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『 I Am Ozzy 』 Ozzy Osbourne, Chris Ayres(Grand Central)

 I Am Ozzy

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オジー・オズボーンの回想録」

 
 ニューヨークのアパートのカウチに寝転び、チャンネルサーフィングをしていると、画面にオジー・オズボーンが彼の息子と一緒に現れた。これはMTVが企画したリアリティ・ショー番組で、オズボーン一家の日常にカメラが入り込み、日々の生活を放映するというもの。番組のタイトルは「ジ・オスボーンズ」。

 アメリカにはドナルド・トランプが参加者に課題を与えて、出来の悪い奴を次々と首にしていく「ジ・アプレンティス」や、親が自分の子供に新しい相手を紹介し、気に入らない今の子供の相手と別れさせようとさせる「ピアレンタル・コントロール」などがあるが、基本的に政治番組と既に観た映画の再放送(筋を追わなくてもいいから楽)しか観ない僕は、「ジ・オズボーンズ」も5分くらいでチャンネルを変えることになる。

 僕が初めてオジー・オズボーンを聞いたのは、新宿にあった「ソール・イート」という店だった。店の2階にある大きなスピーカーから、ブラック・サバスのファースト・アルバム「黒い安息日」が流れてきて、僕はその歯切れのよいリズムに酔いしれた。

 この店でいろいろな曲を聞いた。ジャニス・ジョプリンの「コズミック・ブルースを歌う」やイッツ・ア・ビューティフル・デイ(ここで聞くホワイトバードは素晴しかった)などがあった。

 ジャニスの「コズミック・ブルース」はすぐに買ったが、「黒い安息日」は買わなかった。フラワーチルドレンに憧れていた僕にとっては、ブラック・サバスは少しハード過ぎたのだと思う。

 その後、デルターブルースやシカゴブルースに惹かれ、サザンロックやスタックス系の音を求めていくことになるので、ブラック・サバスAC/DCクワイエット・ライオットなどはラジオなどで聞くことはあっても、アルバムを買うことはなかった。

 そして今回読んだのが、オジー・オズボーンの回想録「I AM OZZY」。

 オジー・オズボーンの子供の頃から、バンド生活、最近の「ジ・オズボーンズ」で発見した新たな名声までが書かれている。

 オジー・オズボーンは1948年、イギリス・バーミンガムのアストンで生まれた。彼の回想によると、ドイツから激しい空爆を受けたアストンには爆撃で壊れたビルがあちこちにあり、子供たちはそんな「ボンブ・ビルディング・サイト(爆撃を受けたビル跡)」で遊んでいたという。彼は長い間、プレーグラウンド(子供の遊び場)のことをこう呼ぶのだと思っていたという。

 高校が嫌いだった彼は学校に行くのを止め、工場で働きだすが、何をやってもすぐに首になる。唯一続いたのは、屠殺場で豚や牛を殺す仕事だった。しかし、ここも同僚と殴り合いの喧嘩となり、首となってしまう。

 ここを首になったあと、彼は酒代欲しさに盗みを繰り返すが、警察に捕まり刑務所に送られる。髪を長くしていた彼は、刑務所で嫌な体験をしたようで、なにがあっても、もう2度と刑務所には入りたくないと決心する。

 ミュージシャンになることを夢みていた彼は「経験あるフロントマン。自分のPAシステムを所有。ギグが必要」という旨のチラシをリングウェイ・ミュージックというミュージックショップのウンドーに貼り出す。これがきっかけで、トニー・アイオミ、ビル・ワード、ギザー・バトラーなどとバンドを結成し、このバンドが後のブラック・サバスとなる。

 こうもりの首食いちぎり事件や、鳩の首食いちぎり事件、アラモ小便事件など話題にはこと欠かないオジー・オジボーンだが、この回想録を読むと、彼が確かに変な奴だと分かる。

 車の免許を取ろうと何度も試験を受けても落ちてしまう。彼が言うには、それは試験に怯えてしまうせいだと言う。この怯えを取り除くために彼は酒を飲んで試験に挑戦する。しかし、それでも受からず、今度は試験を受ける車のせいだと思う。彼はベンツで試験を受け、次にジャガーを使う。 しかし12気筒のジャガーは彼がアクセルペダルに足を乗せるたびに急発進してしまう。最終的にロースルロイスで車の試験を受けるが、それでも落ちてしまう。

 しばらくの間、無免許で車を運転していたが、捕まることを恐れた彼は、馬を持つことにする。この辺が彼のおかしなところだ。カウボーイハットをかぶり、革のシャツを着て「ローハイド」のテーマ曲を口ずさみながら馬に乗っていたが、トラックの音に驚いた馬が暴走してしまう。彼が「止まれ」と大声で馬に命令すると、馬は命令通りに止まるが、その止まり方が急だったため、彼は振り落とされて牛の糞の上に着地してしまう。結局、彼は馬もあきらめることになる。

 また、2人目で現在の妻であるシャロンとは何度も婚約をする。結婚を決めると、どちらかがあとで気を変えてやはり結婚をしないこととなるが、その後でまた婚約をする。ふたりはそんなことを繰り返す。何度か目の結婚の約束をしたあと、ある事件が起きる。それは彼が24時間酔っぱらい続けたあとのことだった。徒歩で家に戻る途中、墓地の横を通ると綺麗な花が手向けてある墓を見つけた。彼はその花を盗み、シャロンに渡した。シャロンは感激し花を受取り「とても優しいのね。カードもついてるし」と言う。彼には何のカードのことだか分からない。シャロンがそのカードを開けると「私たちの愛するハリーの美しい思い出に」というメッセージがあった。結婚話はもちろんこれでまたおじゃんになる。ふたりが結婚するまでに、彼は合計で17回プロポーズをしたと言う。

 そのほかにもアメリカツアーの話や、マネジャーや音楽業界の話などはちゃめちゃな話が多い。しかし、オジー・オズボーンは確かにおかしな奴だが、ある意味ではまともだ。自分は有名になったが、ある日目覚めて、全部が夢だったと言われる気がするという不安感をどこかに持っているし、人を本当に憎むということはしない。

 ハハハハと大笑いさせられ、時にはしんみりとさせられ、大きく言えば人間性と人生を考えさせられるよい本だ。


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