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『Tokyo Vice : An American Reporter on the Police Beat in Japan』 Jake Adelstein(Pantheon Books )

Tokyo Vice : An American Reporter on the Police Beat in Japan

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「アメリカ人記者が追った日本の裏側世界」

 私は夜眠る時に、ラジオを聞きながらでないと眠れない。もう20年以上続いている習慣で、最近はポッドキャストで日本の放送も聞いているが、たいていは地元ニューヨークのラジオ局WNYCのトーク番組を聞いている。

 暗闇のなかでイヤフォンから流れるインタビュアーとゲストのやりとりを聞いているとだんだんと眠りの縁に近づいていく。

 10月の半ば、そうやってうとうとし始めた私の耳に「トキョー・ヴァイス」という言葉が聞こえてきた。その時、聞いていたのはブライアン・レーラーという司会者のトーク番組で、本を出版した作家をゲストに迎えることも多い。

 このトーク番組とレナード・ロペートの「The Leonard Lopate Show」は私の好きな番組で、最近はポッドキャスでも配信されている。夜または深夜にやるこれらの番組は昼間の再放送で、ポッドキャストのおかげでいつでも聞けるようになったのは大変うれしい。

ところで、日本に長く滞在しヤクザについての本を出した作家がゲストとなっていたその夜、残念ながらレーラーはそのゲストに対しては、上っ面な質問に終始していた。しかし、レーラーに不満を感じながらも、私はその本を買うことを決めた。

 それが今回紹介する「Tokyo Vice」。著者は93年から2005年まで読売新聞の記者を務めたジェーク・エーデルスタイン。

 彼はソフィア(上智大学)在学中に読売新聞社の試験を受け、正式に記者として採用され、最初は埼玉(ニュージャージー州と同じようなダサいイメージがあると著者は言っている)に配属された。しかし、その後、新宿歌舞伎町が彼の取材地域となる。

  

 本は大学時代に読売の入社試験を受けるところから始まり、読売新聞支社の様子や同僚、先輩記者の様子が時にはコミカルに描かれる。しかし、全体としては彼が事件を追うさまを描くハードボイルドな仕上がりの本となっている。

 この本の最大の面白さは、日本文化の裏側に外国人が奥深く入り込み、その様子を外国人の視点でレポートしているところだろう。法律では売春が禁止されている日本で、何故歌舞伎町のような場所が存在するのか。著者は、友人の外国人女性から話を聞き、東京でおこなわれている人身売買の調査を始める。また、六本木にたむろする外国人の世界も書いている。

 その一方で、日本の大物ヤクザが、アメリカ政府のブラックリストに載っているにもかかわらず、アメリカで肝臓移植手術を受けた。何故、そのヤクザがビザを取得でき、アメリカに渡ることができたのかを著者は調べ始める。

 「ゴトーはFBIに、山口組の組員、フロント企業、金融機関の包括的なリスト、それに北朝鮮の活動に関する情報の提供を約束した。その見返りにゴトーはアメリカのビザを要求した」

 肝臓移植手術を順番で待つ多くのアメリカ人を飛び越え、日本のヤクザが優先的に手術を受けたこの出来事はアメリカ大手テレビ局CBSのニュース・マガジン「60 Minutes」でも取り上げられ、エーデルスタイン自身も番組に登場している。

 鋭い調査と、文化の違い、そして人情や悲劇のやるせなさも味わえる本だ。


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