『Hell’s Angel: The Life and Times of Sonny Barger and the Hell’s Angels Motorcycle Club』Ralph “Sonny” Barger(HarperCollins Children’s Books)
「ヘルズ・エンジェルズたちの軌跡」
僕はこれまでにアメリカ大陸を三度車で横断した。どの横断も約一週間で達成したので、早い方だと思う。この三度の横断が旅行や遊びではなく、すべて引っ越しだったので時間的に余裕がなかったのだ。
アメリカの文化のひとつに車文化というものがある。車で一日じゅうアメリカを移動していると、フリーウエイを走る自由さ、その日の長いドライブを終えモーテルに泊る時に込み上げてくる心細さと達成感の混じった感覚など、なかなか甘酸っぱい感情が味わえる。
アメリカにはオートバイ文化というのもある。モーターサイクル・クラブであるヘルズ・エンジェルズに代表される、車文化よりさらに自由で、危険で、個人のかかわり合いが強い、暴力的な文化だ。
残念ながらというか幸運にもというか、僕にはエンジェルズの友人はいない。しかしアメリカのバイク文化には前々から興味があった。エンジェルズは60年代、70年代はもちろんいまでもカウンターカルチャーの一核をなす集団だ。
そのクラブ名は、ローリング・ストーンズがアメリカツアーのあとにファンのためカリフォルニア州オルタモントで開いた野外フリーコンサートでの殺人事件で日本でも広く知られるようになったのではないかと思う。コンサートの群衆整理要員として雇われたエンジェルズのメンバーが、ストーンズが『アンダー・マイ・サム』を演奏するなか黒人青年を殺してしまったのだ。
この事件はラブとピースを唱えていたヒッピーたちに大きな衝撃を与えた。ヒッピー文化終焉の始りともいえる事件だった。この時のストーンズのアメリカツアーのことや当時の世相については、ツアーに同行したジャーナリスト、マイケル・ライドンの著作『Flashbacks』(ISBN: 9780415966443)に詳しい。
今回紹介するのはヒッピーの話ではなく、ヘルズ・エンジェルズの話だ。著作はエンジェルズのカリフォルニア州オークランド支部を設立し、クラブのリーダーとされていたラルフ・バーガー(通称ソニー・バーガー)が書いた『 Hell's Angel: The Life and Times of Sonny Barger and the Hell's Angels Motorcycle Club』。エンジェルズ創設期の出来事、文化、決まりなどが分かり、興味深い。
例えばエンジェルたちはみな自分が所属するクラブの地名が入ったパッチをジャケットの背の部分に縫い込んでいる。その他にも、どくろと翼をモチーフとしたヘルズ・エンジェルズのマークを縫い込んでいる。このマークはデス・ヘッドと呼ばれる。デス・ヘッドは誰でも勝手に付けられるものではなく、各メンバーの所属する支部から支給され、所有権はメンバーではなく支部に帰属している。
エンジェルズにとってデス・ヘッドはいかなる事態でも死守するもので、もし誰かがデス・ヘッドのついたジャケットを取られでもしたらその支部のメンバー全員で取り返しにでかける。エンジェルズのメンバーとなるためには、全員の賛成が必要で、反対がひとりの場合は、何故反対なのかを聞きもう一度投票をするが、反対が二票を超える時はどんな理由でもメンバーとなることができない。
また、メンバーとなる候補者はプロスペクトと呼ばれ、プロスペクトとなった者はクラブへの忠誠を示すために法に触れる行為もする、などというエンジェルズのルールをこの本で知った。
そのほか、この本にはエンジェルズと警察の戦いや、六〇年代の学生運動家とエンジェルズの関係なども書かれている。
ちなみにヘルズ・エンジェルズは正式な会社組織となっており、マークや名称などの著作権はすでに登録されている。
エンジェルズの支部はヨーロッパやオーストラリアにあるが、日本にはない。やはり人種のせいだろうか。
アメリカのバイク文化を知るにはいい本だ。