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羊の歌/加藤周一

羊の歌
加藤周一

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7/5/2013 6:04:49
文学部人文学科
1年生・男性

あなたが誰かに贈りたい本はありますか?その本の名前と著者名をお書きください。

羊の歌/加藤周一

その本をどんな人に贈りたいですか?

善く生きたいと思う全ての方へ。

どんな内容の本ですか?簡単なあらすじや、設定などをお書きください。

先年他界した知の巨人加藤周一による自伝的小説。ファシズムと戦争を呪い、ひたすらに自由と人間を愛した彼の透徹した理性がいかにして形成されたかが綴られている。超国家主義がもたらす悲劇を予感しつつそれに反抗する術をもたなかった良識の叫び。

あなたはその本と、どのようにして出会いましたか?

高校生のとき、最も多感な時期に戦争を経験した進歩的知識人に興味がわいた。その対象は丸山であったり三島であったりしたがひょんなことから加藤を知った。当時僕の興味は評論ではなくその評論を生み出した背景と背景の彼自身による解釈にあったから必然的にこの本へ手が伸びた。

その本を受け取った人に、どのように思ってほしいですか?

戦前、戦中、戦後を通じて理知的であり続けた加藤が狂気の時代に投げかけたまなざしの鋭さを感じてほしい。知ろうと知るまいと自分に関わりのないことは確かに多い。しかしそれでも知ろうとする彼の精神に惹きつけられるのはそこに人間のあるべき姿を見るからだろう。そして知ろうとしない人間がいかに危うい存在かを既に見てきたからなのだろう。危機は突如として天から降ってくるものではなくなし崩し的な改悪によって徐々に迫りくるものだ。未来の危機を回避するために今時代の薄暗がりに目を凝らすことを忘れてはいけないと思う。