書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『Is It Just Me or Is Everything Shit? : The Encyclopedia of Modern Life』Mcarthur, Alan /Lowe, Steve(Time Warner Books)

Is It Just Me or Is Everything Shit? : The Encyclopedia of Modern Life

→紀伊國屋書店で購入

パートリッジ英語俗語辞典」は今回8版を数える英語俗語の辞典で、その最新版の刊行日、ロンドンのストランドにあるジョンソン博士旧邸での出版パーティーに招かれた。辞典編者や出版社のスタッフが集まる楽しい会合だった。

この辞書ほどの偉業にあたりslangを俗語と和訳するのは全くうまくあたらないだろう。私ごときが英語の奥深さを語るのは役不足だが、国や地方ごとの方言やアクセントやスペリングの違い、同じく地域ごとの言い回しや用語の違い、新旧の言い回し、など英語の持つ(スペイン語も多分)国際的多様性はすさまじいとあらためて感じた。パーティーで居合わせた方に「日本語でこういう辞書を作って出版するのは公序良俗上、無理ですね」と思わず口にすると、驚いたように「それはどうして?」と理由を説明させられ、検閲がどうのと話している私は脳裏で現代日本語の語彙の少なさ(それより或いは私自身の語彙の少なさ)に思い当たってしまう。英語のいわゆるSワードやFワードなどの四文字言葉程度なら日常語としてどこでも飛び交っている。日本でたまに言われるような「言葉が乱れている」という程度のスケールの問題ではない(勿論イギリスにも言葉の乱れを嘆く人はたくさんいる)。イングランド、アメリカ、オーストラリア、アイルランドスコットランド、その他大勢インターナショナルな規模で「乱れ」た状況にずっと前からなっている。別にそれをいいことだとか思っているのではない。昔の日本語が今より語彙が豊かだったことは何となく想像できる。関西弁ネイティブであり所謂標準語(一応は喋れるつもり)に未だ抵抗を感じる私は、日本語と比べた時の(比べるべき対象ではないが)英語の語彙の量と多様さと国際性と言語統制の度合いの弱さを何となく意識してしまう。毒食わば皿まで。ややこじつけだが、いわば入門編としてここにタイトルした「イギリス現代生活百科辞典」を読んでみる。

<Clone town>イギリスの町々はチェーン店ばかりでクローン化している(確かに)<Ikea>99%の新婚夫婦がここに買い物に来るが3時間店内を歩いたあげく結局家具は買わずに電球を買って帰る(ご同慶の至り)<Keane>今すぐ活動を停止すべし!シンガーの顔が丸すぎる!<Henmania>愛国者御用達の弱いカリスマ(いつも直ぐに消える)<Adult editions of children books>字の大きさとカバーが違うだけ(職業柄コメント不可)<Moto Service Stations>年間最優秀トイレ賞連続受賞 <Daily Mail>伝統を忘れない!がスローガンだそうだが戦時中親ナチだった自らの伝統はすっかり忘れたがっている(この婦人向け新聞を読んでいる男性には個人的に気をつけるようにしている)<Mini Coopers advertising estate agent>実際どうしてミニなのでしょう?<Foot spas>国民5人に1人がこの殆ど使わない電化製品を所有<Fish symbols on cars>反ダーウィン主義の台頭<Tesco>軍隊の約二倍の従業員を抱えイギリス国民£8の消費の内£1を巻き上げるスーパーマーケット<Thankyoutony.com>実際イギリスはアメリカにNoと言うことがない<Crazy Frog>カエルの交尾について<Vox, Bono>お前は神か?<Volume of TV ads>でか過ぎる(日本も)<Restaurants that levy charges for food you have not ordered>オリーブとパン(確かに結構いらない)<Luxury tat>グッチCOE曰く「高級ブランド品は人々に夢を与えている」<Robert Kilroy-Silk>逆に標的にされている哀れむべき男<Intel Inside tune>あの音あの音あの音<Two jags>男には三次会が必要<Cash machine>アドバイススリップに「あなたの口座にはもう現金がありません」と出てくるがこんなのは「アドバイス」じゃない。アドバイスというのは「あなたの兄弟が宝くじに当ったようです。直ぐに連絡を取れば2ポンド貸してくれるかも」とかそういうものだ。ついでにキャッシュマシーンというと現金を生み出す魔法の機械みたいな幻想を与えるから名称を変えた方がいい。()内のみ筆者。

閑話休題。イギリスに住んでいて何が楽しい?とイギリス人に聞かれた時には「庭を見るのが好き」とか「フットボールが」とか「英語の勉強で」とかいう風に答えるのだけは止めにしている。イギリスに住んでいる人でないとこんな洋書は読まないし(でもUKのチャートでは現在1位)、面白いと思う筈もないし(多分)、まるで学食の会話みたいだし(実際著者は学生)、それに毒舌でちょっと言いすぎではないかと思ったりもする(これは明らかに、だけどだから売れている)。こういうのは何となく人から教わりたくないし、つまり不要の役に立ったというしかない。

(林 茂)


→紀伊國屋書店で購入