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『考える力が身につく社会学入門』浅野智彦編(中経出版)

考える力が身につく社会学入門

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「パワーアップした社会学入門テキスト」

今回は、以前の当ブログ(2005年11月 )で取り上げた『図解 社会学のことが面白いほどわかる本』のリニューアル版とでも呼ぶべき本をご紹介します。



前作『図解~』について、「あまり根気のない人でもとりあえず読みきれる程度の、日本語で分かりやすく書かれたテキストがほしい」という(虫のよい)ニーズに応えうる数少ないテキストのひとつとしてご紹介しましたが、今回のこの本は、同じ執筆陣(加藤篤志、苫米地伸、岩田考、菊池裕生)によって書かれており、前作の良さをそのままに温存しつつ、更にパワーアップしているように見えます。

どの点がパワーアップしていると見えるのか、3点挙げておきたいと思います。

まず、取り上げられる時事的なトピックや事例が一部刷新されています。心理主義化、婚活、ベーシック・インカム江原啓之、など前作では登場しなかったものが出てきています。やはり何といっても、初学者に対しては、最近目につく話題や言葉について社会学がどう語れるのか、「基本的な視点を教えたから、あとは自分で考えて」というよりも、具体的な記述を通してアプローチの仕方を示した方がよいように思います。

次に、構成がシンプルになったこと。前作の後半に位置していた、ルールと権力、「政治的無関心」(以上『図解~』第6章)、グローバリゼーション、ナショナリズム(以上『図解~』第7章)、社会学史(『図解~』エピローグ)の部分がカットされ、5つの章にすっきりとまとめられています(「勝ち組/負け組」および社会保障については第4章に吸収される形になっています)。どのような議論を経て構成が変更されたのかわからないのですが、私が一読して抱いた印象は、先に述べた「あまり根気のない人(読者)」が退屈してしまいそうな部分をさらに省いた、という印象でした。こんなことを言うと、カットされたトピックを専門とする研究者の方々に怒られてしまいそうなのですが(もちろん、そのトピック自体が退屈だというのではありません)、思い切って内容を絞ることで、全体として約1割の分量を減らし、なおかつ(少なくとも私が顔をあわせているような)学生がいかにも関心をもちそうなトピックや事例に余裕をもってふれることができるようになったのではないでしょうか。

そしてこのようにして生まれた若干の紙幅の余裕が効いているのでしょうか、単に新しいトピックや事例が登場するというだけでなく、論述そのものが差し替えられて、より踏み込んでいる部分があります。たとえば、自殺を取り上げている部分(第5章)では、前作では、自殺の原因もしくは社会的背景に関する推論の域にとどまる内容であったのに対して、今回の内容は、男性の自殺率の高さに着目して解釈を試みたり(もちろんこれはあくまでも着眼点のひとつなのでしょうが)、精神疾患うつ病)との関連を指摘したうえで、社会的なサポートのあり方というテーマ圏にまで目配りするなど、いっそう充実した感があります。

このようなわけで、今年度の入門授業(学部1年生対象)でも、社会学をまったく知らない人にも勧められる一番手の一冊として推薦しました。やはり、魅力は健在、といったところでしょうか。


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