『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学 集中講義』ティナ・シーリング(阪急コミュニケーションズ)
「中年になっても価値ある起業のススメ本」
プロモーションが成功してかなり売れているようだ。ネットでも書評がずいぶんでている。それでも僕はこの本について紹介したい。
ひとりの人間が会社を起こして軌道に乗せるとはどういうことなのだろうか。ずっと考えている。
個人、組織、夢、事業、家族・・・複雑な変数でできあがった自分の人生をよりよくするために、勇気ある一歩を踏み出す。起業とは、そういう一歩である。
起業のセミナーにいくつか出たことがあるが、心に響くものは少ないものだ。それでも、自分を鼓舞するために、自分の知らない世界を知っている人の意見を聞く。無駄を承知で聞き、読む。
著者による起業家養成コースは全米でも大評判だという。納得である。翻訳もこなれている。ロジカルな文章だから、翻訳も力強いのだろう、と思った。
女性の書き手ということもあるのだろうが、実にきめ細かい表現である。起業する、という気負いをほぐすのがうまいのだ。
アイデアだしにはお金がかからないし、常識を忘れることで可能性の幅が広がっていくことに気づかせてくれる。
成功した起業家たちの多くは、闘争心や競争心に駆られて仕事をこなしてきたわけではなく、自分自身のやる気を源泉に仕事をしてきたこと。言われてみればもっともなことを、アメリカの最高学府の教員としてロジカルに、自信を持って語ってくれる。
上質な起業論をライブで聴講しているようで、読んでいるうちに静かな高揚感を覚えた。
僕はこの書評をできるだけ再読の価値がある書評だけに絞っているつもりだ。本書は、仕事で新しいアクションをしようとする人間であれば読むべきだ。プロジェクトを立ち上げるとき、うまくいかなくなったとき、不安がよぎったとき、本書は良質の助言をしてくれるだろう。
僕が感銘を受けたストーリーは身長1メートル足らずの美しい女子学生アシュウィニの活躍。リサーチアシスタントとして応募してきた彼女を、著者は断ろうとする。外見によっ機会を失うことに慣れっこになっているアシュウィニは、戦略的に行動して、著者と仕事をする立場を得る。さわやかなストーリーをさらりと書く。
ビジネスの王道を説きながら、マイノリティの活躍というサブストーリーが織り込まれている。良質なアメリカの著作のルールに忠実である。
あらゆる人たちに道は開かれている。ただ、本人がその道に気づいていないだけなのだ。本書によって、自分のもっている常識という眼鏡が外れて覚醒する人が増えることを願う。
追記
本書読了後、僕はすぐにfacebookで、著者を探し出した。すばらしい本だったというメッセージを送った。もちろんアクセプトしてくれた。ネット時代になって、実に簡単に著者とコミュニケーションができることはうれしいことだ。