることは、グロトンを知っている人ならすぐに分かる。
主人公は、インディアナ州の小さな町から、オルトのアッパー・スクール(13歳から17歳)に入学したリー・フィオラ。
物語は24歳となったリーが、自信のなかった当時の自分を振り返りながら、名門学校での体験を語る形式で進められる。彼女の一番恐れていることは、自分が奨学金を受け取っている学生であるとほかの生徒に知られてしまうこと。金持ちの子弟子女ばかりが周りにいる学生生活のなかで、彼女は友人を作るのにも苦労する。
ロックの歌詞のなかに登場するような、裕福で高慢な、男子生徒の憧れであるブロンドの少女アペス・モンゴメリー。韓国からの留学生シン=ワン。アペスの取り巻きのひとりであるディー・ディー。桁外れの金持ちの娘でありながら、アウトサイダーの道を行くコンチータ。誰一人としてリーと共通な価値観を持っている生徒はいない。
そして、リーが心を寄せる男子生徒人気ナンバー・ワンのクロス・シュガーマン。リーは教師と対立し、時には女生徒と喧嘩をしながらだんだんと成長していく。
リーはコンチータの友人を奪う形で、生涯の友人となるマーサとルームメイトになる。そして、憧れていたクロス・シュガーマンともセックスをする仲になるが、幸せを感じられる関係ではない。
『Prep』には全編を貫く大きな事件は起きない。この物語の面白さは、4年間の学生生活のなかでのリーの心の動きだろう。自己嫌悪に陥り、友人と張り合い、自分の行動は正しいものだろうかと常に悩み考える。思春期から大人の仲間入りをしようという時期の、女性の心情が詳細に描かれる。プレップ・スクールという華やかな場所が舞台となっているのもこの小説を面白くしている要因のひとつだろう
著者のカーティス・シテンフェルドは、16歳の時に『セブンティーン・マガジン』誌がおこなったフィクション・ライティング・コンテストで優勝。その後、『ニューヨーク・タイムズ』紙などに寄稿。スタンフォード大学、アイオワ大学創作科卒業。高校は有名プレップ・スクール、グロトン・スクールを卒業。『Prep』は彼女のデビュー小説となった作品だ。