『The Inheritance : The World Obama Confronts and the Challenges to American Power』David E. Sanger(Harmony Books )
「オバマの受継いだアメリカ」
1月20日にオバマ氏がアメリカの新大統領に就任し、8年間続いたブッシュ政権が終わった。この8年間でアメリカと世界の状況は様変わりし、オバマ氏が受継ぐアメリカは、ブッシュ氏がクリントン大統領から受継いだアメリカと比べるととてつもなく大きな問題を抱えている。
今回紹介する本は、オバマ新大統領が直面する問題の大きさ、複雑さを書いた本『The Inheritance』。このタイトルとなっているInheritanceは英語で「相続財産」という意味。
書き手はニューヨーク・タイムズ紙で長年政治・経済の記事を手がけてきたデヴィッド・サンガー。サンガーはかつてニューヨーク・タイムズ紙東京支局の支局長も務めた経歴の持ち主だ。
ノンフィクションの書き方はいろいろあるが、この本でサンガーのとった手法は、テロリストに近い人間や街やストリートから情報を得るという形ではなく、アメリカ大統領、大統領の側近、政府の中枢にいる人物、それに世界のリーダーたちや彼らの補佐官たちのインタビューを通して現状を報告するというものだった。
内容は大きく6つに分かれている。その6つとは、イラン、アフガニスタン、パキスタン、北朝鮮、中国、そしてサイバーテロ、薬物テロ、核物質テロなどの脅威。本の最後の部分となる各テロの脅威の部分はあまりに短すぎて、その前の詳細で迫力のある、国に目を向けたレポートに比べると補足的な感がいなめない。
しかし、イランから中国までの各章は大変読み応えがある。本を貫いている姿勢は、ブッシュ政権が取ってきた「アメリカの力をもってすれば、アメリカだけの都合で世界を変えられる」という理論の批判だ。
特にチェイニー副大統領陣営とブッシュ大統領がイラク戦争を押し進めたため、アメリカは国家として非常に苦しく危険な状況に陥ったとしている。
イラクに手を焼いているあいだ、イランは核プログラムを大きく進め、パキスタンではアルカイダやタリバンが再び力をつけた。北朝鮮においては核実験をおこない(本当に核実験だったのからいまも議論の余地があるが)、中国はアフリカなどから石油供給ルートを確立させた。
この本を読むとイラク戦争の真の勝利者はイラン、パキスタン、北朝鮮、中国などの国々だと分かる。
「ブッシュにとって戦略の変更や敵との交渉は弱さを示す印だった」とサンガーは書いている。面子を保つためにアメリカが支払った代償は大きい。
ブッシュ政権下の8年間、それぞれの国がいかに動き、アメリカがいかに対応したか国家レベルの話としてよく見える本だった。