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プロの読み手による書評ブログ

『名前の漢字学』阿辻哲次(青春新書)

名前の漢字学

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「日本人の名前の由来をひも解く」

私は仕事上、外国との行き来が多い。住んでいるのがアメリカだから正確には、「日本との行き来が多い」と書くべきである。飛行時間は14時間ほどだが、乗り換えがうまく行かないときには18時間近くかかる。機内に持ち込んだ本も、このくらい時間をかければ大体の本なら片道で読めてしまう。・・・などと書くと格好よいのだが、本当は機内の映画に気を盗られて本を置いてしまう。しかし、今回は映画にめげずにこの本を面白く読んだ。


漢字のもとである象形文字や甲骨文字は、今流に言えばアイコンである。このようなものは現在、携帯メールで使う顔文字ともなっている。漢字は我々の日常生活に欠かせないものであり、東洋の文化だと私は思っている。ハードカヴァーの洋書がカバンに入らないほど分厚く、日本の本が手ごろに薄いのも漢字のお陰だ。もし戦争直後のGHQが薦めたように日本語のローマ字化が実行されていたら、さぞかし日本の本も分厚くなっていたことであろう。漢字のお陰で、日本人の記憶力は発達し、想像力も豊かになる。「色即是空」、「喜怒哀楽」などの四文字熟語は、多くの文字を使って説明しなくてはならないことも漢字を使って短くすることが出来る。「色即是空」などには40文字以上の説明が省略されているのである。因みに「喜怒哀楽」は携帯メールで、(^.^)/ (><)! (~.~;) (^_^) 、となるのであろうか・・・。

今回、私が読んだ本は、子供に付ける名前を探すための本ではない。

終戦直後、教育改革の一環として定められた当用漢字の紹介から始まり、1981年に制定された常用漢字への歴史が書かれている本である。同時に、人名漢字を通して時代のうつりかわりが楽しめる本であり、漢字への関心を誘ってくれる。

昔流の複雑な漢字を現代流に書き易く直したために、本来の意味を奪われてしまった漢字があると知るのも興味ぶかい。例えば、「藝術」を現在では「芸術」と書くが、「芸」は「うん」とも読み、奈良時代には書物の虫避けに効果のあった香り草であったことも知ることができる。「文藝春秋」日本文藝家協会」がいまだに「藝」と使っているのは、本当の意味を認識した上でのことであると言う。

子供に付ける名前は人名用漢字を使うが、これらは文部科学省文化庁から常用漢字として認められていなくてはならない。しかし、常用漢字に含まれている漢字には人名に使われないであろう漢字がある。「糞」「屍」「淫」などがそれである。これらを人名用漢字から除くべきとする審議員たちと、除く必要はないとする行政側とのやり取りも面白く読んだ。人名の読み方に規制は無い。ということは、「糞」を「かおる」と読ませても・・・と刺激してくれる本でもあった。


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