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『世界をよくする簡単な100の方法』斎藤槙(講談社)

世界をよくする簡単な100の方法

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「ひとりでポジティブに世界を変えていこう。」

 前回、紹介した「生きるための経済学」では、いまの市場経済は「死に魅入られた経済」によって形成されており、そこから脱出するため「生を肯定する経済」に転換されるべきであると説かれていた。その全貌は、近い将来、著者の安冨歩によって学問的に明らかにされるだろう。
 

 生を肯定するための経済は、すでに形をなして、現実の経済活動にインパクトを与えようとしている。

 そのきざしを、一般向けの平易な言葉で、ひとつひとつたどったのが本書「世界をよくする簡単な100の方法」。

 安冨の「生きるための経済学」のあとに、本書を読むと、「生を肯定する経済」は、死に魅入られた経済活動の隙間から止めることが出来ない勢いとして吹き上がっているように感じる。

 著者の斎藤槙氏は、米国ロサンジェルス在住の社会貢献コンサルタント。日米の社会貢献活動に詳しい第一人者だ。

 私は、この書籍「世界をよくする100の方法」という前向きなタイトルにちょっと抵抗があった。きれい事すぎるのではないか、と。その抵抗感をなくせるように、前書きではこう書かれている。

「世界をよくしたい」という気持を誰もがもっているものです。

でも、「世界をよくしたい」なんて声高に言うのは大仰すぎると萎縮したり、そんなことを言うのはかえって無責任だと感じる人がいるかもしれません。また、自分ひとりが何かしたからといって世界が変わるなんてありえない、と思うかもしれません。

 そんな謙遜や悲観は早計です。21世紀の今、テクノロジーの発達を受けて、「ひとり」の力が、これまでは考えられなかったほどに大きくなっているからです。

 この文章を読んで、顔にアザや傷のある当事者を支援するユニークフェイス活動を開始した1999年当時考えていたことを思い出した。

 いまとなっては恥ずかしい夢想であるが、ユニークフェイスという活動を着想したとき、こういう活動をしたいと思っていた。

 ひとりの少年(顔にアザがある)が学校でいじめられている。生命の危険を感じたとき少年は携帯電話を鳴らす。すると私のオフィス(NPO法人ユニークフェイス)に電話がつながり、1時間以内にレスキューチームが現場学校にヘリコプターで急行。私はヘリに乗って無線で部下に指示。黒いサングラス。ヘアスタイルは角刈り(「西部警察」のノリだ)。運動場の真ん中にヘリが着陸。私の部下たちがいじめている当事者たちを、非暴力的な手段(たとえば合気道)でばったばったとなぎ倒し、凶悪犯罪容疑者であればそのまま警察に引き渡す。子供にカウンセリングを提供。学校関係者にフォローアップを依頼。こうしてユニークフェイス当事者をいじめから救う。(現実には燃料代が高額すぎて無理だろう。レスキュー代金の請求書はどこにまわすのか? こういう夢想はハリウッド映画的ではあるが考えるだけでも楽しい)。

 これは与太話として、当事者同士がつながることはきわめて容易になった。それが21世紀である。

 1999年当時、国内でばらばらに孤立したユニークフェイス当事者をつなげるために、マスメディアによる報道と、インターネットによる情報環境の2つは強力な味方になってくれた。とくに後者についてはいくら感謝しても足りないほどだ。マスメディアの情報は単発的だが、インターネット情報は「ひとり」でも持続的に発信することが可能であり、しかもその発信コストは限りなくゼロに近い。

 いま、顔にアザや傷のある当事者で、「ユニークフェイス」という言葉を知らぬ人は、インターネットをしていない人だと思う。

 私は、このインターネットによる情報革命が進行していく中で、ユニークフェイスという社会貢献事業(ユニークフェイス当事者支援)を始めたのである。

 同時期に、私だけでなく、世界中で「ひとり」の力がたくましく成長していった。

 ユニークフェイス活動家である私は、その末席にいる一人にすきない。 

 私が興味をもったのは、Action50 「夫婦で社会貢献する」。カメラマンの八重樫信之さんとライターの村上絢子さんの夫婦が、ライフワークとしてハンセン病問題を取材しているという文章だった。

 斎藤氏の目線には、米国元大統領のビル・クリントンの設立したクリントン財団も、日本のハンセン病問題をライフワークにするジャーナリスト夫妻も、同じように世界をよくするためのチャレンジをする当事者なのである。

 この視野の広さ、鷹揚さが、これまでの社会貢献本にはなかった特色だと思う。

 社会貢献活動では、そのリーダーだけにスポットがあたりがち。その活動を知るだけ、関係する商品を購入するだけでも、世界をよくする行為につながっている。そのこともわかりやすく伝えている点もすばらしい。

 帯文もいい。

 「買うなら、よい会社の製品」、「食べるなら、スローフード」、「着るなら、エコファッション」、「洗濯するなら、重曹利用」、「ドライブなら、省エネ運転」、「旅するならエコツアー」、「チョコレートなら、フェアトレード」「泊まるなら、グリーンホテル」、「外食するなら、グリーンレストラン」

 きれい事かもしれないが、ひとつずつ続けることで、世界は変わる。資本主義が世界を悪くしたといくら言っても世界はよくならない。営利、非営利を問わず、普通の生活のなかから世界を変えていくことができる、と斎藤氏はポジティブなメッセージを発信している。

 本書を読んで、そのメッセージを受け止める人が増えて欲しい。

 

 私も世界をよくするために行動している。NPO法人ユニークフェイス以外ではジャーナリズムへの貢献があるだろうか。

 友人のジャーナリスト烏賀陽弘道氏が、(株)オリコン名誉毀損で訴えられた。烏賀陽氏を支援するためにこの問題について書き発表しつづけることは、「表現の自由」が尊重される社会を創るための社会貢献活動だと思っている。雑誌にコメントをしただけで、5000万円という高額な損害賠償請求の名誉毀損訴訟を起こされる! 司法もそれをよしとする。こんなとんでもない裁判が二度と起きないように、自分のできることをやっていく。

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