『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』John Irving(Bloomsbury Publishing Plc)
「ジョン・アーヴィングが書いた絵本童話」
1942年ニューハンプシャー生で生まれたジョン・アーヴィング。これまで『ガープの世界』、『ホテル・ニューハンプシャー』、『第四の手』などの傑作を発表。映画化された『サイダー・ハウス・ルール』では自ら脚本を書きアカデミー賞最優秀脚本賞を受賞している。日本でも多くのファンがいる。
僕自身は彼が書いた『The Hotel New Hampshire』を読んで好きになった作家だ。
そのジョン・アーヴィングが書いた絵本童話が今回紹介する『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』。この話はもともとアーヴィングの9作目の作品『A Widow for One Year(未亡人の1年)』のなかに出てくる物語だった。主人公のひとりが童話作家という設定だった物語のなかでアーヴングが用意した童話だ。
童話のもともとのアイディアは、3人の子供の親であるアーヴィングが自分の子供を育てるなかから生まれたものだ。インタビューでアーヴィングは次のような話をしている。
あるとき、アーヴィングは古い家を借り家族としばらくその家で暮らした。しかし、家の配管が古いためバスルームにある蛇口をひねると、水がきちんと流れだす前の数十秒間、パイプがもの凄い音をたてた。
この音は子供たちを怖がらせた。アーヴィングは子供たちにその音は「ウォーター・パイプ(水の配管)が鳴っているだけだ」と説明したが、子供たちはそのバスルームに近づこうとしなかった。
数カ月後、アーヴィングは半人半獣の怪物が出てくる絵本を息子のひとりに読んであげていた。怪物の絵を指さして「これはなんだ?」とアーヴィングが子供に聞くと、子供は「これがウォーター・パイプなの?」と答えたという。
大人が説明したつもりになっても、その言葉の意味をまだ知らない小さな子供は、その言葉とは違うものを想像してしまう。
『A Sound Like Someone Trying Not to Make a Sound』にも夜中に家のどこかから聞こえる音に脅えるトムという子供が登場する。トムには2歳になる弟のティムがいる。トムはその音の正体を探して家を歩き回り、父親を起こす。父親はその音をネズミが走り回る音だと言う。トムは父親の言葉に安心して眠るが、その話を聞いた幼いティムは「ネズミ」というお化けが家のなかを這い回る姿を想像して眠れなくなってしまう。
絵を担当したのはタチャーナ・ハウプトマン。ヨーロッパで多くの絵本の絵を書いてきた画家だ。
アーヴィングがこの話をもとに絵本童話を出版してくれたことは読者にとってラッキーなことだといえる。アーヴィング自身、自分は童話作家ではないので、もう童話を書くつもりはないと語っている。この本が、アーヴィングが書く最初で最後の絵本童話になる可能性はとても高い。アーヴィングのファンや絵本童話が好きな人には絶対お勧めの本だ。