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『ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記』グレゴリ青山(イースト・プレス)

ブンブン堂のグレちゃん 大阪古本屋バイト日記

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「古本育ち」

古本情報誌『彷書月刊』(彷徨舎)で大好評だった連載マンガの単行本化。八十年代半ば、著者が学生時代をすごした大阪の古本屋での日々が綴られている。

ヒロイン・グレちゃんは18歳。夜間のデザイン学校で学ぶことになった彼女が、昼間のバイト先にえらんだのは梅田の古書街にある「ブンブン堂」。本当は、同年代のステキな男子との出会いがありそうな「ナウ」くて青春ぽいバイト先を夢みていたはずだけど、グレちゃんは出会ってしまったのだ、古本の世界に。

古本好きにとっては、思わず顔がほころんでしまうグレちゃんのアルバイト生活。ただし、古本に詳しくないひとが読んでも、古本屋の仕事がどういうものなのかがよくわかるよう、とても親切な描きかたがされており、その、誠実さとまじめさは著者の魅力のひとつ。

ゆえに、彼女が「ブンブン堂」店長や、古書街の、風変わりだが愛すべきキャラクターの古書街の人たちに、とてもかわいがられていたのにも頷ける。本書の裏主人公ともいうべき店長とグレちゃんとの掛け合いは最高で、いちばんの読みどころといっていいかもしれない。

連載のほか、店主の顔がクローズアップされた大阪の古書店紹介も収録。これは、マンガだからこそ、古本屋育ちのグレちゃんだからこそ実現できた楽しさである。あとがきには「この本を読んで『古本屋に行ってみよ』という気になってくれれば幸いです。」とあるが、うんうん、きっとこれを読めば、みんな古本屋へ行ってみたくなると思うよ、グレちゃん。

また、中井英夫竹中英太郎生田耕作など、「ブンブン堂」時代に出会い、今日の著者をかたちづくることになったグレちゃん好みの作家についても折り触れて紹介。さらに、古書目録や古書情報誌についてのコラムあり、古本入札市のルポあり、大阪古書店地図あり、本書に登場する古本の目録ありと、至れり尽くせりの内容。とどめは、古書店の棚の写真がカラーでびっしりと並んだ見返しで、これをみるや、古本好きは古本欲がむらむらと湧き起こり、いてもたってもいられなくなる。

マンガとしても楽しめ、古本と古本屋案内の書としてもすぐれている。しかも本書は、古本という未知の世界を通じて、自らの居場所を発見する少女の成長と旅立ちの物語でもある。グレちゃんが、「ナウ」くて青春ぽいファストフード店をバイト先にえらばなくてよかった、「ブンブン堂」に出会って、本当によかったと思う。

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