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はみだし!キノベス!『グロテスクな教養』

グロテスクな教養

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紀伊國屋書店スタッフがおすすめする今年のベスト30~キノベス2005」、


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「はみだし!キノベス!」として紹介いたします。



グロテスクな教養

高田里恵子ちくま新書

教養崩壊が叫ばれて久しい昨今、「教養」という言葉は再びスポットライトを浴びているようです。もっとも、教養は必要だと思っている人は多いのに、往々にして話がかみ合わないのですよね。そんな教養言説史のこんがらがった網目をほぐして、「そうだったのか」と得心させてくれるのが本書です。

古き良きオジサンの教養論にニオう自意識に女性の立場から醒めた突込みを入れながら、著者は、男の子(「父の娘」)いかに生きるか、という事の本質(だったこと)に目を開かせてくれます。

著者自身言うように「いやー」な気分になりながら、目の前のタンコブが取れるような読後感。それでいて、教養を否定する教養人という逆説的伝統を踏まえているから、知識も豊富で、けっこう勉強になるんです(個人的には「偉大なる暗闇」の話が好き)。

竹内洋教養主義の崩壊』などと併せて読むと、現代の「教養」の問題点がよくわかります。ありがちなナイーヴな「教養」論を超えて進むために必読となる本だと思います。

著者はデビュー作『文学部をめぐる病―教養主義・ナチス・旧制高校』で人文業界に衝撃を与えた独文学研究者。この本も「二流の男たちの悲しみ」に照準されていて、身につまされる。

【洋書部・野間健司】