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『The Thousand Splendid Suns』Khaled Hosseini(Riverhead Books)

The Thousand Splendid Suns

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アフガニスタンを舞台に繰り広げられる愛と勇気の物語」

 『ニューヨーク・タイムズ』紙のベスセラーリストに100週間以上も留まった小説『カイト・ランナー』を書いたアフガニスタン出身の作家、カーレド・ホッセイニの第2作目の作品がこの『The Thousand Splendid Suns』。『カイト・ランナー』の方はスピルバーグ率いるドリームワークスにより映画化され好評を博した。

 第1作目があまりに売れた作家は、前作は凌ぐ作品を書くことを読者から要求される。そうでなければ、最初の作品はただのまぐれで、その作家に本当の才能は無かったのだと判断されてしまう。そのため前作がベストセラーになった作家にとって、次の作品の出版は危険であり、作家としての運命の分かれ目となる。

 大ベストセラーとなった『マディソン郡の橋』を書いたロバート・ジェームズ ウォラー、80年代に『ニューヨークの奴隷たち』を出版したタマ・ジャノヴィッツなどは前作の重みをはね返すことができなかった作家といえるだろう。 最近では、『Prep』を出版したカーティス・シテンフェルド、『バーグドルフ・ブロンド』のプラム・サイクスなどがやはりそれぞれの話題作を超える作品を書いていない。

 そんなことを意識しながら読んだホッセイニの作品だったが『The Thousand Splendid Suns』は前作を凌ぐ作品といえるできだった。

 物語の舞台は旧ソ連軍が侵略を続ける時代から、内戦によりタリバンが台頭しアメリカの攻撃で新たな政府が誕生するまでの約30年間のアフガニスタン。主人公は、この動乱の時期を生きたマリアムとライラというふたりの女性だ。裕福な男性が3人の妻以外の女性に生ませた子供であるマリアムは15歳で40歳の男の妻になる。男はマリアムに暴力をふるい、人間としての彼女の自由を奪う。

 18年間の子供のできない結婚生活のあと、男は爆撃により両親を失った14歳のライラを妻にすることに決める。両親を無くしたライラは自分の妻にならなければ娼婦になるほか生きる道はないと男は言う。ライラはすぐに子供を産むが、それは彼女のボーイフレンドだった青年の子供だった。そうして、最初は敵同士だったマリアムとライラは心を通わせ始める。

 残酷な場面もある物語だが、ホッセイニの描くアフガンスタンの風景は美しい。勇気、愛、信頼、家族などに人間はどう向き合ったらよいかを教えてくれる作品だ。


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