『Days of Atonement』Michael Gregorio(Griffin)
「厳冬のプロイセンを舞台にした歴史ミステリー」
2年ほど前、取材のためニューヨークにある注文で本の革装丁をやる店を訪れた。映画監督のマーチン・スコセッシからソビエト連邦最後の政治指導者だったゴルバチョフまでがこの店に本の革装丁を頼んだという。
僕はその店の地下でおこなわれていた装丁作業を見せてもらった。狭い作業所には革の表紙に模様をつける工具がところ狭しと並べらていて、古いもので18世紀頃のものもあった。
その中に蜂の紋章をつける工具があり、そこの店主に蜂の紋章はナポレオンが個人的に好んで使っていたものだと教わった。
店主によれば、労働を惜しまない蜂と自分の姿を重ね合わせたのだという。ナポレンはルイジアナをアメリカに売却した人物でもあるので、アメリカに住む僕には少し親しみを憶える人物だ。
今回読んだ本は、そのナポレオンが絶頂の時期を迎えていた頃のヨーロッパを舞台にした物語だった。
舞台となるのは1807年のプロイセン。1806年10月の「イエナの戦い」でフランスに敗北したプロイセンはフランスの占領下に置かれている。主人公で、哲学者カントから犯罪捜査を学んだ判事ハノ・シュティフェニースは、ある晩餐会でフランス軍大佐ラヴェドリンと犯罪捜査方法について議論を戦わす。
数日後、子供3人が殺害され母親が行方不明になる事件が起こり、ラヴェドリンはシュティフェニースとの共同捜査を提案する。
殺害された子供の父親が兵士として反仏運動の拠点地域にいるため、その地域へのフランス軍からの捜査を阻止するためにシュティフェニースは共同捜査に同意する。
これが大きな設定となり、この歴史スリラーは進んで行く。
シュティフェニースは単身父親の行方を捜査し、殺人事件の前にすでに父親が死んでいたことをつきとめる。不自然な死に方で、3人の子供と母親が行方不明となった事件の鍵は父親が死んだこの地にあると彼は確信する。
一方、ラヴェドリンは事件のあった家に事件を解く鍵が隠されているとし、家を捜査の中心に置く。地元の人々は事件はユダヤ人の仕業だと騒ぎ出す。
時にはカントの犯罪捜査手法を手助けにふたりは事件を解決しようと試みる。
厳冬のプロイセンを舞台に二転三転する謎解きは最後まで緊張の糸が切れない物語だった。