書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『Thriller: Stories to Keep You up All Night』James Patterson (Editor)(Mira Books)

Thriller: Stories to Keep You up All Night

→紀伊國屋書店で購入

「スリラー好きの人々・・・今宵はふるえて下さい」

 
 アメリカある「国際スリラー作家協会(ITW)」をご存知だろうか。

 二〇〇四年にアリゾナ州においてアメリカで初めてとなる、スリラー作家だけの会合が開かれた。この会議の最終日、主催者や作家たちからスリラー作家を束ねる組織を作ったらどうだろうという声が上がった。こうして出来上がった組織が「国際スリラー作家協会(ITW)」だ。

 

 アメリカでは、スリラー作家のための組織はこれまでに無く、組織の設立者たちは早速、多くのスリラー作家に入会を勧めるメールを送った。反応は素晴らしく、すでに四〇〇名を超えるメンバーがいる。ITWはすぐにウェブサイト(www.thrillerwriters.org)を立ち上げ、デラウェア州で正式な登記も済ませた。

 

 そのITWの企画によるスリラー・アンソロジーが、今回紹介する『Thriller』だ。バーンズ・アンド・ノーブルの資料によると、スリラー作品だけに限った短編集はこれまでなかったという。

 

 このアンソロジーには、ゲイル・リンズ、デニーズ・ハミルトン、ジョン・レスクワ、リー・チャイルド、デイヴィッド・マレル、マイケル・パーマーなどそうそうたるスリラー作家の作品32編収められている。ページ数はな〜んと600ページ近く。スリラー中毒者にはこの作品の多さが魅力だろう。

 この本のもうひとつの魅力は、人気作家であるジェームズ・パターソンが編集を担当していることだろう。

 32編は、すでに各作家の作品のなかで以前に一度登場した人物を主人公とするか、発表された物語を引き継ぐ形のストーリーとする、という枠のなかで書かれている。その結果、新たな短編といえども、ファンの読者にとっては、どこかで繋がりのある作品を読むことができる楽しみがある。

 また、すべての作品にはパターソンによる簡単な紹介文がつけられている。作家の経歴を含め、今回登場する主人公がどんな設定のなかで描かれてきたかを知らせてくれる彼の紹介文を読めば、すんなりと作品に入っていくことができる。かなり親切な本作りとなっている。パターソンさんご苦労様。

 ひとつの作品は15ページから20ページ程度なので、快適に読み進めていくことができる。

 リーガル・スリラー、メディカル・スリラー、ロマンティク・スリラー、政治スリラー、宗教スリラー、それに軍事スリラー。ありとあらゆるスリラー・ストーリーのなかで、誘拐が行なわれ、殺人事件が起き、脅迫が繰り返され、金が飛び交う。国際的な暗殺請負人を父に持った娘、嵐のフロリダで連続殺人犯と出会ってしまう夫婦、放火事件を起こし警察に追われる男が、途中で違う人間になりすます術を教えてもらう話など、どの物語もたまらなく面白い。

 「So prepare to be thrilled. And enjoy the experience(ではぞくぞくさせられる準備をして、物語を楽しんでください)」とパタースソは締めくくっている。

 2009年7月、ITWは僕が住むニューヨークでスリラー作家と出版界、それにファンが集う大きな催し「ThrillerFest 2009」を開催する。


→紀伊國屋書店で購入