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『アース ミュージック&エコロジーの経営学』石川康晴(日経BP社)

アース ミュージック&エコロジーの経営学

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 ショッピングモールの店頭に宮崎あおいの写真がある。店内にも、いくつか写真のパネルがある。自然と「ヒマラヤほどの消しゴムひとつ・・・」というCMが浮かんでくる。宮崎あおいが、歩きながら、鉄棒にぶら下がりながら、草野球の外野の守備につきながら、自転車に乗りながら、気持ちよさそうに歌っている。なんのCMかわからないし、けっしてステージで聞きたいとは思わない。最後に「あした、なに着て 生きていく?」という字幕が入り、宮崎あおいが「アース ミュージック&エコロジー」と言って終わる。


 「売上高10年で22倍 100%正社員、女性9割」と、表紙タイトルの下にある。著者、石川康晴は、「1970年岡山市生まれ。94年にわずか4坪のセレクトショップを開業。95年にクロスカンパニーを設立。99年にSPA(製造小売業)へと組織転換し、業績をさらに伸ばす。宮崎あおいさんがブランドキャラクターのアース ミュージック&エコロジーをはじめ、8つのブランドを展開する」社長である。


 本書は、プロローグ「宮崎あおいはなぜうたったか」、4章(「たとえ回り道でもまず社員力を高める」「お説教は無意味!売る仕組みを磨く」「テレビCMと全体戦力をつなげる」「経済成長と社会貢献のバランス」)、「対談 ストーリーとしてのクロスカンパニー戦略」、そして節の終わりの12の「石川康晴の視点」と章の終わりの4つの「COLUMN」からなる。


 本書を読んで、成功の秘訣は2つあると思った。ひとつは、楽しんでいることである。社長が楽しんでいるだけでなく、社員にも楽しみながら仕事をする環境を創っている。もうひとつは、学ぶ姿勢である。石川社長自身「経営者を務めながら岡山大学経済学部に社会人入試を経て入学。忙しい業務の合間をぬって授業に出席し2013年に卒業」している。学ぶのに、「忙しい」「時間がない」という言い訳が通用しないことを、自ら証明している。


 そのほか、気づいたことが2つ。ひとつは、松下幸之助の「売れなければ掃除しろ」ということばを、社員とともに実践していることである。「第3土曜日に半日かけて、社内の「断捨離」に取り組む。不用品をまとめて処分すると同時に、普段できない細かな部分の掃除を行う。社員は自分のデスク周りと共有スペースの担当するエリアを磨き上げていく」。わたしも、原稿が書けなくなったときに掃除する。すると、毎日見ているはずなのに、忘れていたことを思い出す。新しいアイデアが浮かんでくることもある。


 もうひとつは、出身地の岡山にこだわっていることである。最後に助けてくれる人は、自分を日ごろから見守ってくれている人だということを、社長は知っている。それは偏狭な郷土意識からではなく、地域社会や家族の大切さを知っているからだろう。その岡山県の北西端の新庄村を支援している。B級グルメで注目を集める近隣市町と違い、この過疎地で「本物のA級グルメ」のイベントをおこなったりしている。数年前に、遠縁の幼なじみが、新庄村の村長夫人になっていることを知った。「平成の大合併」でもどこにも編入せず、人口999人だと言っていた。そんな中山間地域の活性化がもたらす意味も考えている。


 経営が順調に進んでいるいまだからこそ、「無駄」とも思えることが積極的におこなえているように思える。「グループ連結で売上高1000億円」、「クロスカンパニー単体では全国に約600店があり、約2600人の社員」が、「20年後1兆5000億円「ユニクロを超える!」」のか?「これまで会社づくりで考えてきたことやそのためにつくってきた仕組み」が、今後どのように変わっていくのか、見守っていきたい。


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