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『 Too Big to Fail : The inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the Financial System from Crisis---and Themselves』 Andrew Ross Sorkin(Viking )

 Too Big to Fail : The inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the Financial System from Crisis---and Themselves

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リーマン・ショックはどうやって起こったか」


 2008年3月、アメリカの大手投資銀行および証券会社のベア・スータンが資金繰りに行き詰まり、連邦準備制度理事会(FRD)が緊急の特別融資をおこなった。

 その週末にはJPモルガン・チェースによるベア・スータンの買収が発表された。僕を含めた多くの人にとっては、この買収劇がアメリカ金融市場がおかしなことになっていると気づくきっかけになったに違いない。

 問題はアメリカの金融機関がおこなったサブ・プライムローンにあった。住宅の値段は上がるという憶測のもと、返済能力以上の住宅ローンを多くの人に勧め組ませたのだ。頭金もいらず、最初の数年間は低い金利に対する支払いをするという条件で家が買えた。その数年間に家の値段はあがり、金利が上昇する前に家を売り、あがった分が儲けとなるというもくろみだった。

しかし2006年に住宅バブルがはじけ、家の価格は購入時の値段より低いものとなり、当然のことながらローンの支払いができなくなった。

 まあ、これだけならアメリカ国内だけの問題だが、ウォール街の金融機関は、サブ・プライムローンを証券化し世界の金融機関や機関投資家に売りまくっていた。

 そして、9月リーマン・ブラザースが破綻。これにより、世界の金融機関は手持ちの不動産に連動した金融資産にいったいくらの価値があるか実体を把握することができなくなり、パニック状態に陥った。

 前置きが長くなったが、今回紹介する本はこのリーマン・ブラザースや他の金融機関が倒れあるいは買収されていった内幕を時系列に追ったノンフィクションだ。

 著者は経済ジャーナリストとして定評のあるアンドリュー・ロス・ソーキン。彼が今回の金融危機に直接関わった200人を超える人物からインタビューをとり書き上げた力作だ。

 登場人物は当時のニューヨーク連銀総裁ガイトナー(現財務長官)、当時の財務長官ポールソン,FDR議長バーナンキー、ゴールドマン・サックス幹部、リーマン・ブラザース幹部、AIG幹部、JPモルガン・チェース幹部、バンク・オブ・アメリカ幹部、メリル・リンチ幹部、シティ・グループ幹部、数多くの弁護士、連邦および州政府のキーマンたち、証券取引委員会幹部などで、彼らがいかに一連の金融危機に対峙したかが手に取るように分かる。

 それぞれのもくろみがぶつかりあり、まるでミステリーを読んでいるような迫力に溢れている。

 著者がインタビューをした幹部の1人は「This was history in the making.(これは歴史が作られていた時だ)」と語っている。

 著者の取材に協力した多くの人物たちもやはり同じ気持だったに違いない。そして、その歴史を残すために著者は書き、人々は語った。その記録がこの一冊だ。

 ノンフィクションであるために、登場する人物の言動が劇的に書かれてあり、まるで彼らが難局に立ち向かうヒーローであるかのような錯覚に陥る。しかし、普通の人々にとって彼らは加害者組である。事実を客観的に捉えようとした著者の意識は感じるが、少し登場人物よりだと感じられた作品でもあった。


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