『守り人(全10巻完結セット)』上橋菜穂子(偕成社)
「オトナの夏休み課題図書」
とても大切で、大好きな友人に薦められて読んだ。
ファンタジーといってしまうと、レッテルをはるようで失礼な気がするが、
やはりファンタジーなんだろうな、とも思う。
とにかく世界が濃密で、いつまでも思いきり浸っていたい。
異国の話ではあるけれど、とことん和風ファンタジー。
妙にしっくりくる世界観なのだ。
計算してぬかりなく作られた世界、ということではなく
人々が暮らしている息遣いが聞こえてきそうな、
しっとり身にまとわり付いてくる感じ。
デジャヴに近い懐かしさ。
ちっとも見たことのない世界なのに。
この感情はどこから来るんだろうか。
世界観というよりは生活感、かもしれない。
おいしそうな異国の食べ物や
情景が見えてくるような住まいの描写がすばらしい。
様々な国の人の気質や、それぞれの暮らしや文化がたっぷり描かれている。
登場人物も魅力的だ。
メインキャストの成長や関係の変化もシリーズを通してじっくり堪能できるし、
各巻に登場する人物の人生にも惹かれる。
それぞれを主人公にした、サイドストーリーも読んでみたい。
たったいまでも、どこかの山の峰でバルサが空を仰ぎ見ているような気がするし、
タンダが薬草を探している後姿が浮かんでくるし、
そして、時折ふと、チャグムはどうしているだろうかと案じてしまう。
はっと気付いて、同じ世界に生きていないのに、と赤面してしまう私。
単なる児童書で片付けるにはもったいなく、
オトナの夏の課題図書としてイチオシする。
10冊どさりと積んで、じっくり世界に浸って欲しい。
文字の力を見せつけられる物語だ。