『The Help』Kathryn Stockett(G.P. Putnam’s Sons)
「60年代南部での白人と黒人の絆を描いた作品」
アメリカ国内でもボストンで大学時代を過ごし、ニューヨークで多くの時間を過ごした私にとって、アメリカ南部は「もうひとつのアメリカ」と言っていいほどの文化的距離感がある。
しかし、文学的にみるとアメリカ南部は優れた作家の宝庫だ。ウィリアム・フォークナー、バリー・ハナ、リチャード・フォード、そして私の好きなダン・ブラウン。人気作家ジョン・グリシャムも南部出身の作家だ。
南部の州のなかでもミシシッピ州は、泊まりがけで作家や編集者それに本屋の店主にインタビューをした土地だ。
その時の空気の重さ、熱さ、そして町の匂いをいまでも憶えている。
今回読んだのは、そのミシシッピ州ジャクソンを舞台とした小説「The Help」だ。時代は60年代初頭。60年代初頭というと、サンフランシスコやニューヨークではフラワー・パワーが台頭した時代だが、南部のこの街ではいまだ保守的な価値観が主流となっている。
物語は20代前半の白人女性スキーターと黒人のメイド、アイビリーンとミニーの語りで語られていく。
スキーターは作家になりたいという夢を持ち、ニューヨークの大手出版社に連絡を取る。彼女の就職の希望はもちろん断られるが、誰も書かない問題を書けという助言を受ける。
この返事をきっかけにスキーターは、白人家庭でメイドとして働く黒人女性たちがどういう気持で毎日を過ごしているかを聞き取り原稿にしようと決心する。彼女がこの決心をした理由のひとつは、幼い自分を育ててくれ、ある日突然彼女の前から姿を消した黒人メイド、コンスタンティンの存在があった。コンスタンティンは何故突然いなくなってしまったのか、またいかなる気持で自分を育ててくれていたのか、スキーターの心に解決できない謎が残っていた。
一方、スキーターの既婚白人女友達たちのグループは、衛生のためと称して黒人メイドは彼女たち家のなかでも黒人専用トイレを使わなくてはならないという規則を提案する。
そして、スキーターの原稿を手助けしてくれるのが、アイビリーンとミニーだ。もし、3人の関係が地元の白人に知れたら3人の生命さえ危うくなる。
白人家族と黒人メイドの間は、憎悪と愛情の微妙な関係が存在している。その感情を描くことによって、人種を越えた人間としての普遍的な感情を表すことに成功している優れた小説といえる。ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー・リストにも長期間入っている注目の作品だ。