『Microtrends』Mark J. Penn(Twelve)
「アメリカがどこに向かっているかが透けて見える本」
アメリカで最近人気の高まっているものに4年制大学を卒業したナニー(子守り)がある。これまでナニーというと、子育てを終えたあまり裕福ではない女性が多かったが、この傾向に変化が起きているのだ。
高学歴のナニーを求めるのはアメリカの有産階級。父親も母親も仕事や自分の社会的生活で忙しく、子供の面倒をあまりみられない人々だ。
この大卒のナニーの平均給料が4万3000ドル。大学を卒業したばかりの一般女性の初任給の平均が2万2000ドルなので、ナニーの給料の方が大幅に上回っている。
この給料額に応えて、大学を卒業して大学院に行くまでのお金を貯める職業としてナニーとなる女性も増えている。もうひとつの変化は、女性ばかりではなく男性の子守り、マニーのなり手も増えている。
親にしてみれば、外国語を教えてくれたり、シェークスピアのことを教えてくれたりするナニーは高いお金を払う価値があるのだろう。
また、マニーの方は、いま増えているシングルマザーがもし何らかの公的援助を受けて彼らを雇えれば、欠けている男親の存在を補うものとなるだろう。高学歴のマニーやナニーは子供の社会性を変える可能性がある。それはつまり、社会を変える可能性があるということだ。
4年制大学卒のナニーやマニーへの需要はまだ小さなものだが、その流れは確実にできている。
いまのアメリカで起こっているこんな小さな、しかし重要な流れを追ったのが今回紹介する『Microtrends』だ。
ホワイトハウスに務めた経験を持つアナリストの助けを受け、この本を著したのはマーク・J・ペン。彼は1996年の大統領選でビル・クリントンの元で働き、「サッカーマム(教育に熱心なアッパーミドル階級の母親たち)」が浮動票となっていて彼女たちを取り込むことが選挙を勝利する道と提唱し、一躍有名になった統計学者だ。
この本には、先ほどの高学歴のナニーへの需要のように、まだメディアでは大きく取り上げてられておらず、一般には知られていない小さな流れ、マイクロトレンドが70以上紹介されている。
その中のいくつかを挙げてみると:
・ いまアメリカで50歳を過ぎて子供をもうける父親が増えている。
・ 英語をうまく使えないアメリカ生まれのアメリカ人が増えている。
・ 左利きの人口が増えている。
・ 白人有産階級のあいだでは、子供の幼稚園入園を1年遅らせ6歳で入園させる傾向にある。
・ アメリカ人は数学は嫌いだが、数字は大好きだ。
など、どれもしっかりとした統計をもとに紹介されていて、ひとつひとつの題材が興味深いコラムとなっている。
この本を読み終えたときには、アメリカが透けて見える仕掛けとなっている。
社会学に興味のある人、統計が好きな人、ビジネスチャンスを見つけようとする人、それにこれからアメリカがどこに進もうとしているのかを知りたい人にお勧めの本だ。