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『日本の植民地建築――帝国に築かれたネットワーク』西澤泰彦(河出書房新社)

日本の植民地建築――帝国に築かれたネットワーク

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「河出ブックス」の創刊ラインナップ紹介、最後の6点目は、西澤泰彦さんの『日本の植民地建築――帝国に築かれたネットワーク』です。


西澤さんは、名古屋大学大学院環境学研究科准教授。専攻は建築史。2009年日本建築学会賞(論文)を受賞されています。

今回の本は、日本帝国の植民地支配の背景にあった、人・物・情報のネットワークに着目。建築を鍵として、支配の実態と深度を問い直してゆきます。タブーが解けつつあるなか植民地文化研究が活発化していますが、そうした文脈においても注目の一冊です。

西澤さんから読者のみなさんへのメッセージです。

「20世紀前半に日本が支配した地域に建てられた建築を通して、日本の支配を実感してほしい。また、植民地建築をとりまく変化を通して、建築に対する複眼的、総合的な評価の重要性を考えてほしい。地球環境や居住環境の破壊の元凶となってきたスクラップ・アンド・ビルドの発想から脱却する鍵がそこにあると思う。」

目次(章タイトル)は以下のとおりです。

はじめに

序章 なぜ植民地建築を語るのか

第1章 植民地建築

第2章 支配機関の建築組織と建築家

第3章 植民地建築を支えた物

第4章 植民地建築を支えた情報

第5章 植民地建築とネットワーク

終章 植民地建築のその後

あとがき

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西澤泰彦の、「この〈選書〉がすごい!」

岡本哲志『銀座四百年――都市空間の歴史』講談社選書メチエ、2006年

日本を代表する商業地銀座の歴史を都市空間や建築の変遷を題材に語っていること、江戸時代と明治時代以降についても断絶なく語っていること、の2点によって、銀座の歴史と街としての特徴がよくわかる。また、街区や個々の敷地の変遷の具体例、建物の具体例、雨宿り場所として存在した庇地の所有の曖昧さの具体例を示して、都市の変化を3次元的な都市空間の変化として示した点が優れている。そして、その結果を基に銀座の未来を語ろうとする点も重要である。抽象的で空虚な都市論を語る評論家や政治家にぜひ読ませたい本でもある。帯の言葉を借りれば「銀座の空気」がよくわかる本。

山室信一憲法9条の思想水脈』朝日選書、2007年

法思想史を専門とする著者が、平和憲法の根幹である日本国憲法第9条法を支える思想が成立した背景(思想水脈)を説明し、その思想の重要性を訴えた本。現行の日本国憲法GHQの押しつけであるとする主張に対して、非戦、不戦の思想が西洋だけでなく、日本においても幕末から連綿と存在してきたことを示すことで、「押し付け論」を明快に排除している。また、法を裏打ちする思想の重要さを示すことで、法を単なる規程として扱うのではなく、社会規範として扱い、それを通して、平和を希求する思想の普遍性を訴えているところに共感を覚える。

原田勝正『鉄道と近代化』歴史文化ライブラリー(吉川弘文館)1998年

鉄道という社会基盤施設が、日本の社会・文化の近代化に果たした役割を論じた本。鉄道を単なるモノとして扱うのではなく、鉄道が有する政治性、経済性、社会性、文化性に着目し、鉄道と国家権力との関係、鉄道建設による社会の変化と鉄道建設の技術が示す社会の近代化を論じたところが大いに参考になった。また、鉄道というモノが社会と文化を示すという視点は、拙著『図説満鉄』(河出書房新社、2000年)執筆のヒントのひとつとなった。


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